第15片 解いた手
私が言った言葉に彼は混乱しているようだった。
「は?カナダ?なんで?俺たち、もう会えなくなるのか?」
「そんな大袈裟な。10ヶ月じゃない」
「でも、10ヶ月って、なんで急に。俺にも相談しろよ!」
今度は少し怒ったように彼は頭を抱えた。忙しくなっても毎週金曜日は一緒に登校しており、この機会を使って先日留学が決まったことを報告していたのだ。
「はあ……ちょっと今日、俺授業切るわ」
「え、ちょっと?」
彼は私との手を解き図書館の方に歩き始めた。彼の手を掴み損ねた私の手は空を摑んだ。心が離れていく、そう感じた。
結局1限は一人で受け、2限目は友人らと合流した。
「よー!!って、浮かない顔してんな。どうした」
友人の彼が隣をバシバシと叩きながら笑っていたが、私の落ち込んだ表情を見て急に心配そうに覗き込んできた。
「うーん、ちょっとね」
「ここでは話しづらそうだな。ま、あれだ。今日飲むときに聞くし、な?」
ポンポンと頭を撫でられ、ふと涙が溢れてきた。涙を見ても隣の彼は驚かない。見たこともないくらい優しい顔で私の涙を指で拭った。
「泣くな。笑っててくれよ。涙は似合わない」
「なに、そのクサい台詞」
私がふっと吹き出すと彼は頭を掻きながら「一度言ってみたかったんだって!!」と笑い飛ばした。いつもそうだ。やはり、彼には太陽という言葉が似合う。私の涙さえも乾かしてしまう。
「おはよー!!」
ちょうど涙を吹き終えたタイミングでもう一人の友人が現れた。荷物を退け、彼女のための席を用意する。「ありがとね」彼女はそう言ってそこへ腰掛けたところで授業が始まった。
授業が始まっても、彼のことで頭がいっぱいだった。本当は彼と並びたくて、決めたことだったのに彼は理由も聞かずに怒ってしまった。喜んで欲しかったのに。お互いに夢を追いかけようって笑って欲しかったのに。どうしてこうなったんだろう?そればかりが私の頭の中をぐるぐる回っていた。そんな私の様子を友人は黙って見ていた。
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