第13片 青薔薇
公園でゆったりしている間に近くのビストロを予約した私たちは頃合いを見てそこへ向かった。雰囲気はあるのにリーズナブル、学生のデートのために存在しているとしか思えないくらいぴったりな店だった。
「いらっしゃいませ」
ビシッとベストを着こなした男性にテーブル席へ案内された。そこは窓から外を一望できる良いポジションだった。日曜の夜なのにここで食事をできるとは相当に運が良かったのだろう。席について荷物を置いた頃合いを見計らって先ほどのウェイターがメニューとお冷やを同時に運んできた。それぞれコース料理を選び、その後は他愛もない話に興じた。
メインディッシュを終えたところで私はトイレへ行くと嘘をつき、お金を化粧ポーチに忍ばせてビストロを後にした。先ほど見つけた公園近くの花屋へと走った。花屋は閉店準備を始めるところだった。
「あの、すみません!」
私はあがった息を抑えようとしながら、青薔薇を指して言った。
「これを9本ください」
店員さんは一瞬驚いた顔したがすぐに笑みを見せてくれた。
「かしこまりました。ラッピングはどうなさいますか?」
「透明なのにリボンなど簡易なもので結構です。閉店間際にすみません」
「いいえ、とんでもない」
店員さんは手早くラッピングをしてくれると私に花を差し出した。
「ありがとうございます」
お代を払った私はまた走ってビストロへと戻った。一度トイレに入り、乱れた息と化粧を直してスマホで時間を確認する。8分経過…我ながらなかなかな苦行をこなした自信がある。
「お待たせ」
私は青薔薇を背中に隠しながら、席へと近づいた。彼はスマホを見ていた手を止めて「おかえり」と言うだけでさほど気にした様子もなかった。その様子に安心した私は彼の目の前に青薔薇の花束を差し出した。
「じゃーん」
「え?どうしたんだ、これ?」
「お祝い」
私がえへへと笑うと彼は驚いた顔から一気に明るい顔になった。
「ありがとう!彼女から花束を貰うのは初めてだ」
「このご時世、花束を贈るのは男女関係ないんですよー」
「それもそうだ」
彼はそう言って青薔薇の匂いを嗅いだ。
「いい香り」
「気に入ってくれて良かった」
私がにこにこと微笑んでいるとちょうど良いタイミングでデザートが運ばれてきた。サプライズはどうやら成功したようだ。
デザートを食べたあとは真っ直ぐ駅へ向かい、お別れのキスをして別れた。
青薔薇の花言葉には「夢叶う」という意味がある。
9本渡すことにより、「あなたを想う」と共に「あなたの夢が叶うようにいつも応援している」そんな意味が加わるそうだ。
彼がその意味に気づきますように、そんなことを思いながら去っていく彼の背中を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます