第12片 プラネタリウム

 13時開演のチケットを購入していた私たちはそれより15分前に会場入りしていた。辺りを見渡すとカップルから家族連れまで様々な人が入り混じっていた。


「プラネタリウム10年ぶりくらいに来たよ、私」

「俺は初めて」

「え!?」

隣に座って上を見上げたままの彼が呟く。

「そもそも星をそんなに意識したことがないからなあ」

「そうなんだ」

「よく星は見るの?」

彼がこちらに視線をやりながら尋ねてきた。私も視線を返しながら答えた。

「結構」

「そっか」

彼が私の右手を少し強く握った気がした。何かを言わなければならない、そんな気はするのに何を言えばいいのかわからない。悶々とした時間を過ごしていると、やがて辺りが暗くなり、天井にキラキラと「星」が輝き始めた。どうやらもう13時を迎えたようだった。


 ガイドの心地よい声と美しい星たちに囲まれている瞬間は心地が良かった。うっとりと見とれている間に全て終了し、一気に辺りが明るくなった。夢から一気に現実へと引き戻される、そんな感覚を覚えた。

「良かった。凄い綺麗だった!初めてのプラネタリウムの感想は?」

「星、今夜見てみたいと思った」

「いいね」

幸せな気分で会場の外に出ると目の前には噴水のある大きな公園が広がっていた。少し離れた場所には花屋も見受けられた。子供達が楽しそうに噴水の周りを駆け回っている。もうすぐ冬の訪れが近いせいか、誰も噴水の水には手を出そうとはしないが。

「噴水ってさ、不思議だよな」

「いきなりどうしたの?」

「だって、全く日本の文化に馴染めてないじゃん」

「そう?」

私は改めて噴水を見てみたが馴染めていない、とは何のことを指しているのかよくわからなかった。

「シンメトリーにこだわったり、高さにこだわったり、そういうの日本に合わないと俺は思うんだ」

彼はじっと噴水を見つめながら言った。

「あ、ごめん。俺何言ってんだろ。今の気にしないでくれていいから」

「え?うん、わかった」

頭を掻きながら噴水を背にして座る彼を私はじっと見つめていた。きっと彼の中には西欧に対する羨望と嫉妬、そういった類のものが渦巻いているのだろう。私は適当にそう結論づけて彼の隣に腰掛けたのだった。

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