第11片 ブランチ

 今日は久々の丸一日デートだ。普段は大学終わりに行ったりするため、丸一日デートに費やすことは案外少ない。

「ごめん、お待たせ」

私が少し遅れて待ち合わせに到着すると、彼は既に柱に凭れ掛かりながらスマホを弄っていた。

「ん、おはよ。今日のワンピース可愛いじゃん」

「へへ、ありがとう。この間買ったの」

「へえ。どこで?」

「えーとね、これは確か……」

他愛もない話をしながら歩き始めた。今日の目的はプラネタリウムだが、開場までに時間があるのでそれまではブランチして適当に楽しむことにしている。


「すっごいここに来るの楽しみにしてたの!いっつも並んでるし」

私が興奮気味に言うと、彼は少し呆れたように笑った。

「女子って本当こういうの好きだよなあ」

店員さんに配られたメニュー表を見ながら言う。

「自分だってさっきバッチリホットケーキ見ながら旨そうって言ってたじゃん」

「あーそれは言わないお約束だろ」

クスクス笑いながら待っていると、あっという間に順番が回ってきた。

店内に案内されると、女性客もしくはカップルばかりで、今話題と謳われているカフェなだけあるなと二人で感心していたのだった。


「……ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「それではメニューをお下げいたします」

店員さんがそう言ってメニュー表を持って下がる。私はブランチセット、彼は定番のホットケーキセットを頼んだ。

「そういえば、言ってなかったことがあるんだけど」

彼が水を少し飲んでから話し始めた。

「うん、なに?」

少し緊張で指先が強張った。

「これからさ、ゼミの関係で忙しくなりそうなんだ」

「ゼミって……え?あれって3年から始まるんじゃ?」

「普通そうなんだけどさ、教授がこの前の夏に提出したレポートを高く評価してくれて、今からでも来ないかって勧誘してくれたんだ」

「そっかあ。高く評価されたの凄いね!」

私が笑うと彼も嬉しそうにはにかんだ。本当に嬉しいんだなと実感した。

「いつから始まるの?」

「11月から入る予定。10月は俺の履修登録とか色々あったからさ」

「なら、もう来週じゃん!今日お祝いしないと」

「お祝いって何のお祝いだよ」

「エリート街道への道?まあ、何でもいいじゃん。お祝いはお祝いよ」

「何だよそれ」

彼は可笑しそうに笑う。

「だったら、夜も何か良いもの食わないとな」

「それ、いい!そうしよ?」

私たちが夜何を食べるかで盛り上がっていると店員さんがホットケーキセットを運んできた。

「冷めちゃうから先に食べていいよ」

「悪いな。いただきます」

彼はそう言って、ホットケーキに切り込みを入れると一欠片をフォークに刺し、私の方へと差し出した。

「ほら」

大人しく私が口を開けると、ホットケーキが口の中に入ってきた。バターの味がふわっとして、後から蜂蜜の香りが鼻から抜けていくのがわかる。

「美味しい……」

感動のあまり、表情を失っているとまた彼が大袈裟だなと笑った。本当に美味しいのだから仕方がない。じっくりと口の中のホットケーキを味わっていると私のブランチセットが運ばれてきた。ブランチセットはフレンチトーストだ。

「はい!」

私もフレンチトーストを一口大に切り、彼の口元まで運ぶ。私がフォークを差し出している腕を掴んで彼は食べた。

「あ、これも旨い。さすが話題になってるだけあるな」


二人とも料理を褒めちぎって、あっという間に完食した。

その後は食後のコーヒーと紅茶を楽しみ、店を後にしたのは正午を少し過ぎた頃だった。


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