第7片 歌舞伎揚げ

 少し時間をずらしたせいか、人が若干だけ少なく感じた。本当に若干だけ。

「席、全然ねえな」

彼がごちる。

「購買でなんか買って外で食べる?」

小春日和にはちょうどよいだろう、そう思っての提案だった。

「お、それいいな。なら購買行こうぜ」

二人はそうして人並みを縫うように購買へ向かい、適当にサンドイッチやジュースなどを購入した。


「歌舞伎揚げって……色気無さすぎんだろ」

ベンチに腰掛けながら彼がお腹を抱えて大笑いする。確かに彼氏の前で食べるべき代物ではないことは重々承知だ。しかし、人間は欲求に逆らえないものだ。

「美味しいからいいんですー。要らないの?」

「要る」

私が袋の口を差し出すと素直にそこへ手を突っ込む彼。なんだ従順じゃない、そんなことを思いながら微笑む。

ぼりぼりと良い音をさせながら彼は感嘆の声をあげる。

「久々に食うとうまいな」

「でしょ」

私が満足げに笑いながらもう一枚、と歌舞伎揚げを手にとって頬張る。すると、彼の手が口元に伸びてきた。彼の指が口角あたりの何かーおそらく歌舞伎揚げのかすーを手に取り彼の口へと放り込んだ。その際に唇を掠めていったのだが、これは故意的か恣意的か。

「ついてたから」

「なんだか言い訳みたいね」

「実際言い訳だし」

そっぽを向いて答える彼に顔が赤くならないわけがなかった。

「言い訳なんてしなくてもいいのに」

「あーーしんどい。可愛いな。殺す気かよ」

顔を手で覆い身悶えている彼の肩をぽんぽんと叩きながら「これがあなたの彼女さんですよー」と冗談気味に言う。

「俺の寿命はどんどん縮まる一方だな」

どこか遠い目をした彼がそう言った。

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