第5片 隣の席

 授業が終わり、それぞれの教室へ分かれる。彼が名残惜しそうに何度か私の方を振り返ってきたのが可愛く思えた。きっとそれほどに私も「重症」なのだ。


 2限目の教室に入ると、私の友人が待ち受けていた。

「やっほー。席取ってあるよ」

「おはよう。ありがとう」

友人が荷物を避けた場所に座っていると、また別の友人がやってきた。

「はよ」

「おはよー」

友人が気の抜けた声で言う。

「寝癖ついてる」

私が笑いながら指摘する。

「あー今日寝坊してさ。1限お蔭で切ったわ」

「あんた、あと1回しか休めない言ってたじゃん。大丈夫なの?」

「これから毎週行くんで!」

きらきらと効果音がつきそうなほどの爽やかな笑顔で彼は言いながら私の隣に腰掛けた。それと同時に教授が入室し、授業が始まった。


「なあ」

「うん?」

私は板書しながら耳だけ傾ける。聞き逃してしまいそうなほど小さな声だ。

「アイツとはどうなんだよ。うまくいってんのか」

アイツとは私の彼氏のことだろう。

「うん、それなりに」

「それなりに、ねぇ」

友人はニヤニヤしながら言う。

「なによ」

「いや、アイツの惚気からしてお熱いのかなーと」

「彼はほんとに…」

私が少し呆れながら苦笑いすると友人が体を寄せてきた。

「ま、何かあれば俺に言えよ?なんとかするし」

「あーうん。その時になればお願いするかも」

彼はその回答に満足したようで、顔が見えなくてもわかるくらい上機嫌になって体を戻した。

「ねえ」

今度は反対側から声を掛けられる。

「今日3人でご飯行こうよ」

「夜?」

「聞いてみるね」

私がペンでトントンと合図をするとすぐに気づいた。

「彼女が今日の夜、私とあなたの3人でご飯行きたいらしいんだけど。」

「行く!お前も来るんだろ」

「うん」

「なら決まり」

彼が白い歯を見せて笑う。私はそれを見てくすりと笑ったあと彼女に「OK」とだけ伝えた。彼女は頬を染めながら「ありがとう」と呟いた。薄々気づいている。彼女が私の隣に座っている彼のことが好きなことを。今日、お節介を焼こう。私はそう心に決め、スマホを取り出した。某SNSアプリを立ち上げ彼氏のアカウントを呼び出す。


ーーー

私「彼氏さん」

彼「何」

私「今日、2限を一緒に受けてる3人と」

「夜ご飯行くことになったんだけど」

彼「うん」

私「私の友人がもう一人の友人のことを」

「好きなので協力しようと思い、」

「20時頃にお迎え来ていただけませんか」

彼「行く」

「また店決まったら連絡して」

私「うん」

「ありがとう」

ーーー


くまの可愛らしいスタンプで締めくくり、会話はそこで終わった。そして「では、次回は愛とは何かから始めます。お疲れ様でした」という教授の声がちょうど聞こえた。友人たちが鞄にレジュメとルーズリーフを適当に詰め込み立ち上がる。

「飯食おうぜ」

「あ、ごめん。私図書館に返す本あるから二人で食べちゃって」

私は本を見せながらそう言い終えると、そそくさとその場をあとにした。

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