第3片 ホーム

 居酒屋を後にしたのは23時少し手前だったように思う。駅近なのをいいことに二人でゆっくり食べながら話に花を咲かせていた。


「反対方面だね」

ホームに降り立ち、番線の表示を見上げながら何となく言う。すると彼も同じ所を見つめながら「ああ」と言った。少し寂しげに聞こえたのは私がそうであってほしいと願ったからだろうか。

「間もなく1番線に電車が参ります…」

「あ、私のが先に来た」

電車がホームに入ってくるのがわかる。私と彼は向き合った。

「今日はありがとう」

「こちらこそ。急な誘いに応えてくれてありがとう」

「映画は面白かったし、夜ご飯も楽しかった」

「うん」

「それから…」

私の後ろで電車が到着したのか、彼の視線が私の後ろへと向いた。

「好きだよ」

私はそう言った後、背伸びして彼の頬に軽くキスをし逃げるように電車に飛び込んだ。彼は私の腕をすぐさま掴もうとしたが、空を切るのみだった。彼が唇を噛んで悔しそうにしている表情が窓越しに見えた。「し、か、え、し」と口パクで笑いながら言うと彼が「お、ぼ、え、て、ろ」と返してきたのがわかった。そこで電車が完全にホームを走り去ったためそれ以上はわからない。彼の姿が見えなくなってすぐにLINEが来た。予想通り彼からだった。


「明日家まで迎えにいくからな」


私に拒否権はないのか。そんなことはとても言えなかった。

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