第2話 始まりは850円
「そろそろバイト決めなきゃ」
大学に入学してまず決断したことがこれだ。
大学生になると、合コンやサークル、
勉強と、充実した日々が待っている!!
というのが極わずかな確率でしか起こり
えないと気づいたのが4月末。
ろくに人と話をせずに過ごしてきた自分に、
そんな華やかな日々は訪れるはずもない。
そう悟るのに時間はかからなかった。
サークルって、部費がかかるんだね。
知らなかったよ。
ということで、興味のあったコーラス部も
かっこよく見えた軽音部も、結局僕とは
無縁の存在になってしまった。
話を戻すけど、実は僕はバイト未経験だ。
一体なんのバイトをすればいいんだろう?
やっぱりコンビニ?それとも飲食店?
バイトを始めるために何すりゃいいのよ?
とりあえず、「まち労働」でアルバイトを
探してみるか。
────数日後
決まらない。
悩むぜ。
お金を稼げるバイトにするか、
自分のやりたいことを選ぶか、
どうしようか。
────コンコンッ
自室のドアをノックする音が聞こえた。
「なに?」
「ねぇ、こんなの貰ったんだけどいる?」
母だ。
「雑誌?」
「なんか駅でもらった」
「ふーん。ありがとう。」
と返すと何も言わずに部屋を出ていった。
相変わらず、うまくいかないな。
いつからこうだっけかな。
なんて思いつつ、もらった雑誌を開いた。
そこからは早かった。
気がつけば、すぐメールを送って、
電話が来て、面接をして────
5月上旬、僕はバイトが決まった。
今日は初日だ。
「行ってきます」
誰もいない空間に向かって言葉を浪費して
少しだけ緊張しながら家を出た。
片付いていない部屋の、机の上にある雑誌
中にはこう書いてあった
「私達と一緒に、コンサートのお仕事を!」
僕の「おんがく」の始まりは
850円からだった
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