行間
「……イルナ様って、悪役だったんですね」
時は現在に戻る。
ヴィーナは途中まで聞いたその話の率直な感想を述べた。
「まあ、昔の話だしな」
イルナは素っ気なく言いつつも過去の黒歴史のようなものを思い出してしまって少し頬を染めていた。
二人はさっきいた店からはもう出て外を歩いていた。もちろんヴァースのところへ向かっているのだ。
「でも、いやに三人称な視点でしたが。イルナ様は千里眼の持ち主なのですか?」
「そんなわけがなかろう。後日談だよ、妾もあの時のことは反省してな、他人からの視点を教えてもらったのだ」
夜の街を歩く二人はまもなく国の中心部についた。
「妾の予測が正しければここだな」
迷いもなくイルナは歩く。一度魔術を逆探知しただけでここまで細かい居場所がわかるのは彼女の才能を色濃く示していた。
「で、です。ヴァース様が死んじゃいましたけど、それって過去の話ですよね? 私が会ったのは亡霊だったのでしょうか」
「あー心配せずともよい。あの男の『死ぬ』はそなたが思っている『死ぬ』とちと違う。そんなわけで安心せい」
鼻歌でも歌いそうな気軽さで言い切ったイルナはふと立ち止まった。
「……ふむ。ヴィーナ、ここから刑務所に向かうがそなたは行くか?」
「なんでそんなこと聞くんです?」
「……あのな。刑務所なんだから監視の一人や二人いるだろう。そなたはそれをかいくぐる術を持っているのか?」
「あ、えっと……実は私も魔術使えるんです。『透明化』すれば大丈夫だと」
「それ難易度高いやつだろ。そんなものが使えてなんで奴隷になんてなっていたのだ?」
「あ、いや……それは説明がしがたいというか……」
「……まあよい。『透明化』ができるなら心配はなかろう。このまま突入するぞ」
あまり気が乗っていないところを問い詰めるのは不粋に思ったのだろう。イルナは唐突にふわっ、と存在が消えたように見えなくなった。
「わわっ」
それに急かされるようにヴィーナも透明化した。こちらはただ見えなくなる、といった風だ。
「では、合流するまでの暇つぶしがてら話を続けるとするか」
刑務所の間近まで来てイルナは話し始めた。入口付近には警備がいるのに、である。
「え、でも目の前に強そうな人いますけど」
それがヴィーナには不安だった。今だってヴィーナの今の声を聞いて警備が首を振り不思議がっている。
「そなたはしゃべらん方がいいだろう。だがな、妾は特定の者のみに声を届かせることができるのだ」
「そ、そうな」
透明になるだけのヴィーナがまたしゃべろうとしたところをイルナが口を塞ぐことによって阻止する。といっても、どちらも透明になっているのでそれを知る術はないが。
「馬鹿者、そなたは聞こえると言うているだろう」
透明なのでよくわからないがきっとイルナ姉さんが初々しさ満載のヴィーナを後ろから抱き抱えて警備の横を素通りする。
やがて安全(?)な牢屋が立ち並ぶフロアに出るとイルナが口を開く。
「さて。妾の予測が正しければヴァースはどうせろくなことになっていないのだろうな。そこでヴィーナ、そなたに説明が必要なのだ。ヴァースの色々な特異性について、な」
ヴィーナが質問を挟むのを制すようにイルナは続ける。
「まあ、まずは最初の特異性から。これは妾がたしかにヴァースを死に至らしめたあとの話だ――」
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