逆ホラー?

破滅希

第1話 バス停留所にて

 最近、とある田舎町のバス停留所でこの様な話が出回っている。


 そのバス停留所の周りには人気が少なく、家屋も数十メートル先にちらほらとあるほどの田舎だ。代わりに自然が豊かではある。ただ、電車に乗るのにもこのバスを利用しないとこの周辺に住む人にとってはかなりの距離を歩かなければならない。


 夜中深夜0時頃、そんな田舎のバス停留場を通る者が誰もいないはずのバス停留所のバスの中に灯りとその中に人影を最近よく目にすると言う。


 その時間帯は既に、そこのバス会社も運行を終了し、従業員も普段は帰っており、その周辺には数少ない街灯しか明かりはなかった。



(最悪だ。残業でかなり遅くなってしまった)

 残業で疲れて帰るサラリーマンの男にバスで行く距離を歩くという、厳しい現実が男の体力を更に奪う。瞼くも重たくなり、肩で息をする程疲れてきた。

この様な疲れた状態でバス停留所の横を通って家に帰るわけだが、男に取ってバス停留所はもうじき自宅に着くという目印的な位置にあり、あと10分もしない内に家にたどり着ける。その十分が非常に辛いわけだが。


(ん?)

そんなバス停留所を見ながら横切っていると普段と違う所がある事に気付く。停留しているバス、道沿いの一台の中、後部座席付近に薄っすらと灯がともっているのだ。最初は、仕事疲れ過ぎて見間違いかとも思ったが、良く見てみると、その灯りに人の影が動いて見え隠れしている。


(これが、噂の奴か・・・。しかし、この会社は不審者の対応をしないのか?知らないはずはないと思うが・・・)


 田舎町で噂もすぐに広まるだけでなく、通報もしているはずだ。家の隣(数メートル離れているが)の人物も見たと言って、連絡したと言っていた事から会社が知らないわけがない。


(何か理由があるのか?それとも噂の奴ではなく、会社の人間が見張っていて偶々、何かを見る為に灯りと付けたのか?)

 色々と考える。


 男は、学生時代柔道で主将もしていた事があり、そこいらの者より強いという自負があり、仮にナイフを持った強盗の類だろうと素人相手なら倒せる自信もあった。


「ちょっと確認してやるか」

 少し気合を入れる意味でも小声で声を出す。


 金網のフェンスで囲いはされてはいるものの、少し登れば簡単に越える事が出来てしまう程のものだった。


 音を立てないように忍び足でバスに近寄る。


 確かに誰かいる。灯りの人影が落ち何かしている。


 フェンスの直ぐ奥にあるバスだが、バスの高さの為に、伸びた影しか見えない。


 いくらバスの高さがあるからと言って、影的に、人の頭ぐらいは見えても良いはずだが・・・。


 少し疑問に思いながらも目の前にいる謎の人物が何者なのかという興味が勝つ。もう一度、気付かれていない事を確認する。


 影は、何かにがっつく様にして、素手で何かを食べている。その様は、影であるがゆえに余計に気味が悪く感じられたがそれが、逆に更に興味を引き立てられた。


(よし!)


 思い切ってフェンスに足を掛けてフェンスを越える。ガシャガシャという音が響くが、気付いたところで後部座席から逃げるのには間に合わない。仮に、従業員だとしても謝れば許してくれるはずだ。


 フェンスを上る音に影が反応する。


「逃がすか!」

 バスがギシギシと揺れる。


 バスの乗降ドアがある所に飛び出すが、誰もいない。そして、そのドアは閉まっていたのだ。


(おかしい。逃げるなら開いているはずだし、閉まっているとしても閉まる音が聞こえるはずだ)


 確かにバスが揺れたのだ。


(という事は、バスの中の何処かに隠れたか)?


 運転席のあるドアにそっと手をやり、中の様子を伺いながら少し力を入れるとドアが少し開いた。


(管理雑だなぁ。だから入られるんじゃないのか?)


 そっと、中を覗くように見渡す。


(いない・・・か?)


 シーンと辺りを静寂が包む。外から見ていた時の灯りもなくなっている。


(証拠は残さないようにしているのか?従業員なら直ぐに出て来ても良いはず。隠れる必要はないよな?)


「出て来い!いるのは分かっているんだ!」


 シーン・・・。


 真ん中の通路を座席に隠れていないか確認しながらゆっくりと通る。


(この距離なら真ん中のドア開けている間に捕まえられるはず)


 いつでも駆け出せる体制を取りながら奥へと進む。



「早く出て来い!」


(・・・いない。何処に隠れているんだ?灯りの所には何もなかったかのような状態か)


 あれだけ雑そうに何かを食べていたら少しぐらい汚れていてもよさそうなのだが。


(バスの中に隠れるような場所なんてあったか?)


 一通りバスの中を見ても見当たらない。


 ジャンプなどして気持ち程度にバスを揺らすような行動を取って見るが反応はない。


(あの短時間で逃げれるはずがないよな?バスの外を走る気配もなかったし)


 首を傾げながらバスを降り、ドアを閉めてからしゃがんで隠れて出てこないか待つことにした。



 一時間程立ったが、降りてこない。


(はぁ、仕事帰りの深夜に何をやっているんだろうなぁ。俺は・・・)

 溜息をつき、そろそろ帰ろうかとフェンスの方へと向かう。


 もう一度チラリとバスの方を向くと、バスの中に先ほどと同じ様に灯りが付いていた。


「な!?」

 慌ててバスに戻る。


(まだ、灯りは消えていない。という事は帰ったと思って油断したか?)


 灯りは消えておらず、むしゃむしゃと影は動いている。


そっと音が鳴らないように注意しながらドアを開ける。まだ、気付いていない様だ。


「大人しくしろ!」

 一気に走って詰め寄る。


『あれ?見つかっちゃった~?』

 ニタァ~不気味に笑いながら振り向く。まるで、シャフ度のように。暗がりで良く分からないが口周りがべったりと付いていた。その顔は少年であったが、非常に不気味な感じがした。

 一瞬、引いてしまうが犯人を捕まえる為に気を持ち直す。


「もう、逃げられないぞ。こんな悪戯はもう止めるんだ!聞いているのか!?」

 男の声を無視するかのように何か細長い者をガシガシと食べている為、つい声が大きくなってしまった。


「こっちを向け!何を食べているんだ!?」

 ガシと肩を少年の無理やり振り向かせる。


『これ~・・・』

 スッっと差し出されたのは人間の腕だった。所々に齧られたが後がある。少年の口周りについていた物は血だったのだ。


『ほじいの~ククク』

 ニタニタと不気味に笑う少年。


『ほじいねぇ~』

 ガシッとその腕を奪い取る。


『!?』

 少年に取っては予想外の事だった。いつもならここで、皆悲鳴を上げて逃げて行くのだ。なのに、悲鳴どころか腕を奪い取る何て初めてされた。


『ガエ゛ぜー』


 ガン!


 少年の頭が窓に打ち付けられる。殴られたのだ。


『ガエせ?ゾれバ、コヂラのセリふダ』

 男は奪った腕を左肘の所に添えると、腕が引っ付いたのだ。


『な゛!?』


 そう男の左腕は肘までしかなかったのだ。しかし、だからと言って腕が引っ付くのはおかしい。


『マざガ!?』


 少年は気付いた。男は自分と同じ存在。幽霊であると。


『ザガしてい゛たんだよ・・・お゛れの腕を゛・・・それをよ゛くも・・・』


 齧られた所を見せる様に腕を突き出す。その男の顔は目から血の涙を流し、片目が今にも落ちそうな程飛び出ている。歯も所々抜けており、全体的に傷だらけであった。


『※※!?』

 少年は、越えにならない悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げ出した。


 本来、ここで一般人には姿が見えないように隠れる事が出来るが、相手は自分と同類、通用するはずがない。肩を掴まれ、止められる。


『かぐゴしろ!』

 男は、拳を少年に問答無用で振り下ろした。何度も。


 満足した男は、ゆっくりとした足取りで自分の家へと戻るのであった。誰もいない、廃墟となった家に。




 その後、深夜のバス停留所から灯りと人影は見なくなったと言う。

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