理想
私は料理が好きだ。昔の料理本を見て、料理を再現するのが楽しい。調味料の一部は手に入らなくなってしまっているけど、そこをどうにかするのが腕の見せ所。グループの年寄りの人たちが「懐かしい」「美味しい」って言ってくれると、嬉しい。
料理をするのに、使うのはIHとかいうものだ。料理本に弱火とか強火って書いてあって、火を使わないのに不思議だなって思っていたら、お爺さんが、昔は火を使ってたって教えてくれた。一部のグループは火を使ってるんじゃないか、とも言ってた。それを見てみたいな、って私は思ってる。
そもそも私が料理に興味を持ったのは、西暦時代の小説を読んだからだ。姉妹が潰れる寸前の旅館を二人の料理で盛り立てる、っていう話だった。だから私は妹と一緒に料理をしたい、と思うんだけど、妹にはそんな気はさらさらない。
妹は塔にのぼって、遠くを眺めてばっかりだ。この間なんかは、塔から見える富士山に行きたいなんて言ってた。此処からだと、物凄い遠いから無謀だと思うけど。でも、妹はそうは考えてないみたいで、お爺さんに、車の運転や整備の方法を習ってる。きっと、車で富士山に行こうとしてる。お爺さんも興が乗ったようで、車に限らず色々な技術を妹に仕込んでる。お爺さんはエンジニアをやっていたらしく、色々なものを作ってグループの支えになってる。多分、妹に跡を継がせるつもりなんだと思う。
他にも、妹は狩人の人たちに混ざって体力づくりをしたり、狩りを習ったりしてる。こっちは現地で食べものを確保するためかな。
最近は、料理を手伝ってくれようになった。今まで、絶対に手伝わなかったから、「何で手伝うの?」って聞いたら、「動物が狩れても料理できなきゃ意味がない」って。別に料理そのものをしたかった訳じゃなかったらしい。料理を一緒にしてくれるのは嬉しいけど、これはちょっと私がしたいことと違う。
一回、お母さんに相談したことがある。一緒に楽しく料理がしたいって。そしたらお母さんは笑いながら言った。
「人生は、すべて理想通りにいかないものよ。それでも足掻きながら、理想を求めつつ妥協点を探すことが、大人になるってものよ」
自分の部屋から、綺麗な星空を見ながら考える。大人になるって、どういうことかな。妥協点は、どこにあるのかな。
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