嘲笑う者

「あはは、いひひぃ、あははははははは、笑うわ。こんなの。まるでコメディアンね」

 大理石をふんだんに用いた豪奢な部屋で女は、人を馬鹿にした笑いを響かせる。女の隣には、椅子に縛られた高価なスーツ服の男がおり、悔し気に、整った顔を歪め歯ぎしりをする。部屋の壁には黒服のボディーガードらしき男が5人程控えており、もし拘束が解けるようなことがあっても、男が女に危害を加える前に、何とかしそうであったし、実際に食い止めることができる。

 ところで女の目の前には、男にも見えるようにモニターが設置されており、そこには銃を片手に握りしめ血を流して倒れ伏す、一人の男が映し出されていた。女はその様を見て笑っていたらしかった。

「あはははは、可笑しな男よね。そんな西暦時代の拳銃おもちゃごときで兄上を殺そうっていうのだから」

「何故、彼を止めるのを邪魔した、姉上ッ‼」

 男の悲痛な想いが込められた問いに対して、女は心底、不思議だという表情をして告げる。

「何故って、彼が死ねば戦争が起こるわ。私たちは死の商人。金稼ぎを邪魔されちゃかなわないわ、例え、それが実弟でもね」

「そんなのおかしいッ!人の犠牲で金を儲けるなんてあっちゃいけない」

 男は自分の中の負い目を振り払うように、叫んだ。

「おかしい?あなたはその金で育ってきたのよ、愚弟。それに、あの組織のことを教えてくれたのは、あなたじゃないの」

 男は辛そうな表情を浮かべる。自分自身が人を犠牲をもとに稼がれた金で育ってきたという苦悩。

 加えて、オプリメスの存在を、自分の家族に伝えたのは自身であった。当時、男は少年であり、家が金持ちであることは分かっていたが、家業が何であるか知らず、また宇宙そら生まれであり、地球に憧れていた。そのため、地球行きの便の復活を訴える、当時のオプリメスの目的に賛同し、家族にオプリメスという組織の存在をついつい話してしまったのである。

 オプリメスは目的は何であれ、不満分子を抱え込んでいる組織であり、戦争の火種とするのには最適であった。結果、目をつけられ、ちょうど今をもって完全に死の商人である、彼らの操り人形と化してしまったのだ。

「姉上は変わってしまった。昔はもっと、優しい人だったじゃないか。なのに何で……」

 男は涙声で女に訴える。女は神妙な声で言う。

「変なことを考えるから苦しいのよ」

 女は続けて、誰も聞き取れないような小さな声で言う

「……あなたの考えは自分を苦しめる。けど、その優しさがあなたの取り柄よ。私があなたを家族から守るわ」


 その部屋では、男の悔し気な歯ぎしりと、女のわざとらしい哄笑がしばらくの間、響いた。

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