狩人たち
中心市街地から少し離れた住宅街。この住宅街は放置されて久しく、森に侵食されてほぼ一体化している。降り注ぐ昼の太陽の光があちこちの窓ガラスで反射し、ところどころ森が煌めいている。赤い屋根に、レンガ造りのレトロな雰囲気の三階建て住宅のベランダで一人の男が息を潜めて弓に矢をつがえていた。カンッカンッカンッと金属同士を打ち鳴らす音が森に響き渡る。その直後、音に驚いた鹿が家の近くに走ってくる。ひょうっ、と音を立て矢は一直線に鹿の側頭部に飛んでいく。どうっ。倒れた鹿にすぐさま、ベランダにいた男とは別の男が駆け寄った。男はナイフを腰から抜き放ち、鹿の首を掻き切る。ベランダにいた男は弓を背負い、ナイフを持った男に声をかける。
「今、下に降りる」
弓の男は何の気負いもなくベランダの柵を越え飛び降りる。三階の高さから落ちたにも関わらず、男は少し膝を曲げて着地すると、すぐに立ち上がる。
「お前、ほんと、その身体能力おかしいだろ。何で三階から飛び降りてこれるんだよ」
ナイフの男は口を尖らせて不満げに言う。
「まぁまぁ、気にすんなよ。お前にはお前の特技があるだろ。あんな風に鹿を誘導できるのはお前だけだろ。ほら、それより血抜きするぞ」
「それはそうだけどよ……」
ナイフの男はぶつくさ言いながらも、弓の男と協力してロープをテキパキと鹿に結び、近くの木にかける。
「ふぅ、しばらくはここで待機だな。一番、この時間が好きだな。木漏れ日に包まれて、のんびりするってのもいいもんだ。血の臭いだけはいらないけどな」
と言いつつ、弓の男は、背中の弓を地面に放り投げ、体を横たえる。
「のんびりする時間じゃないんだけどなぁ。お前、イノシシやら野犬やらが来たらどうする気だよ」
ナイフの男が文句を言うと、男は横になったまま手をひらひらと振る。
「お前が何とかしてくれんだろ」
「はぁ、まったく」
なんだかんだ口では言い合っているが、二人の男は仲良さげであった。
日も暮れ始めた頃、二人は木から、すっかり血の抜けた鹿をおろした。弓の男は鹿を背負うと、ナイフの男は地面の弓を拾い、二人で分かりあったように同じ方角へ走り出す。
森の途切れる場所まで二人が行くと、そこには二台の自転車が止めてあった。片方の自転車には大きな箱状の荷車がとりつけられていて、鹿一匹まるまる収まりそうであった。箱からはケーブルが伸びていて何やら自転車に接続しているみたいだった。
「しかし、この冷蔵荷車ってのも便利だよな。自転車をこいでる限りは中のものを冷やしてくれるんだからな」
ナイフの男は感心した表情でそう言うと、弓の男は
「いやいや、そんな便利な代物じゃないぞ。滅茶苦茶、ペダル重いからな。一度、こいでみるか?」
と言い返した。
「はは、遠慮しとく。でも何だって、これを作った爺さんは、こっちに残ったんだろうな。ほとんどの技術者が「世紀の計画」って言葉にのせられて
ナイフの男が不思議そうに口にする。
「さぁな、爺さんには爺さんの考えがあったんだろ。それより行くぞ。夜になる前には帰りたいからな」
「分かってるさ」
二人は中心市街に向けて自転車をこぎだす。
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