扇動家
俺は一人、部屋を暗くしてベッドの上で寝転がったまま、とりとめのない考えを巡らせている。この部屋はディベロが月面に造った施設の最も安全な区画にある。ところで多くの市民にディベロは月資源の枯渇の示唆を受けて誕生した組織のように思われているが、それは事実と異なる。ディベロは新暦0000年から存在しているし、なんなら新暦前から存在している。月資源の枯渇そのものは月移住計画が立案された頃には、すでに予想されていた話だ。だから、他の惑星を探索して更に資源を確保しなければならないのは、最初からの決定事項だった。移住計画の中心にいた爺様も、それを分かっていて、計画に組み込もうとしていた。しかし、業突く張りの権力者どもにとっては目先の利益が第一で惑星探査計画を却下した。そこで、その必要性を理解していた爺様をはじめとする技術者たちが作った組織がディベロだ。
俺が幼いころ、所属している大人たちに、よくしてもらっていた。だから、俺はディベロに所属したいと小さいころから思っていたが、爺様は反対だった。大人になって、もっと多くのことを学んでから、もう一度、よく考えなさい、と口を酸っぱくして言っていたが、俺が17の時に爺様が事故で死んでから、即座に加入した。当時の爺様の仲間たちは、俺のことを必死で止めようとしていた。それも今なら少しわかる。
今やディベロは、ただ夢想を語るだけの組織に過ぎない。爺様の世代の技術者たちのほとんどが年を理由に第一線を退いた。後進の技術職を育ててもいるが、爺様たちに比べれば一段も二段も劣る。この調子では惑星探査など夢のまた夢だ。
加えてディベロはオプリメスのモルス襲撃に関して中立の立場を取るとしているが、そうも言ってられないだろう。そのうちに争いに巻き込まれる。おそらく、俺は「創設者の孫」として旗頭にされるだろう。自分は安全な場所でぬくぬくしながら、兵士を戦場に追いやる役目を果たすことになる。数えきれない数の人が死ぬ。今から、そのことを考えると罪悪感で胸が潰れそうになる。きっと爺様たちは今の状況を予測していた。俺が罪悪感に苛まれることも。だから、ずっと反対だった。
今さら過去の行動を悔やんでも仕方がない。とにもかくにも、今の状況をどうにかして打破する必要がある。でも、どうやって、何をすれば正解なのか。いっそ、何もかも投げ出して逃げてしまおうか。ここのところ、そんなことばっかりを考えている。
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