希望を見つめる少女

 あたしは真っ赤な塔の階段を上がって、展望台から外を眺める。ここはあたしの特等席。展望台のガラスはほとんどが割れてしまっていて、ちょっと強めの風が吹き抜けてる。風はあたしの肩まで伸ばした黒髪を弄んでいく。お父さんたちは「塔を使えば、宇宙に行った人たちと連絡が取れて、物資を送ってくれるかもしれない」なんて言ってるけど、きっとそんなことはない。家の近くの廃墟を探検したときに、古い紙が何回も折られたものを見つけたことがあるけど、その紙を見る限り、この塔は発信用ではあっても受信用ではなさそうだったもの。連絡するにしても、こっちからの一方通行。それで上手くいくわけがない。一応、説明したけど、まともに聞いてはくれなかった。お爺ちゃんは後で、「水を差すでない。そげなことは皆、はなっから分かっとる。それでも、希望がなけりゃ人は生きてけないものよ」って言ってたけどね。実際、誰も塔を直そうなんてしないから、お爺ちゃんの言うとおり皆、分かってるんだと思う。それにね、あたしは一回、宇宙での通信を聞いたことがある。他の人たちと連絡するための無線機があって、子どもが持ち回りで連絡が来てないか見張る当番がある。その時にたまたま聞こえたの。物騒な通信で戦争でもしてるみたいだった。きっと彼らは自分たちのことでせいいっぱい。助けてなんてくれない。それに、それに、あたし達は宇宙に行くことを拒んだ人たちの子孫だから。他の場所では、お金がなくて行けなかった人もいたみたいだけど、日本じゃ、ほとんどの人が自分の意志で行かなかった、ってお爺ちゃんたちは自慢げに言うもの。やっぱり、自分たちについて来なかった人をわざわざ助けることなんてないと思う。あたしだったら助けないもの。

 カンッカンッって誰かが階段を上がってくる音がする。きっとお姉ちゃんだ。もうすぐ、お昼ご飯を作る頃だから、あたしを呼びに来たに違いない。

「やっぱり、ここに居た。ご飯の準備をするから手伝いなさい」

 あたり。お姉ちゃんの声だ。あたしは外を眺めたまま、お姉ちゃんの方を振り返らずに言った。

「お姉ちゃん、あたしね、いつかあそこに見える大きな山まで行くの」

 そう、あたしはこの展望台から見える大きな山まで行ってみたいってずっと思ってる。それがあたしの希望。だから生きるの。

「あぁ、あれね。富士山っていうらしいわ。何でまた、あんな場所に行きたいわけ?」

 お姉ちゃんが不思議そうに聞いてくるから、あたしは自慢げに答える。

「ふふ、お姉ちゃん、人はね、希望がなかったら生きてけないのよ」

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