昔語り

 新暦前30年 地球上のすべての国家が参加した世界統一政府が誕生。月移住計画を立案する。


 新暦0073年 月資源の枯渇が示唆を受け、世界統一政府は三大勢力に別れ形骸化する。穏やかに人類の終焉を迎えることを主張するモルス、新たな資源を求め、別の惑星を探索することを主張するディベロ、略奪を是とし別勢力に敵対的な姿勢を見せるオプリメスの三つである。


 新暦0075年11月 オプリメスのうち特に活発な集団がモルスの所有するレアメタル鉱山に襲撃を行った。モルスはこれを受け、報復措置を行う。宇宙は俄かに殺気立ち、月面は民間人の立ち入りが禁止された。



 新暦0075年12月31日 L1~5まで5点あるラグランジュポイントのうちL4に建造された居住空間において、一つの家族が新しい年を祝うために集まっていた――。


 おや、どうしだんだい?大ばばの話を聞きに行けって言われたって?ふふふ、あの娘も気が利くね。まったく、バカ息子はあんないい嫁をほっぽりだして何してるんだか。軍人なんかになっちまってさ……。おっと、つまらない話をしてしまったね。何を話そうかな。月に来る前の人の話をしようか。あの頃はね、争いばっかりさ。どの国もそれぞれの大義を掲げちゃいたが、したかったことは同じさ。限りある資源をどうにかして、自分の手元に置くことしか考えちゃいなかった。醜いことさね。でもね、どんな時代にもヒーローは現れるもんさ。もう死んじまったけど、あんたらのひい爺さんはヒーローだったんだよ。そりゃぁもうすごかったね。月の資源の確保と、それに伴う経済や人の住居の移転、誰もが考えたことだけど、誰も具体的な案を出せやしなかったのを、ひい爺さんはやり遂げたんだよ。各国も目の色を変えて、協力することを決めたのさ。おかげで地球は一つになった。それで今度こそは争いのない平和な世界をつくろうって頑張ったのにね……。ひい爺さんも今を見たら、悲しむだろうね。ふふ、気の利いたことを言うね。でも平和な世界をつくるのに頑張らなきゃいけないのは、今の大人だよ。あんたらの爺さんと父親ももっともっと頑張らなきゃいけないんだ。でも、まぁディベロに加わったのは流石、ひい爺さんの子どもと孫だよ。更なる惑星の探査ってのは、いいもんだ。これでまた、人類が一つにまとまれたら、ひい爺さんも天国で喜ぶよ。うん?地球の話が聞きたいって?そうだねぇ、人の住んでる場所は今のところとそう変わらないよ。でも、自然ってやつは全然違うね。今の森や湖は全部、人が作ったものだから、安全ではあるけれども、何か足りない感じがするね。もっと、こう何て言ったらいいんだろうね。自然の息吹ってやつが足りないのさ。あんたらも本物を見れば分かるさ。最もそんなことも、もうないんだろうけどね。今頃、地球もどうなってることやら。動物たちには住みやすい場所になっただろうねぇ。人間がいなくなって一足先に平和な世界になってるかもねぇ。おっと難しい話ばかりしちゃったね。どれ次は何を話そうか――





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