平和の地上

英王

平和の地上

新暦0000年 遂に人類は地球以外の住処を得る。世界中が協力し、月移民が開始された。月に居を構えることは、人類にとって一種のステータスとなった。


新暦0013年 ラグランジュポイントに居住空間を設置することが可能となった。地球からの人口流出は加速した。


新暦0073年 地球資源は完全に枯渇した。月資源の枯渇を示唆され、人類は三大勢力に別れ、にわかに対立し始めた。


新暦0075年 ほぼすべての人類が地球を離れ、宇宙空間で生活するようになった。


新暦0076年 開戦。進化した技術による戦争は西暦時代の比較にならない被害を振りまく。



 ――これは、そんな時代の地球での物語である。

 かつての大都市は管理者を失い、緑に包まれ、車の走っていた道路を動物が闊歩する。汚れのない空は青く澄み渡り、さんさんと太陽が降り注ぐ。もはや地球に政府は存在せず、宇宙に行くことを拒んだ、あるいは、行くための金子を用意できなかった少数がグループを作り暮らすのみである。


 Tシャツに短パンをはいた俺は汗を拭う。暦が変わっても日本の夏は暑いままだ。かつて栄えたショッピングモールならば何か便利なものや、保存食が残っているやもしれないと思い、バイオ燃料を使い、西暦時代のおんぼろバイクで探索に来たが徒労だったようだ。日も暮れ始めていて、今夜は此処に泊まらなければならない。夜には、野犬が群れで獲物を求めて行動するので、かなり危険なのだ。そこで乗ってきたバイクから毛布を持ちだし、屋上につながる階段を昇る。今夜は暑くなりそうだから、風の通る屋上で寝たい気分だった。屋上に続く扉を開けると―先客がいた。

「やぁ、君も此処に探索に来たのかな?何か見つかったかい?」

男が皮肉そうに言った。

「何も見つかりはしないさ。宇宙そらに行った奴らも何か残していけばいいのに」

俺は達観した表情で言った。

「そうかい。ところで君はどこから来たのかな。私はN町のグループから来たのだけれど」

「俺はM町からだ」

すると男は嬉しそうな笑みを浮かべた。

「M町のグループは畜産に成功したと聞いたよ。肉を分けてくれないかな。もう腹が減ってね」

「N町はいい土壌で美味い野菜が育つと聞く。交換なら応じる」

「ふふふ、それなら取引は成立だね。僕は野菜ばかりの生活に飽き飽きさ」

それから俺たちは糧食として持ってきていた干し肉と野菜を交換し、いつもより豪華な食事をし、互いの町の状況を話し合った――

「人口は減りもせず、増えもせず、といったところだね」

「こちらも同じだ。食料も足りていて、さして問題はない」


話し合うことも尽きたころ、どちらとなく寝る準備をし始めた。そして毛布を屋上に敷き寝転がっているときに―

「あ、流れ星」

と男が言った。その後、幾条もの流れ星が夜空を駆けた。

「そうだな…」

と俺は言い、抗しがたい眠気に包まれ、瞬く星を眺めながら眠った

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