第一章

召喚、試練の間へ

 烽火を含めた七人の少年少女は、自分達を呼び出したであろう金髪碧眼のイケメンを睨んでいた。


「僕達を呼び出したのはお前か?」


「ああ、その通りだ。まあ、座りたまえ」


 促されるままに着席。

 神使は烽火の座る椅子の背に止まる。他の六人の椅子の背にも、白いカラスが止まっていく。


「俺達は帰れるんだろうな?」


「今は無理だ」


「……はあ?!」


 静寂を破ったのは、茶髪にパーマの少年。

 それに釣られるように、各々が口を開きだしていた。


「ふざけんな! 俺にはやることがあるんだ!」


「そうだわ! 私達を帰らせて!」


「いきなり呼び出して、礼儀を知らないのか!」


 少年少女達が次々に不満を口にする中、烽火は静かに口を閉じていた。

 それは、何も感じなかったのではなく、何も言う必要が無かったからだ。それに、烽火は未練も何もない。

 故に、狼狽える理由が見当たらなかった。


「静まりたまえ。これから受けてもらう試験に不合格ならば、早々に此処から立ち去ってもらう」


 イケメンの一言は、今の少年少女にとって希望を与えるものだった。だが、直ぐに希望は絶望へと変貌することになる。


「合格条件は試験内容を全うすること」


 そういってイケメンは指をならす。

 瞬間、烽火達の前に一枚の紙が現れた。配られたのではなく、現れたのだ。何もない空間から現れた紙は、何処か生暖かい。


「はああああ?!」


 部屋に響く叫び声。

 烽火は『何事か』と、紙に視線を落とし、目を丸くした。


 *


『天上遊戯の参加権を賭けた遊戯


 参加資格所持者:この紙を手にしている少年少女


 合格条件:敵を倒し生還すること


 不合格条件:死亡のみ』


 *


 そこに書かれていたのは紛れもなく超絶無理難題、帰りたければ命を捨てろ。ということだった。

 全く以て可笑しな話である。つい先程まで日常を送っていたはずの少年少女に課せられた試験。それは、『命』を賭けたものだったのだ。

 抗議の声を上げる六人の少年少女。そんな中、烽火は疑問を口にする。


「確か俺達は神々の遊戯への参加権を得たんじゃねえのか? 試験で何を試す?」


 烽火達は、参加権を得たから、という理由で拉致されて来たはずだ。ならば、持っている権利を賭けて再び奪い合うというのは理解しがたい。

 そんな烽火の疑問を嘲笑うかのように、イケメンは口角を吊り上げる。


「ああ! よく気が付いてくれた! そう、君達が今手にしている権利は、この前戯の参加権さ!」


 つまり、こういうことだ。

『天上の遊戯へ参加できる可能性のある者へ、この試験で本遊戯への参加権を得ろ』。

 一次試験を突破した烽火達に与えられた、二次試験への挑戦権のようなものだった。


「取り合えず、話は分かった。……それで、敵ってのは何だ?」


「それは……」


 イケメンは深く息を吐き、吸い込む。


 ―それは神話の神々だ


 二拍ほどの時間を空けて吐き出した言葉はとても信じられるものではなかった。


「神話の神々……?」


「な、なんだよ……それ」


「ファンタジー過ぎる……!」


 多種多様な反応を見せる六人。

 見たところ烽火と同学年ほどの齢である六人は、それだけで狂ってしまいそうだ。

 それでも、ただ一人。絶望でもなく、挫折でもない。目を爛々と輝かせ、希望を物語る烽火がいた。


「……ほう。君は挫けそうにないね」


「いや、なに。神ってのは歯応えあるんだろう? なら、文句はねえ」


「何言ってんだよ、お前!」


 立ち上り烽火に突っ掛かるのは、黒髪で天然パーマが特徴の少年。

 他の連中も烽火を凝視していた。


「お前は帰れなくてもいいってのか?!」


「その様子だと、お前達は帰りたいようだな。だが、俺は違う。一緒にするな」


「な……んだとぉ」


 最早、爆発寸前。

 烽火はともかく、黒髪少年は限界だった。

 突然、知らないところに呼び出され、挙げ句に命を賭けろという前戯。むしろ、平静でいられる烽火が異常なのだ。

 今にも起こりそうな喧嘩を止めるべく、イケメンは手を二度叩いた。


「そこまでだ。兎にも角にも、時間は有限。否応なしに行ってもらう」


「出発はいつだ?」


 落ち着いた烽火は、どこまでも冷静に質疑応答を繰り返す。

 イケメンは、口の前で親指を立て、満面の笑みで言った。


「い・ま・す・ぐ」


 間抜けな声を漏らす面々。

 視界は白く輝き、咄嗟に目を瞑る。


「なにが……」


 目を開け、烽火は絶句した。

 烽火の足元は、床ではなく砂地。周囲にあるのは壁ではなく塀。上にあるのは天井ではなく空。烽火はコロシアムと呼ぶべき決闘場に立っていた。

 だが、そんな事に気を配れないほどのものが烽火の前にあった。


『ギャ……ギャアアアアアア!』


 目の前に立つ巨体。それは一体何なのか。

 それは咆哮を上げながら振り返った。


「ライオン、いや山羊やぎ。違う、これは……」


『ギャアアアアア!』


 二度目の咆哮を上げる獣。

 それは烽火がかつて読んだ本に載っていた伝説の獣。『キマイラ』だった。



















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