第23話

 起きたのは昼過ぎだった。

 頭はまだボーッとしているし、身体がやたらと重い。

 寝室の扉が開き、扉がドンドン叩かれた。

「あんたさ、それ逆!」

 話すのもしんどいな。

 全く、開ける前にノックしなさいっての。着替えてたらどうするのよ。

 そうは思うが、喋るのはうざすぎる。

「おまえ、寝起き最悪だな。とりあえずこいよ。タイに昨日の話しするからよ。」

「昨日…?」

「おいおい…。」

 呆れ顔のホランをボーッと眺めながら、一生懸命頭を回転させる。

「アーッ、あれね!顔洗うから、ちょい待って!!」

「居間で待ってるからよ。」


 あたしは慌てて顔を洗い、歯磨きがわりの木の枝をかじり、髪を整える。

 そうしている間に、やっと本格的に目が覚めてきた。

 

居間には、ホラン、トンガ、ザーナ、パン、そしてタイが遅めの昼食をとり終えたところらしかった。

「おはよう花梨、ご飯用意してあるから食べて。」

 パンがミルクをついでくれた。

「あー、タイ?」

 タイはトンガの膝の上に座りお絵描きをしていたが、ホランに呼ばれて顔を上げた。

「なんだ父ちゃん?」

「あー、その、なんだな。俺はおまえの父ちゃんじゃなく、実は兄ちゃんなんだ。」

「ホラン、それじゃわけわかんないよ。タイ、あなたの荷物の中にある昔の服、あれにね、あなたの家の紋章が縫ってあったの。タイの家がわかる印ね。」

 

あたしが衣服の話しを始めると、 パンがその荷物を持ってきて、衣服を出して広げた。

 その横に、ザーナの首から下げていたネックレスを置く。

「これは、僕の家の紋章だ。比べてごらん。」

 タイは、両方を手に取って見た。

「同じ。」

「そう、君の衣服にあった紋章はキンダーベルンのものなんだ。君は、キンダーベルンの子供に間違いないよ。」

「オレ、父ちゃんの本当の弟なのか?」

「そうだよ。ホラン兄さんと僕の弟だ。血が繋がったね。」

「そっか。」

 タイは、理解はしているようだが、実感はないらしく、またお絵描きを始めてしまう。

「タイ、大事な話しがあるんだ。おまえに理解できるかわからんが、とにかく聞いてくれ。」

「ホランさん、私が話すわ。話させて。」

 パンは、タイの横にくると、床に膝をつき、タイの視線に合わせた。

 

そして昨日あたし達に話したことを話し出した。噛み砕いて、子供にもわかりやすいよう、言葉を選びながら。

「…私達にはそんな訳で子供ができないの。もしタイちゃんさえ良ければ、私達の子供になってほしいの。私をあなたのお母さんにしてほしいのよ。」

 パンの目には涙が浮かび、いつもはきつめの顔立ちが、すっかり気弱に震えている。

 タイは、そんなパンを不思議そうに見つめ、パンの首に抱きついた。

「オレが欲しい?」

「ええ、あなたが必要なの。」

「いいよ、あんたがお母さんで。そしたら、もう泣かないか?」

「うん、うん。」

 パンはタイをぎゅっと抱き締めた。

 パンは、照れたようなくすぐったいような表情で笑った。

「父ちゃん、オレお母さんってのができた。」

「良かったな、タイ。でも、俺のことはもう父ちゃんって呼ぶな。ホランだ。こっちの情けないのが、今日からおまえの父ちゃんだからな。」

 ホランは、今までのやらとりを見てすでに号泣のザーナを指差した。

「父ちゃんは父ちゃんだ。」

 ホランは困ったように頭をかく。

「タイ、ホランは父ちゃん、ザーナはお父さん。二人いていいね。」

 あたしが助け船を出す。

「お父さん?」

「そう、お父さんとお母さん、ザーナお父さんとパンお母さんよ。」

「それならいい。」

 タイも納得した様子だ。

「それでだ、おまえは今日からお父さんとお母さんと暮らすんだ。わかるか?」

「父ちゃんと花梨もか?」

「いや、父ちゃんと花梨はまた旅に出る。花梨の大事な人を探さないとだからよ。」

「オレも行く!」

「お父さんとお母さんを置いてか?」

 タイはパンの顔を見る。

「お父さんとお母さんもくればいい。」

「それはできないのよ、タイちゃん…タイ。私達はあなたとここに住みたいわ。あなたと離れたくないの。」

「オレがいなくなったらまた泣く?」

 パンは大きくうなずく。

「わかった。いてやる。でも、オレ、父ちゃんとも花梨とも離れたくない。」

「タイ、一生の別れじゃないさ。ここは俺の故郷だ。ちょくちょく戻ってくるぜ。だから、父ちゃんの故郷を守っていてくれないか?」

「守る?」

「ああ、今回も悪い奴らがいただろ?おまえや花梨を誘拐したみたいなさ。またそんな奴らが現れないようにな、お父さんとお母さんを守ってくれ。」

「わかった!オレが守る!」

「ザーナ、こいつを頼んだからな!おまえはもう少ししっかりしろよ!」

「うん、うん。兄さん。」

 

これで、タイと別れることが決定してしまった…。


 考えると涙が出そうだったから、あたしは用意されていたサンドイッチにかぶりついた。


 やばいな、いざ本当に別れるとき、泣かないでいられるだろうか?

 

あたしは全く自信がなかった。

 悲しさからなのか、頭がガンガンしてきた。



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