第20話
あたしがホラン達の入った部屋についたときには、すでに見張りは縛られ、ホラン達は窓の外のバルコニーに出ていた。
バルコニーを渡り、会合をしているだろう部屋の窓の下に潜む。今夜は蒸すからか、窓は開けられ、カーテンがひかれていた。
わずかに声が聞こえる。
ホミンのすすり泣く声、どうやら父親に嘆願しているようだ。それに反して、ホジュンの勝ち誇ったような上から威圧するような話しぶり。ポーは中立に立ち、二人の意見にすり寄っているようだ。
「父さん、僕が悪かったよ。もう二度としない。」
「何言ってる!おまえはキンダーベルンの商品に手をだしたんだ。不利益を与えたんだよ。処分されて当たり前じゃないか!なあ父さん?」
「ほんの数人だよ。僕は、ホランの奴にあれを切られてから、女が抱けなくて、身体の芯からうずいてしょうがないんだ。父さんならわかるだろう?女を抱けない辛さが。それを慰めるために、ほんの少し女をまわしてもらったんだ。傷者にはしていないよ。僕の趣味は知っているだろう?飽きた女は元に戻して売りに出したし、損失なんてないんだよ。」
「何言ってやがる?父さんのとこに上納するはずの極上品にも手を出したじゃないか!」
「あれは、まだ何もしてないよ。第一、あれはホランの…。」
ホランの…って、あたしか?
「まあまあ兄さん達、落ち着いて。ザハ叔父さん、これからは女はまず父さんのところへ、それ以外はホジュン兄さんにお願いします。さらに売るルートを拡大していくんだよね、ホジュン兄さん?」
「ああ、海沿いから舟を使って、隣国まで手を伸ばす。そのルートは確保できている。」
ホジュンは、さも自分の手柄のように得意気だ。
「どうせポーが手筈を整えたんだろうよ。」
「僕は、ホジュン兄さんの言う通りに動いただけだよ。」
「お前らのゴタゴタはどうでもいい!俺達は今回報酬を倍にすることを要求しにきた。」
若頭のロイドが、机を叩いて怒鳴った。
「倍って…。そりゃあんまりですよ、ロイドさん。」
ホジュンが口をひきつらせ、笑顔を張り付けたような表情を浮かべる。
「そうですよ。市場拡大に当たって、今まで以上に費用がかかるんです。とても倍なんて…。ホジュン兄さん、出せて一割増しくらいだよね?」
「おまえらが、貴族に法外な値段で売り付けているのは知ってるんだ。どうせ、隣国でも王族貴族に売り付けるんだろうよ。」
「ロイド、少し黙ってろ。キンダーベルン伯、いやホデン、おまえがキンダーベルン伯になれたのは誰のおかげだ?」
ホデン?それがホランの父親の名前らしい。しかも、金の鬣の頭とは旧知の仲みたいだ。
「そりゃ、ザハ兄さんのおかげさ。兄さんが、他の兄弟を始末して、僕に譲ってくれたからだよ。」
兄さん?
ホランを見ると、ホランも初耳だというように驚いていた。
だから、ポーのザハ叔父さんなのか。血の繋がった本物の叔父さんだったわけだ。
確かに、ヒョロッと背だけ高いキンダーベルン伯よりも、筋骨隆々なザハのほうが、ホランと血が繋がっていると言われて納得する。
「そうだよな、おまえは俺に恩がある。ただの女好きで、なにもできないおまえが、ふんぞり返って、好きなだけ女が抱けるのは、ここにいるおまえの兄さんのおかげだ。」
「その通りさ。私は、女さえいればいいんだ。キンダーベルンの地位も、そのためのものだ。」
なんか…、病気だよね?
ホランの父親ながら、イタイ人過ぎる気がする。
もう、ホランの顔が見れない。
「なら、二倍でも問題ないよな?」
「そうだね、兄さん。人身売買はホジュンに任せているんだ。ホジュン、兄さんのいいようにしろ!それとホミン、おまえは勘当だ!私の女に手をつけるなど、死んでもいいくらいだぞ!この地のいい女は、全て私のものだ!!誰にもやるもんか!勘当!勘当!勘当だ!!」
「父さん、ホミンが勘当なら、跡継ぎは僕だよね?長男でもあるわけだし。正式に発表してくれないか?」
ホジュンが、ここぞとばかりにキンダーベルン伯に詰め寄る。
「はあ?なぜキンダーベルンをおまえに継がせないとならん?これは私の地位だ。誰にもやらんぞ。私が死んだら誰でも好きにすればいい。」
「死んだら…。」
ホミンの目が光る。
このまま勘当ならば、父親に手をかけてもいいという顔をしていた。ポーも、そんなホミンを横目で見ながら、特に咎めるでもなく、わざとらしく大きな声で誇張するように話す。
「父さん、そんな悲しいこと言わないでよ。第一、父さんはまだまだ健康じゃないか。病気がちの僕より長生きするだろうよ。お医者様も、父さんのオーラは濁っていないって、太鼓判押していたくらいだ。」
これはヤバい!
ホミンの決意を後押しするような…、いや多分、キンダーベルンを継ぎたければ、父親を殺すしかないと長兄次兄を煽っているんだ。
ポーは、わざとらしく腰に下げていた短剣を机に置き、父親の側へ行き後ろから抱きついた。
「父さん、長生きしてね。」
ホミンが机の短剣に手を伸ばし、握りしめた瞬間…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます