第19話

 三日後、密会の夜を迎えた。

 

 タイとトンガにはザーナの別荘に移動してもらい、アンジュの仲間が五人、警護にあたってくれている。


 金の鬣のアジトには、キンダーベルンの私兵達が向かい、月が真上に上がった時刻に、一斉に討伐することになっていた。その中には、アンジュの仲間が四人入っている。

 あたしとホラン、アンジュは、ポーの手引きで、密会の現場に乱入することになっていた。あと、戦力外だけど、ザーナも。

 

 最初、アンジュにはタイ達をお願いしたんだけど、金の鬣の頭であるザハとその仲間三人は、凄まじい手練れであるからと、あたし達二人で行くことに猛反対されたんだ。それで、アンジュもあたし達と金の鬣の頭を捕まえるほうに参加することになったの。

 

 あたし達は、ホジュンの別荘の裏から様子を伺っていた。

 ポーの情報だと、別荘の外には見張りが五人、中には見張りが三人いるらしい。別荘にはすでにキンダーベルン伯と息子達が到着しており、さきほど金の鬣と思われる集団も裏から入って行った。

 月はもうすぐ真上に上がろうとしている。

「とりあえず、見張りをなんとかしなきゃね。」

 裏には二人見張りがいた。

「俺は右な。」

「私は左ね。」

「声出させないようにな。」

「了解。」

 

 ホランとアンジュが、夜の闇に紛れて見張りに近寄って行く。足音もなく、気配を全く感じさせないその動きは、まさにネコ科の動物を連想させる。

 あたしは回りに意識を向け、他の見張りがやってきても、いつでも飛び出せるように剣の柄に手をかけた。ザーナは、そんなあたしの後ろに隠れて震えている。

 ホランとアンジュは、ほぼ同時に見張りに飛びかかり、首をしめて気絶させた。その時間わずか数秒。全く無音の出来事だった。

 見張りを引きずって、あたしがいる茂みに連れてくると、口に猿轡を噛ませ、縛り上げて木につなぐ。

「あと三人だな。」

 今度は裏から表を覗く。

 扉の所に一人、門の所に二人立っている。

 まずは、扉のとこにいる見張りにだけ聞こえるように、小さい石を投げた。

 見張りは、怪訝な顔をしつつ、音がしたほうへ歩いてくる。

 アンジュが口を塞ぎ、裏へ引っ張りこんだ。その腹にあたしが剣の柄を叩き込む。

 アンジュは首に手刀を入れた。

 見張りはくぐもった声をだし気絶し、他の二人と同様につないだ。

 

 あたし達が見張りを縛っていたとき、ホランは一人で門へ向かい、残りの二人を一気に片付けた。

 見張り五人、格好から盗賊ではなく、キンダーベルンもしくはホジュンが雇った警備らしかった。

「こいつらは盗賊じゃねえから、まだ中に盗賊十人いるってわけだな。」

「あと、見張りも三人ね。」

「会合のある部屋に二人、盗賊達の控え室に一人だったかしら。」

「先に控え室を制圧だな。」

「多分、会合には頭のザハと若頭のロイドがでるはず。控え室の六人は雑魚だけど、二人はヤバいわよ。馬鹿力のフロイと鞭使いのマダラ。こいつらは他の盗賊の頭レベルだって話しよ。騒ぎを起こさず制圧するのは無理だわ。」

「じゃあ、それはあたしに任せて。一気に片をつけるから。」

 あたしは、目が赤く光るのを感じながら言った。

「任せてって…。」

「おう、頼んだ。」

 アンジュは、あたしとホランを呆れたように見る。

 アンジュには、まだあたしの力を見せていなかったのよね。

 

 別荘の裏口から中に入ると、とりあえずポーからもらった別荘の見取り図を確認する。別荘とは言え、かなり豪華な屋敷だった。

 裏口から入ると、まず廊下を右に曲がり、真っ直ぐ行き、左に曲がってすぐが盗賊の控え室のはずだった。

 曲がり角まできて覗くと、確かに見張りが一人、部屋の前に立っている。が、どうやら立ったまま寝てしまっているようで、頭がこっくりこっくり舟を漕いでいる。

「凄い器用だな。寄っ掛かってるわけじゃないのに、立ったまま寝てやがる。」

 ホランは、ずんずんと歩いて行くと、見張りの首を軽く叩いた。見張りの足が、ガクンと崩れて倒れそうになり、ホランは慌てて見張りを担ぎ上げた。

 そのまま隣りの部屋に放り込み、やはり縛り上げておく。

「そんじゃ行きますか。」

 

 部屋から出てくると、ホランは盗賊達の控え室の扉に手をかけた。

「いつでもいいわよ。」

 ホランが扉を開け、あたしが一歩中に入る。

 盗賊達は、思い思いに時間を過ごしており、お酒を呑んでいる者達もいれば、賭け事らしきことをしてる者もいた。

 部屋が開き、あたしが入ってきたことで、盗賊達の動きが止まり、あたしに視線が集中する。

「姉ちゃん、なんの用だ?暇潰しに、俺らの相手をしにきてくれたのかい?」

「すげえ、上玉じゃねえか!キンダーベルンの親父、太っ腹だなおい!」

「俺一番!」

「バカ野郎!一番はフロイの兄貴に決まってるじゃねえか!」

「いや、マダラの兄貴だろ!ねえ兄貴?」

 なるほど、奥で酒を樽から直飲みしていたのがフロイ、手前で仲間と賭け事をしていたのがマダラみたいだ。二人共派閥があるみたいで、見事に分かれている。

 

 フロイは、酒臭い息をばらまきながら、あたし達のほうに近寄ってきた。

「俺が一番で、最後だろうよ!俺はバカ力だからよ、やりながら絞め殺しちまうだろうぜ。」

「あら、あたしが相手なら、絞め殺されないと思うわよ。」

 アンジュが一歩前に出ようとする。

「大丈夫よ。」

 あたしはアンジュを制して、フロイの前まで歩く。

「お・す・わ・り!」

 部屋にいた盗賊達が、一斉に床にへばりついた。

 フロイだけは、片膝をつきなんとか耐えている。

「ふ・せ!」

 さらに目に力を込めて言うと、フロイも膝を割って床にへばりついた。

「な、なんだ、これは?」

 フロイはかろうじて、喋る力があるらしい。他の盗賊達は声も出せずに、口からヨダレを垂らし、身動き一つとれないようだ。半分くらいは気絶しているかもしれない。

「どうなってるの?」

 アンジュもポカンと盗賊達を見ている。

「これが花梨の力だ。見えない手で押し潰すんだ。かなりしんどいぜ。相変わらずえげつないな。ほら、縛りあげちまおうぜ。」

 

 ホランとアンジュが、床にへばりついている盗賊達を一人づつ縛り上げ、猿轡をかませる。雑魚はまとめて部屋の中央に縛ってころがし、フロイとマダラは念入りにグルグル巻きにして、手足も逆海老にして縛った。そのうえで柱に吊るす。

「さ、次々!」

 あたし達は盗賊達を部屋に残し、今度は二階に上がる。

 二階の一番奥の部屋のはずで、階段に隠れながら確認すると、確かに一番奥の部屋の前に見張りが二人立っている。あそこまで気づかれずに近寄ることは無理だ。

「花梨、やれるか?距離あるけど。」

「やってみるよ。ふ・せ!」

 力をジワジワ放出する。

 見張りを捕らえた感触があり、さらに力を放出した。

 見張りが床に押し付けられ、それを確認したホランとアンジュが一気に距離をつめる。

 一瞬で気絶させ、隣りの部屋に運んだみたいだ。

 ホラン達みたいに足音を消して走る特技はないから、なるべくゆっくり、摺り足気味で歩きながら部屋へ向かう。

 

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