第17話

 あたしが先頭に階段を上がると、隠し扉は開いたままになっており、応接間にすんなり出ることができた。念のため、隠し扉になっている棚を閉め、棚の上の置物の配置を変える。

「なにしてる?早く連れてこないか!」

 ホランが、下着姿で寝室から顔を出し、女性達がみな出てきてしまっていることに目を丸くした。

「なんだ、おまえら?!おい、誰か!誰かいないか!」


 ホミンが大騒ぎし始めたので、あたしはホミンをにらんだ。目の前が赤くなる。

「ふ・せ!」

 ホミンがヒャンと叫んで、床に這いつくばる。

「誰か、…誰か。」

 ホミンはなんとか起き上がろうと、ジタバタしながら、人を呼ぼうとしていたので、その頭を踏みつけた。

「黙って!」

 ホミンの顔が恍惚とし、叫ぶのを止めた。

 

 これは逆効果かしら?

 

 あたしが足をどけると、ホミンの顔つきが失望に変わる。

「悪いんだけど、あんたの悪趣味に付き合うつもりはないの。ここにいる全員、解放させてもらうわ。そして、二度と手を出さないで。」

「なにを馬鹿な!誰か、誰か早く来てくれ!」

 ホミンが動けないまま大声を出すと、扉が開いてホランがひょこっと顔を出した。

「おまえ!確か師団長になった奴だったな。こいつらを捕まえるんだ!」

「女どもをですかい?」

「そうだ!他の兵士も早く呼べ。」

「呼んでも来ますかねえ?みんな、眠っちまってるから。」

 ホランは扉を大きく開け、廊下に転がっている兵士達を顎で指し示した。

「いったい…。」

 ホランの姿を見て、あたしは力を解除した。ホミンはヨロヨロと立ち上がると、兵士達のほうへ歩み寄る。

「ホラン!」

 タイがホランに駆け寄り抱きつく。

「タイ、無事か!」

「…ホラン?」

 ホミンはマジマジとホランを見る。

「まあ、なんだ。久しぶりだな、兄さん。ずいぶんでっぷりとだらしなく成長したもんだ。」

「ホランか?あのホランなのか?死んだはずじゃ…。」

「どのホランかはわかんねえけど、キンダーベルンの血が半分入っているみたいだな。反吐が出るけどよ。」

 ホミンは、目を見開いてホランを見ていたが、すぐにガタガタ震えだした。

「悪かった!俺が悪かった!だから来るな!」

 パンがあたしにこっそり耳打ちした。

「ホミンが私達に手を出さなかったのは、出さなかったんじゃなく出せなかったのよ。あれをチョッキン切られてね。弟がって言ってたけど、彼がしたのね。」


 あれ…って。

 

 なんて言うか…。ホミンの悪行を考えると、可哀想だとは思わない。

「次に悪さしたら、…わかってるよな?兄さん。なら、しばらく寝室に入っておとなしくしてろよ。」

 ホミンはウンウンとうなずいて寝室に入ると、ご丁寧に鍵まで閉めた。

「じゃあ、行くか?」

 ホランがあたし達を促し、部屋を出ると、アンジュもやってきた。アンジュは、ホランと一緒に兵士を倒していたらしい。

「姉さん!」

「ラーザ!」

 二人は抱き合った。

「ほれ、とりあえず脱出しようぜ。あの馬鹿兄貴が、いつ吠え出すかわからないからな。」

 

 目の前の扉が開き、人形を抱いた獸人が顔を出した。ひょろっと背が高く、寝ぼけた顔をしている。

「ザーナ様!」

 パンがザーナに抱きつく。

 ザーナは、一瞬正気の表情になるが、すぐにとぼけた顔に戻る。

「ザーナ様、この人達は大丈夫です。」

「とりあえず、中に。すぐに人がくるだろう。」

 

 ザーナって、ホランのすぐ下の弟で、確か気がふれたとか?

 

 全員ザーナの部屋に入ると、ザーナが扉に鍵をかけた。

「パン、いったい?」

「私は、ザーナ様の婚約者なの。親同士が決めたことだけど。いざこちらに輿入れしようと向かっている途中で拐われたの。」

「なんだってそんなことに?兄弟の婚約者に手をだしたってこと?」

 パンの瞳には、怒りが溢れていた。

「ザーナ様に毒を盛ったのも、私を手に入れるためだと言っていたわ。私はその、一応美人で名が通っていたから。ザーナ様は、毒で気がふれたふりをして、私を助けようとしてくれていたの。」

 パンは、ザーナの手をしっかりと握りしめた。

「ザーナ、本当か?」

「あんたは…ホラン兄さん?!生きてたんだね。僕も他の兄弟と同じく、殺されかけたんだ。実の兄にね。あのままじゃ、殺られると思ったから、キチガイのふりをしたのさ。ポーみたいに、うまく兄さん達を手玉にとるような知恵は持ち合わせてなかたから。」

 誰も気がつかなかったのに、ザーナだけはホランがわかったようだ。気が弱そうだけど、兄弟の中ではマトモな性格に見える。

「パンは、僕にはもったいない相手だよ。綺麗で聡明で。だから、なんとか助けたかっんだけど、やっぱり僕には何もできなかった。」

「そんなこと!私は、ザーナ様がいずれ助けてくれると思ったからこそ、あんな恥辱にも耐えれたのよ。何回も阻止しに部屋にきてくれたじゃないですか!」

「僕にできたのは、キチガイのふりをして暴れるくらいで…。」

「でもそのおかげで何度も嫌な思いをせずにすんだわ!」

 二人は、お互いを見つめてウルウルしている。

「わかった、わかった。独り者の前でイチャイチャしないでくれ。」

 二人は真っ赤になったが、お互いの手を離そうとはしなかった。

「とりあえず、みんなでこの屋敷からでないと。」

「それなら、隠し通路があるよ。そこの暖炉に入り口があるんだ。その出口の先に、僕の秘密の別荘があるから、そこに避難しよう。」


 暖炉の中に横穴があり、そこをくぐると階段になっていた。追っ手がこないように、ホランとアンジュがその横穴を大きな岩を積み上げて塞いだ。岩は、壁を補強するためにはめ込まれていた物を使った。

 ホランの馬鹿力は見たまんまだけど、アンジュのは…やっぱり見たまんまか。女の人とは思えない力こぶが盛り上がり、岩を引き剥がしたときは、みんなから歓声のような声があがった。

 

 そのまま階段を下り、洞窟のようなとこにでると、さらにまだ下る。どうやら、自然の洞窟と繋げてあるらしかった。

 ザーナの案内で、ホランが指から炎を出して明るく照らしながら進み、最後尾はアンジュが歩く。

 追っ手がかかることなく、ザーナの別荘までたどり着くことができた。

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