第15話

 屋敷の中はかなり広く、豪華なフカだし、調度品も高そうな壺やら絵やらが飾ってある。

「二階に次男の部屋があるみたいよ。」

 あたし達は二階への階段を上がる。

 途中、何人かの使用人とすれ違ったけど、みんな男ばかりで、いわゆるメイドさんは見当たらない。


 二階は部屋が沢山あった。一つ一つの部屋の間隔が広いから、一部屋かなりな大きさなんだろう。

「次男の部屋は、右側の奥から三番目らしいよ。その向かいが四男。長男は妾の子だから、別邸みたいね。五男は妾の子だけど、屋敷に部屋をもらってるんだって。ただし一階らしいけど。」

 アンジュは下準備してきているのか、屋敷のことに詳しい。

 部屋の間取りなんかのことも説明してくれた。その際、実際の部屋数と、屋根に伸びている煙突の数が合わないということを指摘し、もしかしたら隠し部屋のようなものがありそうだと言っていた。

 

 次男の部屋の前にきて、扉に手をかける。部屋には鍵はかかっていなく、すんなりとあいた。

 中を確認するが、誰もいなさそうだ。

 あたしが中に入ったそのとき、後ろから声がかかった。

「アンジュ様、そちらでなにをなさってるんです?」

 アンジュは扉を締め、あたしのみ部屋に残された。アンジュの身体が目隠しになり、あたしは見えなかったようだ。

「シザーさん。屋敷が広いから、いざというとき迷わないように、屋敷内を探索していたの。まずかったかしら?」

「そうですね。二階は、キンダーベルン御一家の寝室が主になりますので、探索はお控えになられたほうがよいでしょう。」

「あらやだ、そうなのね。それじゃあ、下に戻るわ。」

「そうなさってください。」

 あたしは、扉にはりついて、廊下の様子を伺った。

 話し声が遠ざかり、二人は階段を下りて行ったようだ。

 

 とりあえず、セーフってことかしら?

 

 あたしは部屋を見回す。

 応接間のような作りになっていて、真ん中に大きなテーブルとゆったりとしたソファーが置いてある。壁側には備え付けの棚があり、趣味の悪い調度品が飾られていた。

 左側に扉があり、開けると寝室になっていた。大きなベッドには天蓋がついていて、レースがヒラヒラ垂れ下がっている。寝室の更に奥には小部屋があり、趣味の部屋…いわゆるSMルーム…らしかった。

 

 タイに変なことしてたら、絶対に許さないんだから!

 

 あたしは、隠し部屋を探し始めた。

 壁を叩いたり、壁にかかっている肖像画を動かしてみたり。ベッドの下も覗いてみる。なかなか見つからない。

 応接間に戻り、備え付けの棚もチェックする。

 押しても引いても、とくになにも変化しない。

 諦めかけた頃、廊下をバタバタと歩く音がして、部屋の扉が開いた。

 

 あたしは、かろうじてソファーの後ろに身を隠した。

 入ってきたのは、獸人が三人だった。一人はでっぷり太った大柄な獸人で、一人は小柄で可愛らしい獸人だが、二人とも同じ毛色毛並みをしていた。もう一人は使用人なのか、後ろに控えている。

「ホミン兄さん、さっき誰か拐ってきたらしいけど…。」

「ああ、裏のトンガのじいさんの家に、女が出入りしてたって聞いたもんだからな。でも、拐ってみたら男のガキだったよ。」

「兄さん、さすがに昼はやめてくれって、何回も言っているだろ。」

「妾の子のくせに、俺に指図するな!」

 どうやら、太っているのは次男のホミン、小柄なのは五男のポーだろうか?

 ホミンはソファーに座ると、イライラしたように足を鳴らした。

「ホミン様、ポー様はホミン様を心配しているのですよ。」

 この声、さっきアンジュに声をかけていた使用人だ。シザーって呼んでいたっけ。

「うるさい!うるさい!そんなこと言うくらいなら、女を連れてこい!極上の美人だ。」

「この辺りじゃ、もう若い女はいないよ。綺麗な女は、みんなホミン兄さんに回したよ。ホジュン兄さんの目を盗むの大変なんだから。最近じゃ、少し疑われてるみたいで、自分も誘拐の現場についていくってうるさいんだ。」

 

 ちょっと待って?

 今の会話、ポーとかいうホランが可愛がってた弟が、誘拐の実行犯ってこと?

 

 今聞いたことをホランに言って、果たして信用してもらえるだろうか?可愛い弟が、実は一番の悪党だったなんて。

「ちょうどいいじゃねえか!あいつに罪なすりつけて、罪人にしちまえば。」

「まあ、それは考えてるよ。兄さんのために、もう少し根回ししてからね。」

「頼むぜ、俺が当主になったら、おまえは筆頭執事長にでもしてやるよ。キンダーベルンのために働きたいんだろ?」

「ああ、兄さん。その通りだよ。」

「とりあえずは、俺様のために働けや。トンガのとこに女がいるはずだから、連れてこい。わかったな!」

「わかりましたよ。今晩にでも。」

 ホミンはソファーから立ち上がり、部屋を出ていった。


「根回し…が必要なんですよ。兄さん二人に自滅してもらうためにはね。」

「ポー様…。」

「おまえは僕の言うことを聞いていればいいんだ。ララのためにも…。」

 ポーの声は、低く冷たく響いた。表情は見えないが、感情が抜け落ちてしまったかのような、そんな冷たさを感じた。

「…はい。」

 扉が閉まる音がして、二人は出ていったようだった。


 あたしは、ソファーから顔をだしてみた。もう誰もいない。

 あいつらは、あたしを今晩誘拐するって言ってた。

 ということは、素直に誘拐されれば、タイのところへ行けるかもしれない。

 隠し部屋は見つからないし、あたしは誘拐されることに決めた。そのほうが早そうだ。


 部屋を出ようと扉のほうへ向かったとき、扉が素早く開いてアンジュが入ってきた。

「花梨…。良かった。見つかったかと思ったよ。」

「アンジュ、とりあえずでよう。あたしに考えがあるの。」

 あたし達はホミンの部屋から出ると、アンジュの部屋へ戻った。

 

 鍵を閉めると、変装のためにかぶっていた毛皮を脱いだ。

「これ、けっこう暑いね。」

「それで、考えって?隠し部屋はどうだった?」

「隠し部屋は見つからなかったの。」

 あたしは、さっきポーとホミンが話していたことをアンジュに伝えて、今晩わざと誘拐されようと思うと伝えた。

「あんた、誘拐されようと思うって、何かされたらどうするんだい?!そんな危険なこと。」

「大丈夫、あのね、あたしこれでも強いのよ。」

「強いったって、薬とか使われたらどうすんだい?眠らされたり、身体が動かなくるような薬もあれば、逆にその気にさせる秘薬なんてのもあるんだよ。」

「それはその時考える。あたしはタイを助けないとだから。あたしを囮にすれば、一番手っ取り早くタイの居場所がわかるもの。」

「あんた、無謀すぎるだろ…。わかった、出来る限り手伝う。私が代わってやれたらだけど、体格的に問題があるしな。」

 

 うーん、きっと誘拐してもらえないだろうな。

 

 あたしは再度変装用の毛皮をかぶると、トンガの小屋に帰ることにした。ホランとも相談しないといけないしね。

 アンジュもついて行くというので、二人でトンガの小屋へ向かった。


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