第14話

 外に出ると、あたしは窓の外の足跡を見た。数人の足跡があり、中に特徴的な足跡を見つける。


 足跡は屋敷に向かって続いている。

 

 ホランは丘を下って走って行ったので、全く逆だ。

「あの単細胞!」

 ホランを追いかけるて呼び戻すか、一瞬 考えたけれど、タイを追うほうを選んだ。

「トンガさん、ホランが戻ってきたら、屋敷のほうだって伝えて!」

 あたしは窓から中にいるトンガに叫ぶ。

「せめてマントを着てけ!」

 家の中からマントが投げられる。

 あたしはマントをすっぽりかぶり、屋敷に向かって走り出した。

 

 足跡は屋敷の裏まで続いていて、裏口のところで途切れている。つまり、屋敷に入ったんだ。

 あたしは裏庭をウロウロし、なんとか中の様子が伺えないか窓から中を覗いた。

 見えるのはカーテンばかり。

 まだカーテンをしめるには早い時間だと思うけど。

「ねえ、…あんた。」

 いきなり声をかけられて、あたしはかなり驚いてしまった。

 横に飛んで振りかえる。

「あ、ごめん。驚かしたね。やっぱりあんた女の子か。後ろ姿がそうじゃないかと思ったんだ。」

 目の前には、かなり大柄な女性(?)が立っていた。

「私は師団長のアンジュ。って言っても、さっきなったばかりだけど。」

 

 師団長ってことはホランと同じだけど。…ということは、敵側ってことだ。


「ちょっとごめんね。」

 アンジュは、あたしをすっぽり自分のマントにいれる。 あたしは、アンジュに抱きつく形になる。それとほぼ同時に、後ろから近づいてくる足音がした。


「師団長でしたか?」

「ああ、うん。どうかしたの?」

「いえ、窓の外に人影が見えたということで、確認にまいりました。」

 あたしが覗いていた影が映っていたのか。

「それ私だ。見廻りしてたから。」

「そうですか。ご苦労様です。」

「こっちは大丈夫だから、部所に戻りなさい。」

「わかりました。」

 遠ざかって行く足音がし、あたしはマントから解放された。

「かくまってくれてありがとう。」

「あんた、どうしてこんなとこで窓の中覗いて…まあいいや、こんなとこにいたらまた見廻りがきちゃう。とりあえずついておいで。マントは深くかぶってね。」

 

 アンジュの後に続き、屋敷の左側にたつ大きな建物に入った。一階の端の部屋の扉を開ける。

「ほら、入って入って。私の部屋だし、ここだけは鍵も閉まるから。」

 部屋に入ると、アンジュはマントを脱いだ。

 

 腕に、肩に、脚に、逞しい筋肉がついている。薄手の衣服になっても、女性なのか悩んでしまいそうなくらい、そんな筋骨隆々な姿だ。銀髪のしっぽは、かなり丹念に手入れしているのかフサフサで、先にピンクのリボンがついていた。なにげに乙女?なのかな。

「ほら、あんたも脱ぎな。暑いだろう。」

 あたしはフードを落とし、マントを脱いだ。

「あんた、妖精族かい?ずいぶんべっぴんじゃないかい。」

「ありがとう。」

「若い女ってだけでもこの領地じゃ珍しいのに、こんなべっぴんが歩き回ってたら、誘拐してくれって言ってるようなもんだよ。悪いこと言わないから、すぐにここを離れたほうがいいよ。いや、夜中までここに潜んで、闇にまぎれたほうがいいか。」

「あ、あのね!あたし今はここを離れられないの。あたしの仲間が、多分この屋敷に連れてこられたの。助けないといけないのよ。」

 アンジュは険しい顔つきになる。

「それはやっぱり女の子?」

「男の子だけど、まだ子供なの。虎族よ。」

「わかった。私も手伝うよ。」

「…ありがたいけど、なんで?」

 アンジュをじっと見る。

 

 悪い人には見えない。見えないけど、全面的に信用していいかもわからない。


「私もね、妹を探してここにたどり着いたんだよ。」

「妹さん?」

「ラーザっていって、村一番の美人だったんだ。私は傭兵をしていてね、村に帰ったときには妹は誘拐された後だったよ。このリボンを残してね。」

 アンジュはしっぽのリボンを振ってみせた。

「色々探してたら、ここのボンクラ次男が女を誘拐しまくってるって聞いてね。兵士を集めてたから、潜り込むにはちょうどいいと思ってさ。」

「そっか、妹さんも…。でも、タイは男の子だし、次男関係じゃないかも。長男も人さらいだなんだしてるみたいだし。全く、とんでもない兄弟だわ!」

「屋敷に連れ込まれたなら、次男かもよ。長男のほうは領地の外れにアジトがあるみたいだから。そっちに連れて行かれるみたいだし。」

 だから、ホランは屋敷ではないほうへ走って行ったのかも。

「お願いします。力を貸してください。」

 あたしは、改めてアンジュに頭を下げた。

「もちろんよ。とりあえず、あなた、…名前は?」

「花梨です。」

「花梨、あなたは獸人のふりをしたほうがいいわ。とりあえず、耳としっぽつけて…そうだ、これなんかちょうどいいわよ。顔も半分隠れるし。」

 アンジュは、毛皮をかつらのようにアレンジすると、あたしの頭からスッポリかぶせた。同じ毛皮で耳としっぽを作る。

「上出来じゃない?私の従者ってことにすればいいわ。じゃあ、行きましょう。とりあえず、次男の部屋へ。」

 あたしはうつむきがちにアンジュの後を歩き、屋敷への続き通路を行く。この建物は、屋敷と隣接しているからか、中からも屋敷に入ることができた。

 

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