第8話
アナ村をでてから二日、山から平野の旅に変わった。
ザイール国は、中央を国と同じ名前のついた川が流れていて、平原と森からなる肥沃な土地に恵まれ、農業国として栄えているらしい。
あたしがたどり着いた場所は、ザイール国唯一の山岳地帯で、隣国との国境になっていた。もう一つの国境は砂漠で、ザイール国は二つの国と接しているという。
旅をしながら、ホランにこの世界のことを色々と聞いた。
この世界は七つの国からなっていて、大国はザイール、ライオネル、アインジャの三国で、今あたしがいる大陸にあるという。あとの四国は島国で、あまり国交はないらしい。
ホランは盗賊のわりには博識で(見た目は筋肉馬鹿なのにね。)、自国のことばかりではなく、他国のことについても明るかった。
ライオネル国は山岳国で、狩猟や酪農が盛んで、鉄の加工にも長け、その鋼の強さもさることながら、付与される魔法特性が群を抜いているということ。アインジャ国は三方を海に囲まれていて、漁業はもちろんだが、工芸品の細工が細かく、美しいことで有名だということとか。
また、 国々に住んでいるのも、獸人が主だけど、他にも妖精族やドワーフ族など見た目の異なる民族がいることや、ザイール国にはほぼいないが、他国には妖魔と呼ばれる危険で禍々しい生き物もいるとか。
あたしの生きてきた世界とは、あまりに異なることばかりで、物語を聞いているような気がした。
「この世界には七つの国しかないのよね?」
「そうだ。」
「人間がこっちの世界にくるとしたら、どこが多いのかしら?」
ホランは、焚き火に薪をくべながら、少し考え込んだ。
今日は、森の中で野宿だ。
夕飯は、森で仕留めた鹿のような生き物を丸焼きにして食べたところで、今は火を囲んで、まったりとしていた。
「ザイールとアインジャは同じくらいだろうな。ライオネルは、どういうわけか、死体ばかりと聞く。四国はわからんな。」
「じゃあ、ユウがいるとしたら、ここかアインジャね。四国だったら海を渡らないとなのね。」
「簡単に言うが、海を渡るのはかなり大変だぜ。大型の船は国が所有してるのしかないし、それだって、たどり着けるかどうか。」
この世界にはエンジンとかないみたいだから、帆船とか手漕ぎよね。
「あんたらは魔法を使うじゃない?風を操る人はいないの?」
「風か?いると思うが。」
ホランは、なんでいきなり魔法の話しになったかわからないと、首をかしげる。
風を操れれば、帆をつけた小舟のほうが早く進むだろう。ヨットは乗ったことあるから問題ない。
うん、もしこの大陸にユウがいないとしても、探しにいくなことは可能だわ。
「花梨、お客さんがきたみたいだぞ。」
「うん?」
ホランは、振り向きもせず、火のついた薪を後ろに投げつけた。
「ギャッ!」
獸人が一人、転がりながら茂みから飛び出してきた。ホランの投げた薪がヒットし、衣服を焦がしたみたいだ。
「また盗賊?」
「さてな?」
他にも十人ほどの獸人がバラバラとでてきた。
「その女を渡しな!」
獸人達は、各々武器を持ち、ジリジリと近づいてくる。あたしが目当てみたいね。やはり盗賊なんだろう。
「しゃあねえな。腹ごなしの運動すっか。」
ホランは膝に手をあてながら立ち上がると、剣も抜かずにズンズンと歩みよった。
その一見隙だらけの行動に、盗賊達は一瞬戸惑いながらも、すぐに飛びかかってきた。
ホランが無造作に手を払うと、数人まとめてぶっ飛んで行く。一人は木にしたたかに背中をぶつけ、一人は地面に叩きつけられ、もう一人は仲間の上に落ちた。
ホランの一撃に、かなりなダメージを受ける盗賊達。あまりの手応えのなさに、ホランはやる気をなくしたようで、追撃するでもなく、盗賊達の出方を伺っている。
「こいつは、俺より強いぜ。」
ホランは、あたしのほうを指差して言った。
「…。」
盗賊達は声にならない悲鳴をあげ、恐ろしげにあたしを見る。一人が逃げ出すと、後を追うようにみな一目散に逃げていった。
「人を化け物みたいに言って!」
ホランを睨み付ける。
「花梨は、盗賊どもにはよほど魅力的な獲物みたいだな。」
「まあ、若くて、これだけの美人ですからね。」
今まで、一日に二回から三回、盗賊の襲撃をうけていた。ホランがいなかったら、かなり面倒な旅になっていたことだろう。
というか、盗賊が多過ぎ!
国の治安的にどうなのよ?!って思う。
「どうする?場所移動して休むか?もしかしたら、仲間を引き連れてあいつらが戻ってくるかもしれないし。」
「また薪を集めて焚き火をおこすのも面倒だわ。あれくらいなら、何人きても大丈夫でしょ。」
「いや、それをするのは俺なんだけどよ…。まあな、花梨がいいならいいけど。」
獣避けに焚き火を四隅にたき、あたし達はその場で眠ることにした。
ユウは今頃どうしているだろう?男の子だけど、あたしと同じくらい可愛いユウ、怖い目にあってないといいんだけど…。
地面にマントを敷いた上に横になると、あたしはすぐに眠りについた。
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