第7話

 総勢十七人の盗賊を捕まえた。

「これで全員?」

「いや、たぶんもう少しいたような。逃げてはいないから、アジトに数人残っているのかもな。」

「そう…。じゃあ、ホラン、そっちかたしてきてよ。」

「俺が?」

「だって、これから警備兵くるでしょ?あんた、いないほうがいいじゃない。だから、ついでよついで。あんたはその後しばらく隠れてなさい。」

「全く、人使いの荒い奴だ。」

 ホランは、手下を数名連れて村を離れた。

 

 それから数時間後、ホラン以外の者が帰ってきた。

「姉さん、アジトはもぬけのからだ。逃げた後だったよ。宝もなにもなかった。」

「なんだと!?」

 反応したのはガイルだった。

「あいつら!持ち逃げしやがったな!!」

「アジトには何人いたのよ?」

「なんで、それをおまえに話さないといけねえんだ!」

「あら、あんたはこれから捕まるわけでしょ?どんなに怒り狂っても、とんずらした奴らに仕返しはできないわけよ。でも、あたし達がそいつら捕まえて、あんたと同じ牢に送ったら?仕返しし放題だと思わない?」

 本当はそんなことは考えていなくて、仲間が仕返しにくるかもしれないと思ったから、人数を把握したかっただけだ。

 宝だって、なぜ仲間が盗んだと思うのか?仲間なんだから、宝は安全な場所に避難したとは思わないんだろうか?信頼関係のない、それだけの繋がりなんだろう。

「五人だ。ちくしょう!あいつら、次会ったらギタギタにしてやる!」

 ガイルは、五人の名前まで言い、必ず捕まえて牢屋にぶちこめとわめいた。


 空が白々とあけてきた頃、村長とトロが警備兵十人を連れて戻ってきた。大きな荷馬車が三台、その後ろに続いている。荷台は頑丈そうな檻になっていて、護送用なんだろう。

 警備兵の一人が、村長と共にあたしの前にやってきた。

「ガイル盗賊団に襲われた村を助けたとお聞きしましたが。」

「そうです。ガイル一味も捕まえて、ほらそこに縛ってあります。ただ、五人ばかり逃がしちゃったみたいなんです。」

「いや、驚きました。あなたのような女性が。」

「みんなが頑張ってくれたからですよ。彼らは、まあ、あれです、SPみたいなもので、私設警備組織って言うのかしら?民間の自衛団?そんな感じです。」

 警備兵は、あたしの後ろにいるホランの手下を胡散臭そうに見る。

 見た目はバリバリの盗賊だもんね。善良な村民には見えない。

「…そうですか?何か、見覚えのある奴もいるような。」

 あたしは笑ってごまかす。

「似た人は三人いるって言いますからね。気のせいです。」

「そうですかね?まあ、いいでしょう。ガイル盗賊団を引き渡していただいてもいいですか?」

「どうぞ、連れていっちゃってください。」

 警備兵達が、ガイル一味を荷台の檻に縄に縛ったまま放り込んだ。そして、号令をかけ村から出ていった。

「花梨さん、ありがとうございました。」

 村長が深々と頭を下げて言った。

「やだ、とんでもないですよ。頭あげて。最初はこいつらが盗賊したんだし。あたしが言うのもなんだけど、警備兵にこいつらのこと言わないでくれてありがとうございます。」

「いやいや、こちらのほうこそ…。」

 お礼を言い合っていると、どうにも終わらなそうだから、話しを本題に持っていくことにする。

「あのですね、実は五人の残党がいるみたいなんです。そいつらが御礼参りにくるかもしれないし、しばらくの間、ホランの手下共を護衛に雇いませんか?もちろん、金銭はいりません。畑の手伝いとか、こき使ってくれてかまいません。」

「そりゃ、いてもらえれば心強いです。この村には若者がいませんから。」

 村長と話していると、警備兵がいなくなったのを隠れて見ていたホランがでてきた。

「村人達に戻っても大丈夫だと伝えるために、ホームを飛ばしたからな。」

「ありがとう。あのね、村長さんに、あんたの手下共の身の振り方をお願いしてたの。ほら、残党もいることだし、この村の護衛にって。」

「あいつらがいいなら、なんでもいいんじゃねえか?婆さん達も山ん中で飯炊きするより、慣れ親しんだ釜を使ったほうが、やりやしいだろうしよ。」

 ホランは、手下を呼び寄せると、テキパキと指示をだし始めた。

 

 盗賊に破壊された家の修理や、村を囲う柵の強化など、男手が必要になるものから、水汲みや草むしりなど日常的なことまで、事細かくだ。

 手下も、言われたことをスピーディーにこなしていく。

 あたしは力仕事はむかないから、割れた食器などの片付けや、家の掃除なんかをした。途中、仮眠もとったけどね。

 

 村人達が村に戻ってきた頃には、今までよりも整った状態になりつつあった。

 ホランは、戻ってきたハブに色々説明をすると、後のことはハブに託して、あたしのところにやってきた。

「とりあえず、ハブに任せてきた。こっちの修理やらなんやらは、数日かかりそうだな。今日はもう夕方だし、明日たつんだろ?」

「そうね。ちゃんと見届けたい気もするけど、できれば急ぎたいわ。」

「わかった。それで話しをつけてくる。あいつらも、なんだかんだ馴染んで作業してっから、大丈夫だろう。」

 ホランは、またハブの所へ戻っていき、あたしも村長のところへ明日たつことを伝えに行った。

 村長の好意で、あたしとホランは村長の家に泊めてもらうことになり、手下達は数件ある空き家を手直しして住むことになった。足りない分は、自分達で作ったりしそうだ。

 みな、大工になれるんじゃないか?というくらい、凄く器用に家の修繕をしていたから。中には、盗賊になる前は大工だったって獸人も数人いるらしく、応急処置ではなく、本格的な改築じゃないのって思ったくらいだ。

 最初はビクビクと手下達を遠巻きにしていた村人も、マジカ婆さんなどが気安く話しかけているのを見るうちに、話しかけたり、お茶やお菓子をだしたりと、少しずつではあるけど、距離が縮まってきている気がする。

 

 あたしは、村長の家で夕飯をご馳走になり、水浴び(こっちにはお風呂って概念がないみたい。)をすませると、こっちの世界にきて初めて布団で休んだ。

 あーっ、やっぱりお布団は最高だわ!

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