第5話
薄暗い山道を、人相の悪い獸人を引き連れて、ひたすら歩く。
これがユウだったら!
暗くてこわーい、虫イヤーとか言いながら、しがみついたりしてさ、精一杯可愛い女の子アピールするんだけど。こいつ相手じゃね!
目の前のクモの巣を、クモごと払い除けながら、二十回目のため息をついた。
ってか、こんなもん数えるくらい、暇で単調なのよ。
「はあ…。」
「花梨、疲れたのか?」
「なわけないでしょ。飽きたの。山ばっかなんだもん。人のいる村とか町はないわけ?」
「村か…。もうすぐアナ村っていう小さな村にはつくが…。」
「まじで?!なら、早く行こうよ。ほら、ちゃっちゃと歩く。」
ホランは、どうにも足が進まない。
「なによ?どっか痛いの?おなかでもこわした?」
「いやさ、ほら、俺は盗賊だったわけでさ、だからよ…。」
「もしかして、昔襲ったことがある村だとか?」
「うん、まあ…、つい半月くらい前に。」
あたしはおでこに手を当て、空を見上げた。
「全く、なにしてくれてんのよ!で、なにしたの!?って、盗賊なんだから盗みか。人は殺したの?」
「いや!俺らは盗みはするけど、人は殺らねえ。それだけは徹底させてた。」
「それはなによりね。何を盗んだの?返せる物?」
「食べ物とか、金とか、武器なんかだな。あとは、まあ…女とかも。」
グーパンチをホランの腹に叩きこんだ。
「…グッ。いきなり過ぎるだろ。」
「さらった女の人達は?」
「飯炊きとか、身の回りの世話させたりだな。あの村はババアしかいなかったから。」
「それ、失言ね。」
さらにパンチをいれる。
「地味にきくから…。」
「とにかく、すぐに帰しなさい。」
「食料も金も、もうねえよ。」
「女の人達よ。」
「わかったよ!わかったから、もう殴るな。」
ホランは、紙になにやら書くと、首に下げていた笛を吹いた。
しばらくすると、鷹のような鳥がホランの肩に舞い降りた。
「こいつは、仲間との連絡用に飼っているんだ。俺が卵から孵して育てたんだぜ。ホーム、これをハブに届けてくれ。」
ホランは、ホームの足に手紙を結びつけると、空高くに放り投げた。その勢いのまま、鳥は飛んでいく。
「ほら、これでいいだろ?ちゃんと家に帰せって書いたからな。ちぇ、あのババア達の飯、旨かったんだけどな。」
「じゃあ、行きましょ。きちんと謝りなさい!」
三時間ほど歩くと、小さな村が見えてきた。
家が二~三十軒集まった集落で、村を囲うように竹の柵が巡らされているが、盗賊の襲撃に耐えられるような代物ではなかった。
村にいるのは、老人と母親、子供ばかりで、働き盛りの父親や若者などは大きな村に出稼ぎに行っているらしい。
とりあえず、草影に隠れて村の様子を見てみた。
ちょうど昼時だというのに、家の煙突からは煙も上がっておらず、静まりかえっている。誰も外を歩いていないというのが、なんとも不自然だ。
「昼寝でもする習慣があるわけ?」
「いや、なんかおかしいな。」
「ちょっと見てらっしゃいよ。」
「俺が?」
「あんた、あたしの舎弟なんでしょ。当たり前じゃない。」
「俺みたいなバカデカイ奴より、花梨みたいなちっちゃい奴のがむいてるだろうに…。」
ホランは、ブツブツ文句を言いつつも、足音を忍ばせて村の様子を探りにいった。
そんなに待つことなく、ホランは戻ってきた。
「もぬけのからだ。誰もいやしない。」
「なんで?」
「多分だけど、荒らされた様子があるから、うち以外の盗賊に襲われたのかもしれないな。死体はなかったから、全員生け捕りにしたんだろうな。」
「全員?」
「まあ、子供は売れるからな。女も、若めなら子持ちでも売れる。ジジババは…、わからん。人質かな?もしかしたら。出稼ぎに行ってる奴らが、年に数回帰ってくるから。」
「あんたら以外の盗賊がこの辺りにいるわけ?」
「いるな。多分、ガイルって奴が頭をやってるとこだ。あいつのとこが一番近い。」
「盗賊のアジトはわかるの?」
「わかるけど…、なんか面倒なこと考えてないか?」
あたしは、ニッコリ笑った。
「ほら、あんたらSPの初仕事よ。村の人達を助けるの。あんた達が襲ったのが半月前なら、村の人達が拉致られたのはもっと最近でしょ。」
「まあ、そうだろうな。暖炉の感じだと、昨晩くらいかな。」
「なら、まだ売られてないかもじゃないの。ほら、女の人達を帰しても、家族がいなくなってたら可哀想だと思わない?」
「別段思わんが。それに、俺らが連れてったのは、一人もんのババアばかりだぞ。」
「そうなの?」
「若い母ちゃんには、子供がついてんし、子供と母ちゃんを離ればなれにはできんからな。」
「へえ、偉いじゃない。…って、盗賊やってる時点でアウトか。まあ、ほら、今までの悪行を少しでも善行でチャラにしなさいな。」
ホランはため息をついた。
「わかった。わかったけどよ、ガイルって奴は、かなり悪い奴だぜ。殺しもいとわない。今回殺してないのは、抵抗するような若者がいなかったからだぜ。あそこはうちより少数だけど、キレた奴ばかりだ。」
そういうホランは、たいして怯えた様子もなく、ただめんどくさそうではあった。
「強いの?」
「俺よりは弱いな。」
そんな会話をしていると、ホームが帰ってきてホランの肩にとまった。
「偉いぞ。早かったな。」
ホランは、干し肉のかけらをホームにやると、足に結んである手紙をほどいた。
「うーん…。なんかよ、あまり戻りたくないみたいだけど。」
「なんで??」
「知らんよ。情でも湧いたかな。」
「とにかく、今の村の情報も知らせて、SPの出番だからって。」
「わかった、わかった。とりあえず、村襲われた、ガイルのアジトに集合でいいか。」
また手紙を書くと、ホームの足に縛って放した。
「ったくよ、俺は字を書くのが苦手なんだよ。」
「あんたの仲間がくる前に、ガイルのアジトとやらを偵察しましょう。ほら、案内して。」
ホランはため息を一つつくと、諦めたのか歩きだした。
来た道を少し戻ると、途中で二またに道が別れており、来た道と違うほうに曲がる。さらに進むと、崖になっていた。
あたし、ボルダリングは大得意なのよね。崖も余裕で登りきると、その先は獣道になっていた。
「あんた、やっぱりすげえな。女で俺のペースについて歩ける奴はなかなかいないぞ。すげえのは魔法だけじゃないな。」
ホランの手も借りずに崖を登ったとき、ホランは心底感心したように言った。
「魔法…ね。」
実は、歩きながら練習していたんだけど、あの目の奥が赤くなるような感じをつかめずにいた。
惜しいところまでいくんだけどな…。
あの力を自在に操れないことは、ホランには絶対内緒だ。
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