第3話

 身体を固くし、衝撃を待ったが、予想していた衝撃はいつまでたっても訪れなかった。


 目をそーっと開ける。


 トラックが急ブレーキかけてくれたんだろうか?もしかしたら、目の前にドーンとトラックがあったり…し…ないな。

 それどころか、アスファルトがない!

 見渡す限り、山?林?木が生えてて 、明らかにさっきまでの風景と違う。


「…やっ…た~!!」

 

 あたしは絶叫した。

 きっと、ここはユウのいる世界だ。あたし達がいた世界ではないかもしれないけど、それはどうでもいい。

 ごそごそと、制服の胸ポケットに入れてあったユウの写真をとりだす。あっちの世界では、ユウが消えてしまったいた写真。

「よっしゃ~!!!」

 ユウが元通り写っている。つまり、この世界にユウはいるんだ。絶対見つけるんだから!

 久しぶりにみた写真の中のユウは、相変わらず可愛かった。

「とりあえず、ユウを捜す前に、人を捜さなくちゃね。」

 まずは水の確保をしなきゃ。

 人のいる村に辿り着く前に、脱水っ干からびたら洒落にならないもの。

 獣道のような山道を、とりあえず下るように進む。木の枝にひっかかったり、トゲのある葉が刺さったり、木の根っこにつまずいたりで、制服はボロボロ、手足は傷だらけだ。

「こんなことなら、フル装備でくればよかった。やっぱり、思いつきで行動するもんじゃないわね。下準備は必要よね。」


 しばらく進むと、ビンゴ!川があった。けれど、すぐ飲むことはせず、茂みに隠れて様子を見た。

 もし飲めない水だったりして、こんなとこで水あたりになったら、目もあてられないから。目をこらすと、魚らしき物体が泳いでいるのは見える。

 あまり待たないうちに、川の反対側から獣が現れた。鹿…に似ているけど、鹿よりも耳が小さめだ。その生き物は、川の水を飲むと耳をピクピクさせてすぐにどこかへ行ってしまった。


 飲めるみたいね。

 

 川へ下りると、まず顔を洗い、手足の汚れをおとした。川の水は冷たく、傷にしみたが、頭がしゃんとする。

 水をほんの少し口にふくんでみた。

 

 ああ、生き返る!

 

 思っていた以上に喉が渇いていたらしい。

 スカートのポケットをあさると、キャラメルがでてきた。とりあえず、一つ口に放り込む。

 水があって、動物がいて、頑張ればなんとか生きていけるだろう。

 

 ユウも、いきなりこんな状況に放り出されてしまったんだろうか?あいつが、こんな状況で生き残れるとは思えない。

 うちとユウの家族で行ったアウトドアキャンプのときだって、ユウはなにもできなかったもの。

 

 おなかをすかせて泣いていないだろうか?怪我とかしてないだろうか?

 

 ユウのことを考えると、心配で胃がギュッとなる。その分、なんとしても生き残らなければ!という気持ちにもなる。

 

 さて、川を下りますか。川沿いを行けば、人の住む場所に辿り着けるかもしれないものね。

 

 川を下りつつ、枯れ枝を拾って歩いた。倒れた大木を見つけ、木の皮をはいで細かくさいたり、丈夫そうな弦を見つけて、ロープのようにまとめて肩にかける。火を起こす材料にするためだ。

 もとの世界では夕方だったけど、この世界ではまだ昼を少し過ぎたくらいだろうか?木々が生い茂っているから、太陽の位置が今一つかめない。

「寝る場所の確保と、火をおこしといたほうがいいわね。」

 川岸に大きな岩があり、人一人入れるくらいの窪みがあった。多少の雨くらいならしのげそうだ。

 少し早いけど、ここを今日の寝場所に決めた。

 

 暗くなってから慌てたくないものね。

 

 次は火だ。

 

 枯れ木の上に木の皮を細かく裂いたものを敷き、弦を木の棒に巻き付けてクルクル回転させた。木の棒はぶれないように、平べったい石で上を押さえながら、次第に回転数をあげる。一時間くらい続けただろうか?焦げ臭い臭いがしてきて、木の皮から煙がでてきた。

 息を吹き掛けると、赤い炎があがる。火のついた枯れ木にもっと木の皮をくべ、炎が大きくなったところで、枯れ木をくべた。

 火のないとこでの火のつけ方も、キャンプに行ったときに覚えた。

 無茶振りの好きなあたしの父親が、あたしとユウに火を起こせって言ったんだよね。マッチもライターも持ってなくて、途方に暮れてたら、ユウがこのやり方を教えてくれたの。

 

 まあ、ユウは知識だけで、実践はからきしだったけど。


「あたしって天才!」

 焚き火の周りを石で囲い、風などで火が消えないように工夫する。

「次は食料ね。」

 靴と靴下を脱ぎ、川へ入る。川は膝下くらいの深さで、流れは早くはなかった。

 大きな岩のところまで行くと、そーっと岩の下に手を入れた。手に何か触った瞬間、迷わずつかんで引っ張り出す。

「蟹?」

 手のひらくらいの大きさの、蟹のような生き物だった。

 川から上がり、木の棒に蟹を刺すと、火にあぶってみた。地面に木の棒を固定し、次は魚釣りにチャレンジする。

 弦にヘアピンで作った針を付け、土を掘って見つけた芋虫を刺す。


 芋虫…、実は全然平気なのよね。


 虫全般、比較的大丈夫。可愛い女の子をアピールしようと、ユウの前でだけは「きゃあ!虫!」なんて叫んで、ユウに抱きついたりしてみたこともあったけど、演技だったりするわけだ。後、王道だけど、お化け屋敷とかね。

 いつもは気が強い女の子が、たまに見せるか弱い面って、かなりモエない?しかも、他では強がって、自分の前でだけ…とか、あれ?って思うでしょ?

 小狡い感じはするけど、好きな人には可愛く見せたいじゃないの。

 

 しばらく待つと、手応えがあり魚が釣れた。

「まじで天才かも…。」

 蟹と同じように木に刺し、焚き火でじっくり焼く。

 蟹と魚をよく焼き、全てたいらげた。おなかもいっぱいになると、今度は眠くなる。

「この状況で眠くなるあたしって、どんだけたくましいんだろう。」

 誰もいないのに、いやいないからこそ、考えていることが口にでる。

「地べたに寝るのは嫌よね。なにか、大きな葉っぱみたいなものは…と。」

 見渡すと、川の向こう側に、大きな葉のついた背の高い草が生えていた。その葉を数枚取ってきて地面に敷き、簡易布団にする。学生鞄を枕にし、横になってみた。

 地面は固く、寝心地がいいとは言えないけれど、なんとか眠れそうだ。

 

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