第2話

 あれから1ヶ月、ユウがいない日常が流れていた。

 誰に聞いても、ユウは忘れ去られていた。

「佐藤さん、ぼくと付き合ってください。」

 三年一組の男子が、頭を下げながら手を差し出した。

「ごめんなさい、好きな人いるから!」

 

 今月、何人目だろう?ユウがいたときは、こんなに告られなかったのに。

 校舎裏に呼び出されて告白される。 →断る。

 この繰り返し、うんざりだ。


「好きな人って?」

「あなたの知らない人。(本当は知ってるはずだけど。あなた、ユウと同じクラスだもんね。)青木ユウっていうの。」

「そっか。付き合ってるの?その学生鞄、彼のだよね?」

 学生鞄、ユウのやつを使っていた。これを持っている限り、ユウを忘れない気がしたから。

「そうね、そんな感じ。」

「わかった。聞いてくれてありがとう。」

 男子は、足早に去っていった。

 やれやれだ。

 告白されるたび、ユウがいないって思い知らされる。誰もユウを覚えていない。

 

 明日は文化祭、みんな盛り上がっていたけど、あたしはそんな気分になれなかった。

「花梨、帰るのー?マックしない?」

 梓が廊下の窓から顔をだして叫んだ。

「ごめん、用事あるから!」

 あたしは手をヒラヒラふって答えた。

 あたしはユウの学生鞄を手に裏門へ向かう。


 毎日習慣のように行っている、ユウが消えた場所。放課後から、日が沈むまで、なにも代わり映えしない景色を、とにかくずっと見る。

 どこかに、時間の継ぎ目が、次元の継ぎ目があるんじゃないか?見続けていれば、霊感ゼロのあたしにも、何か未知のものが見えるかもしれない。

 でも、当たり前なんだろうけど、なんにも見えない。

 見えなさすぎて、怒りすら覚えてくる。

「ユウのやつ、あたしになにも言わずに消えちゃって…。あたしがいないと、なにもできないくせに!絶対、絶対、捜しだしてやるんだから!!」

 あたしは、こぶしをフルフル握りしめ、あることを決意する。

 

 もうこれっきゃない!

 

 一ヶ月悩んだ。目を皿にして…っていうけど、充血するくらい、ユウが消えた場所は、蟻の巣穴も把握してしまうくらいくまなく見つくした。

 神隠しのことが書いてある本も読んだ。スマホで検索もした。

 

 でも、わかんないんだよ。

 どうすればいいのか、子供みたいにジタバタしてしまうくらいわからなすぎたんだもん。

 だから、あたしなりに結論をだしたんだ。

 ユウと同じことをする!

 

 もしかしたら、大事故になっちゃうかもしれないし、下手したら死んじゃって、自殺扱いされるかもしれない。


 ママ、泣くよな…。

 

 覚悟が揺れる。

 ユウの学生鞄を抱きしめ、震える足を叱咤するように叩く。


 怖がるな!

 

 どうしても一歩がでない。

「かりーんちゃん!」

 いきなり両肩を掴まれ、びっくりして思わず車道側へ飛び出てしまう。

「アブッ!!」

 あたしの肩を掴んだのは、梓の彼氏の友達の一樹だった。

 一樹のひきつったような表情、車のヘッドライトとクラクションの音。伸ばされた一樹の手。

 全てがスローモーションのようだ。

 近づいてくるトラックも…。

 

 たぶん、本当は数秒の出来事だったはず。あたしはギュッと目をつむり、ただ「ユウのところへ行きたい!」とだけ強く願った。




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