第6話
酔った勢いとはこういう事なのだろうかと思った。お酒を飲んではいないが。
こういう事をしたのは初めてだ。相手が確実なきっかけを見せたら、あとはすんなり行くものなんだなぁ、と。思わせぶりが一番厄介だと思った。
「先生、誰かは聞かないけれど、こういう関係の子って他に何人位いるの?」
一度寝てしまうとこんなにもくだけて話せるのか。いつも誰にも馴れ馴れしい奴の何割かは、こういう事をしているのだろうか。先生と関係を持っている子は意外にも一人だけらしい。名前まで教えてくれた。隣の課に居る、いつも自信たっぷりの可愛い子だ。
○
それからも先生の部屋にはたまに行っている。お互い小さな空気穴の様な関係だと思っているだろう。(と、私は思っている)
ちょっとストレスが溜まった時に、ストレスが溜まりそうな時に、そうならない様に。想像だけれど、男の人がキャバクラに行って疑似恋愛を愉しむような感覚だろうか。行きたい時にだけ行く。
メンタル室に行く回数は減っているが、先生の部屋へ行く回数と合わせると結局一緒な気もする。お互い独身だし、何も問題は無いだろう。
○
先生の彼女の一人が(先生の彼女は三人に増えていた。勿論私は彼女ではない)時々蒼白な顔で歩いている。本気になってしまったのだろう。先生は女の扱いが上手いから口八丁でなだめられているのだろう。先生も男の自信が欲しい人だから、極力近くに女を置いておきたいのだろう。
○●
ライブハウスに行くと毎回のように顔を合わせていた菊池さんから最近アプローチが来る。先生の所に通う内に、女子力に磨きがかかったのだろうか。しかし菊池さんからはっきりした何かがある訳ではない。思わせぶり、だけじゃはっきりしないからすっきりしない。今日も先生の所へ行こうか。部屋の方へ。
○
先生に、菊池さんの事を話してみた。ライブハウスで会う年上のバンドマン。妙な色気があって、彼と話している女性は全て彼に対して【照れている】ように見える。
菊池さんは女性と話す時、絶妙な距離で顔を近づける。話し方も優しくなる。多分色んな事を心得ているのだろう。菊池さんと話す女性は多分ほぼ、勘違いをしてしまうのだろう。
「その菊池さんは、モテる人なんだろうね。話を聞いてると女性に対する態度が自然だね。それか、物凄く女にだらしない人かどっちかだね」
確かに、菊池さんと仲の良い男の人は菊池さんの事を冗談を交えつつ「金と女にだらしない」等と云う。大まか冗談でもないのだろう。
「けれど俺は嫌だな、そんな態度をとるのは。思わせぶりな事はしたくないから、興味のある女性以外にはきちんと距離をとるけどなぁ」
確かに、先生は解り易くて良い。私と過ごす気分じゃない時は忙しそうにして「ごめん、今日は別の用事があるんだ」等とはっきり云う。
別の用事とは、本当に用事かもしれないし、彼女と約束があるのかもしれない。けれども嘘ではないし、私も納得しやすい表現なので色々スムーズに済む。後日のフォローもきちんとしてくれる。
決して「彼女と」と云わないのは、恐らく私への多少の気遣いだろうと思っている。多分正直に云われたら、私は少し【つまんない】気持ちになると思う。
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