第19話


収穫祭2日目、ユートの1日はイビルにたたき起こされる所から始まった。最近こういうことが増えている気がする。


 「おきぃ……」


 そう言ってイビルはユートがかぶっている布団を引っ剥がした。肌寒い空気がユートの肌を直接刺激している。冒険者と言っても寒いものは寒い。それに、暑いものは暑い。


 「布団、布団……」


 ユートは手をうにょうにょ伸ばしたが手には何もつかめなかった。ユートは起き上がった。


 「おそぉ……」


 イビルはユートに向かって言った。頭にはユートの布団が被さっている。


 「ギルマス、イビルは起きるのが遅いって言ってるゼ」

 「ああそうだナ、もう7時半だゼ」


 イビルの頭と布団の間から顔を出したゴズとメズが言った。イビルは少しむくれているようだ。


 「え、もう午後?」


 ユートが時計を見ると時刻がちょうど7時の鐘が鳴った。


 「なわけないだロ」

 「ああ、午前7時ダ」


  ユートの質問に答えるようにゴズとメズが言った。言われてみれば、外から朝日が射し込んでいる。


 「起きるのが、早くない?」


 ユートがイビルに向かって言った。イビルの目が潤んでいる。


 「いやぁ?……」


 こんな目をされて嫌だったと言えるわけがない。ユートに対しては効果が抜群だ。


 「じゃあ、準備するから先に下に降りといて」


 ユートがそういうとイビルは頭の上に乗っている布団を置いてユートの部屋のドアが閉まった。もう一回寝ようとも思ったがそんなことをするとイビル殺されるので止めた。



 しばらくしてユートが下に降りるとイビルが玄関前に立っていた。なかなかオシャレな服になっていて可愛い。ゴズとメズはソファーに座っている。


 「あれ? 二人はいかないの?」


 ユートは二人に向かって行った。ゴズとメズは基本的にイビルの横にいるようにしている。基本的に通訳としてなのだが。


 「今日はひとりが良いって、言われたんダ」

 「ああ、これだけ長く接していたらギルマスも言いたいことわかるだロ」


 そこまで言われてついてきてほしいなど言えるわけがない。


 「ナハトとリヒスは何をしてるの?」


 ユートはゴズとメズに聞いた。こんなに早く起きたのだからまだ寝ているのだろうか?


 「ナハトは寝ている。リヒスはさっきクレイドから連絡があってトレーダーに向かったゼ」


ーー何かあったのかな? 後でいった方がいいかな?


 「ひとりで大丈夫だから今日はイビルと遊んでやってくれとも言っていたナ」


 ユートの心を見透かすような言葉をメズが言った。そう言われてしまっては仕方がない。


 「そう」


 ユートは、そう言った後イビルと外にでた。昨日と同じようにとてもにぎわっている。


 「どこに行く?」


 ユートは横でユートの手を握っているイビルに向かって言った。何か買いたいものがあるのならついていってあげようと思っていた。


 「こちぃ……」


 イビルはそう言って掴んでいるユートの手を引っ張って歩き始めた。どうやら何か買いたいものがあるらしい。



 「ここ……」


 イビルがそう言って立ち止まった。そこは大通りからはずれた道で何か怪しげな雰囲気がでている。


 「なにここ?」


 ユートがそうきくとイビルは看板を指差した。ここは死霊魔術師〈ネクロマンサー〉の魔導書がおいている店のようだ。死霊魔術師〈ネクロマンサー〉が魔物召喚する際にはその魔物の魔導書が必要になる。強い種類の魔物は依頼や難しいダンジョンをクリアしないと手に入れることができない。イビルが使っている三恐もすべて依頼やダンジョンをクリアして手に入れたものだ。

 イビルはゲームの時に手にいれた魔導書しか持っていない。


 「はいるぅ……」


 イビルはそういって店のドアを開けた。中は想像通りの内装をしている。少々薄暗い。

 中のカウンターには誰かが座っていたがこちらをちらりとみただけで話す様子はないようだ。


 「こちぃ……」


 イビルはユートの手を引っ張ってある本の前に移動した。

 ユートはステータス画面をのぞいてみたがそこには苦Qクッキューと書いてある。魔物の能力は召喚してみるまではわからない。


 「これが気に入ったの?」


 ユートがそうきくとイビルは頷いた。しかも、それほど高くはない。


 「わかった」


 


 ユートはが魔導書を購入して元の大通りにもどった。イビルも先ほどから機嫌が良い。


 「これぇ……」


 二人で大通りを歩いていると不意にイビルがユートの裾を引っ張った。

ユートも足を止めて見た。そこにはいろんな人形がおいている。イビルが手を伸ばして人形を手に取った。よく見るとゴズとメズににている。


 「かわいぃ……」


 イビルはそう言って眺めている。ゴズとメズをつれていないのは少しさみしいのだろうか。


ーーにしてもゴズとメズにいているな。でもこの世界にはいないはずなんだけど。


 ユートはそう思いながらイビルに人形を買った。おそらくイビルのゴズとメズの横に置いたらどれが本物かわからないだろう。



 人形を買ってからしばらくの時間がたち、もうすでに日が暮れ始めていた。


 「帰ろうか」


 ユートはイビルに向かっていった。そろそろ家ではリヒスがご飯を作っているだろう。


 「かえるぅ……」


 ユートとイビルは自分たちのギルドホールに向かって足を向けた。こういうことを多くしていきたいなの思いながら。



 三日目


 「次はあれを食べましょう」


 リヒスがユートに向かって言った。もうすでに日が高く昇っている。


 「まさか、二人そろって寝坊するなんて」


 ユートは隣で焼き鳥をかじっているリヒスに向かって言った。二人が起きた日にはもう昼前で大急ぎで外にでたとういわけだ。昨日は忙しかったから仕方がない。


 「そう言えば、昨日は忙しそうだったけどなにがあったの?」


 ユートはリヒスに向かって聞いた。昨日もかなり疲れていた。


 「まあ、どうやら人数が増えていたようで手が足りなかったそうです」


 商人の宿泊施設であるトレーダーは宿泊するときに人数をかく。その人数が記入されていたものより多かったのだろう。そのため食材やその他の多くの雑貨が足りなくなってしまった。


 「それに、人手も足りなくなったようで」


ーーそれならそれで、何で連絡がなかったんだろう。


 「ギルマスに連絡しても私に回ってくるだからじゃないですか?」


 ユートの心の中を読むようにリヒスが答えた。ー正論ではあるーそのせいで否定をすることは出来ない。


 「いつも、ごめんな」


 ユートはリヒスに向かって言った。この町に来てから書類仕事や多くの事務仕事を任せてしまっている。それを文句を言わずにーたまに言っているがーしてくれているリヒスにとても助けられている。


「そう思うんなら、もう少しゆとりを持って仕事をしてほしいですね」


 リヒスはユートにむかって言った。


 「以後気をつけます」


 ユートがリヒスにむかって言うとリヒスは微笑んだ。


 「じゃあ、次はこれを食べましょう」


 リヒスは他の店の方に指を指した。

 ユートたちが食べ歩き?のようなことをしていると広場でティーナによびとめられた。


 「ちょっと、お願いがあるんねんけど」


 ティーナはそう言って、いつの間にか広場の真ん中に用意されている台の後ろに二人はをつれてきた。周りには多くの人が集まっている。


 「どうしたんですか?」


 リヒスがそう聞くとティーナはなにやら服を出してきた。


 「私たちの所なにをするか知ってる」


 そうティーナにきかれたがユートにはわからない。わからないユートの代わりにリヒスが答えた。


 「確か、服を御披露目するんでしたっけ」

 「そんな感じやね」


 それを聞いたユートは何かいやな予感を察知した。このタイミングでのお願いは一つしかないだろう。


 「この服を着てでてほしいんよ」


ーーだと思った。


 ユートはもともと人の前にたつのはそこまで好きではない。ましてや服のモデルになるなんてもってのほかだ。


 「良いですよ」


 ユートが返事をするまえにリヒスが答えた。


 「いいですよね?」


 リヒスはユートの方を向いて言った。さすがにこれを断れるような人間ではない。


 「いいよ」


 ユートがそういうとティーナは袋を二つ取り出して二人に一つずつ渡した。



 「これを、着て来て。そこに着替えるところあるから」


 ユートは心の中でため息をつきながら更衣室へと向かった。


 「格好いいですよ。ギルマス」


 ユートが裏で待機をしていると更衣が終わったリヒスに話しかけられた。リヒスもかなりかわいくなっている。


 「じゅんび出来た?」


 二人に向かってティーナが聞いた。もうすぐ二人の番なのだろう。


 「出来ましたよね。ギルマス?」

 「もちろん」


 それを聞いてティーナは満足したように頷いた。


 「じゃあ、がんばってね」


 ティーナはそういってカーテンのようなものを開けた。観客が大勢いる。


 「その道を歩いてくるだけやからね」


 ユートは飛んでいこうとする意識を必死につなぎ止めて足を踏み出した。



 その後突き当たりまでいったときに観客席にいたナハトがユートに飛びついたため、少し辺りは混乱した。このときに着た服はもらえたので良しとしよう。

 周りの空気は最終日に向けて徐々に高まっていっている。



 


 



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