第16話

 ナハトが地水竜(チスイリュウ)を倒し終わりティーナと話をしている時、浜辺の木の陰からユート達をみている男がいた。顔はフードに隠れていて見えない。そして手に持った水晶玉をユート達の方に向けていた。


 「あーあ、やられちゃいましたか」


 ある深い森の中、誰も知らないような屋敷の中で机においた水晶玉をみている男がそうつぶやいた。水晶玉の中にはユート達とある倒し終えた地竜竜(チスイリュウ)が映っていた。


 「ああ、面白い人が映ってる。そりゃ倒されるのも当然かな」


 男がそうつぶやいた後、水晶の向こうからフードの男が口を開いた。


 「この後何を致しましょうか? 御命令を」


 男は直ぐに撤退を命じた。そこにためらいは感じられなかった。


 「はっ」


 浜辺にいる男はそう言って、水晶玉を直そうと鞄を開けた。しかしそれを直す前に後から一組の男女が現れた。そして女の方が男に話しかけた。


 「おい、貴様ここでなにをしている」


 その問いに関する返答をしたのはフードの男ではなく水晶玉の中からだった。


 「あれ? 貴方がたは余程の事がないと干渉してこないのではありませんでしたっけ?」

 

 その声を聞いたとき二人の顔が引きつった。それを見透かすように水晶玉の向こうにいる男は言葉を紡いだ。


 「お久しぶりですね。前あったのは……何年ぶりでしょうか? もう忘れてしまいました」

 「貴様! 何で……そこにいる」


 男はそれには答えず薄笑いの声だけ聞こえた。そして、弟の方が口をひらいた。


 「めんどくさいから、とりあえずフードを捕まえるよ」


 そう言って魔法を唱えようとした。しかし……


 「相変わらず、きみは相変わらずいつも面倒くさそうですね。まあこちらとしても捕まえさせるわけにもいきませんので、凶大な城グレバィル・キャッスル出てきなさい」


 その声が聞こえた後、姉弟の地面の下が盛り上がって魔物が現れた。


 「めんどくさいなぁ~ていうかこんな魔物みたことないよ」

 「そんな事いう前に早く倒すぞ」

 

 そう言って二人が倒し終えた時はその場所にフードの男はいなかった。弟はフードの男が水晶玉を向けていた方を見た。そして二人はその場から立ち去った。そしてその後には夜の涼しい風が吹いていた。



 自分達がはなしていた影で何があったのかを全く知らないユート達は、海岸で後片付けをし始めていた。


 「イビル、|切り裂き男(ジャック・ザ・リッパー)達の所行くよ」

 「おけぇ……」

 「イビルはわかった。って言ってるゼ」


 その後、ユートは町の方に歩き始めた。イビルもユートの横に並んでいる。ゴズとメズはイビルに抱きかかえられている。クレイドとルミアは戻ってきており、そしてクレイドは地水竜(チスイリュウ)をどうやって捌くか苦戦していた。リヒスは子供たちの面倒をみており、ナハトとエウロパは二人で遊んでいた。


 「そういえば、三恐達はどうしたんだ?」


 ユートは気になっていたことを聞いた。地水竜(チスイリュウ)と戦闘が始まるまで、海岸線で半漁人マーマン達を威嚇していた。


 「かえぇ」

 「イビルは帰らしたって言ってるゼ」


 そんなをしていると直ぐに切り裂きジャック・ザ・リッパーのところに着いた。周りには半漁人マーマンが縄で縛られていた。その様子を見ている二人の下に幻影の魔術師ファントム・マジシャンが向かってきて、跪いた。


 「イビル様、命は果たしておきました」

 「ありぃ」


 そう言った後、幻影の魔術師ファントム・マジシャン半漁人マーマンを見張っていた|切り裂き男《ジャック・ザ・リッパー)はイビルが召喚をといたため消えた。

 ユートはイビルを通して、半漁人マーマンを少し縛っておいて置くように言っていた。ユート達があれほど半漁人マーマンを殺すと生態系が壊れてしまうのではないかと懸念したからだ。


「じゃあ、始めるか」


そう言ってユートは半漁人マーマンの束を持ち上げ縄で縛られたまま海の中に放り入れた。その行動をイビルとユートで合計二十回ほど行ったところで半漁人マーマンの束が無くなった。それが終わった後ユート達は周りの瓦礫を片付け、皆の元へと戻った。


ーーにしても、クレイドは地水竜(チスイリュウ)を裁けたのかな?


 ユートがそう思いながら歩いていると向こうのほうからナハトが紙の皿を持ってこちらに走ってきた。どうやらクレイドは何とか地水竜(チスイリュウ)を裁けたようだ。しかし朝ごはんから肉というのもそれはそれで辛い。その証拠にナハトとエウロパ以外はほとんど手が進んでいる様子は無い。そして、ユートも食べられるようなおなかの調子ではなかった。


 「ギルマス~口あけて~」


 ナハトはそんなユートの心の中も知らずナハトはこちらに向かって走ってきた。そしてユートの前で立ち止まり紙の上に乗った肉を差し出した。


ーーこれはもう諦めるしかないか……


 そう思ったユートはおとなしく口をあけた。


 「じゃあ、これあげるね~」


 そういってナハトはユーとの口の中に肉を放り込んだ。その後ナハトは元の場所に戻っていった。その肉を詰め込んだ後ユートは座って海を眺めているフィナに話し掛けた。なぜかティーナが見あたらない。


 「そろそろ僕達は帰ろうと思うんですが。フィナさんたちはどうしますか?」


 ユーとがそう聞くとフィナはくちをひらいた。


 「私達もその予定ですよ。すでに帰らせている子達も居ますしね。それにティーナもさっき帰って寝るって言って帰っちゃいましたし。」


ーーどうりでさっきから見ないわけだ。


 ユートはそれを聞いた後他のみんなを集めた。自分がもう帰ることを伝えた。



 ユート達が帰ってきて二ヶ月ほど経過し、秋の風が部屋の中に吹き始めた頃、ユートはまたもや紙が沢山置かれている自分の部屋で頭を抱えていた。


 「相変わらず、おわんねぇ!」


 決してユートの事務処理能力が劣っているというわけではない。むしろユートの事務処理能力は上がっているといえるだろう。しかし、それよりも頼まれてくる依頼が多すぎるのだ。


 「そうですよねぇ頑張ってるんですけどねぇ」


 そう言っているリヒスの声には怒気がはらんでいたためユートは思わず口を閉じた。

 その後少しして、誰かが尋ねてくる音が聞こえたため二人は一階に降りたするとそこには一枚の紙を持ったティーナが座っていた。

 向かいの扉からはクレイド達が出てくるのが見えた。


 「急にどうしたんですか?」


 ユートはティーナに向かって聞いた。


 「収穫祭の出展を決めてもらおうと思ってな」


ーー収穫祭? 何だそれ


 ユーとが首をかしげている様子を見てリヒスが小声でユートに説明をした。


 「収穫祭とは、一年に一回行われるお祭りごとで、いろんなギルドが屋台を出したりするらしいですよ」

 「なるほど、ありがとう」


 ユートはリヒスにそう言った後ソファーに座っているティーナの向かいにすわった。ナハトとイビルは今エウロパの部屋に行っている。


 「でな、話をするとな、この収穫祭でどのギルドが何をするかを一様こっちに知らせることになってんねんけど、あんたらのとこだけ決まって無くてなハイリターンのギルマスのアリオスが催促しにいけって言うもんやから。紙届いてへん?」


ーー届いていたとしても分からないだろうな。あの環境じゃ


 ユートは沿う思って思わずため息をついた。


 「今決めれば良いんですか?」

 「そうしてくれると助かる」


 その様子を聞きつけたようにエウロパの部屋から三人が出てきた。


 「話は聞いたっすよ! 私の研究成果を売るって言うのはどうっすか?」

 「却下」


 目をきらきらさせていった意見をユートはばっさりと切りすてた。エウロパがつくっているのは未完成品ばかりで売り出せるようなものではない。売り出してどうなるのかはたいてい予想がつく。


 「無しって言うのは無いんですか?」

 「もちろんあるで、ていうか基本それやね。屋台とか出店するのは一部のギルドだけやね。生産系のギルドは食べ物を出す見たいやし、加工とかをするギルドは武器とかをいつも売ってるな~」

 「そうなんですか、今回は無しでお願いします。仕事もたまってますし」

 

 ユートの発言に皆も納得したようだったので(どこぞの考古学者はそうでもなかったようだが)、ティーナは用紙に書き込んみギルドを出て行った。


ーーそういえば、ティーナさんのところ何をするのか聞きそびれたな


 ユートはそう思いながらソファーに座っていた。すると後ろから嫌な言葉が聞こえてきた


 「さて、ギルマス。本来の仕事に戻りましょうか」


 ユートは気が乗らなかったが、どうせやらなければいけないと思い立ち上がった。


ーー収穫祭か。この世界は退屈しなくて良いな。


 ふと、そう思って歩くユートの足取りはとても重かった。

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