第15話

 「ゴズがそろそろ戻ってくるゼ」


 ユートが海のほうを見ているとメズがそう言った。そして直ぐに海の中からゴズが飛んででてきた。それも座っているユートの頭の上に。


 「ちょ! 何やってんの」


 ユートは濡れた髪の上に乗っているゴズに向かって言った。頭からは水滴がぽたぽたとたれている。


 「さっきの恨みに決まっているだロ」


 ゴズはしれっと答えた。ユートもこれ以上言っても仕方が無いと思ったので話を切り上げた。


 「さて、ティーナさんに報告しに行かないとな」


 ユートはそう言って立ち上がった。そして、海岸に座り込んでいるティーナとフィナの方向に歩き始めた。いつの間にかクレイドたちが向かった町の戦闘音は聞こえなくなっていた。


 「二人とも。少し良いですか?」


 ユートはそう言って二人の横に座った。ユートの胡坐の上にはナハトが座りリヒスとイビルはユートの後ろで座り込んでいる。


 「どうしたん?」


 フィーナはそう言って首をかしげた。遠くからでは分からなかったが相当疲れているようだ。


 「半漁人マーマンが地上に出てきた理由が分かりました」


 ユートがそう言うと、二人は驚いた顔をした。


 「どんな理由やったん?」


 フィーナがユートに向かってそう問いかけるとユートの頭の上に乗っていたゴズが砂浜に降りた。


 「ここからは、俺が説明してやるゼ」


 そして、ゴズはさっき海の中に入り原因を探ったことやそこで地水竜チスイリュウを見つけたことなどを話した。その話を聞き終えた後、フィナがゴズに対して質問を投げかけた。


 「どうして、名前が分かったの?」

 「俺とメズのスキルに情報開示インフォメーション・オープンがあるんダ。このスキルのおかげで敵の名前、種族、スキルを使用したときの相手の状態を見ることが出来るんダ」


 ゴズがそう言うとイビルに抱きかかえられた、メズがうなずいた。そしてその後の言葉をユートが続けた。


 「おそらく、地水竜チスイリュウ半漁人マーマンの餌場を奪っていることでえさを求めて地上に上がってきているんだろうと思います」


 ユートがそう言うとティーナが口を開いた。


 「じゃあ、地水竜チスイリュウをどうにかすれば良いってこと? でもなあの竜はめったなことでは、地上に上がってこないんよ」


ーー知らなかった。


 ユートはこの世界に来て多くの魔物の名前や生態などを覚えたが、知らない魔物のほうがもちろん多く、よくフィナやティーナの発言から知ることが多くある。今回もそれの一例だ。


 「どういうときに外に出てくるんですか?」


 ユートはそのことについてティーナに尋ねた。さすがに海の中で戦闘は出来ない、地水竜チスイリュウを倒そうとするのならば地上に連れ出してから倒すほうが色々と有利に進むだろう。


 「そうやな~確か……」


 ティーナはそう呟いた後、フィナのほうを向いた。


 「はいはい、覚えて無いんですね」


 フィナがティーナに向かってそう言った。


 「いいやん。どわすれやん」


 ティーナがそう言った後、フィナが続きを話し始めた。


 「基本的に、外に出ることはまれで湖などに移動するときぐらいしか無いですよ。後はまれに敵から逃げるときに陸に出ますけど」


 それを聞いてユートにある一つの考えが浮かんだ。湖に移動するときを待つというのはあまりに時間が掛かりすぎる。使うとしたら敵から逃げるときだろう。


 「イビル、強い敵が居ると思わせることできたよな?」


 ユートはイビルの方を向いた。


 「もちぃ」


 イビルはそう言ってうなずいた。ひざの上には相変わらずメズを乗せている。


 「そんなことできたん?」


 するとティーナが驚いたようにイビルに問いかけた。


 「できぃ……」

 「イビルはもちろん出来るって言ってるゼ」

 「そうなんや~私のギルドに死霊魔術師ネクロマンサーいないんよね~」


 フィーナはそう言った。確かにユートもグリーンヒルで死霊魔術師ネクロマンサーを見かけたことは無い。死霊魔術師ネクロマンサーを使用している人たちでも、そんなスキルを使用していることを見たことは無い。そのため、ティーナが知らないのも当然だろう。


 「多分、低レベルの人たちは危険になると思うので少し離れてもらって置いてください。直ぐ終わることにはなると思いますけど」

 「分かった」

 「じゃあ行こうか」


 ティーナがそう言って頷くのを見た後ユート達はその場を離れた。


 「おれと、イビルは朽ちた竜ボーンドラゴンに乗っていくから、二人はここで準備しといてね」


 ユートはナハトとリヒスに向かって言った。エウロパが見当たらないがおおよそメンテナンスでもしているのだろう。


 「分かりました」

 「りょうか~い」


 二人に言葉を聞きながらユートはイビルと朽ちた竜ボーンドラゴンに乗り込んだ。




 「ここだナ」


 沖の方に飛びゴズがそういった所で朽ちた竜ボーン・ドラゴンを止めた。


 「ここの下?」


 ユートがそう言うとゴズはうなずいた。そしてイビルはスキルを使用した。


 「幻の強者ファントム・ファイター


 そう言うとイビルが吐く息が紫色に染まり下へと下っていった。

 そして、時間が少し経過した頃、海に波紋が広がり一直線に岸のほうまで地水竜チスイリュウが泳いでいった。

 ユート達は地水竜チスイリュウを待ち構えようと思い泳ぐ速度を超える速さで岸まで向かって言った。そして、地水竜チスイリュウが出てくる前に岸にたどり着くことが出来た。


 「ティーナさん、離れてもらえましたか?」


 ユートがそう聞くとティーナは胸を張って答えた。


 「もちろん。それよりも直ぐ終わるってどういうことなん?」

 「それは、見ていたほうが早いです」


 ユートがティーナに答えた次の瞬間。に地水竜チスイリュウが海から出てきてユート達に襲い掛かろうとしてきた。空中には、蝙蝠に乗ったナハトが居るのだが地水竜チスイリュウはそのことに気づいていない。


 そして地水竜チスイリュウがユートを狙って襲い掛かろうとしたときに、蝙蝠の上に乗っていたナハトが飛び跳ね、


 斬!


 と地水竜チスイリュウの背筋を剣で切り裂いた。すると、地水竜チスイリュウからは血が出る事もなく、糸が事切れたようにそのまま地面へと崩れ落ちた。


 「一撃?」


 ティーナはそういって唖然した。いくらレベル差があるとはいえ、体力が多い竜の種族を一撃で倒すなどなかなか出来ることではない。

 そして、ナハトがユートとティーナの間に降り立った。


 「どうやったん?」


 ティーナはイビルに向かって聞いた。するとイビルは自分がさっき使っていた剣を見せ、説明を始めた。


 「この武器は、敵が自分に全く気づいて居ない状況で、さらにバックアタックを決めたときに即死判定が発生するんだよ~」

 「すごい武器やね、どうやって手に入れたん?」


 この質問の答えにユートはどう答えようか悩んだ。さすがに魔法課金とはいえ無い。


 「洞窟で拾いました。そんなことよりも地水竜チスイリュウどうしましょうか?」


 ユートは話題をそらすためにティーナに向かって聞いた。そこには大きな地水竜チスイリュウが横たわっている。


 「せやな~町の人たちにご馳走するってするって言うのはどうやろか? みんな半漁人マーマンの襲撃で大変やったやろうし。全員何とか無事やったんやろ?」

 「そうしましょうか。クレイドももう直ぐ来るって言ってますし」


ーー捌けるかどうか俺にはわからないけど、クレイドなら何とかするだろう。


 そして、ユートとティーナはその場で座り込んだ。地平線が明るくなりかけている。一番迷惑をかけた地水竜チスイリュウが一番あっけなかったことを思いながら、ユートは地平線を眺めながら、走ってこちらに向かってくる三人を方を向いた。

 やっと長い戦いに対して終止符が打たれた。

 そのことに対して少し残念そうに思っている人もいるようだが……

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