第14話
「見あたらない方はいらっしゃいませんか」
クレイドは町の人たちに向かって聞いた。クレイドとルミアは今、町の人たちの避難誘導に当たっている。そして大半の人たちを森の中の開けたところまで避難し終えたところだ。
「息子が! 私の息子が!」
そう言ってクレイドにさけんだのは三十代ぐらいの女の人だった。目には涙を浮かべている。
「森で迷ったのでは無いのですか?」
ルミアがクレイドに向かって言った。
「そんなことは無いはずです。私一番後ろで走っておりましたから」
だがそうなると男の子はいまだに町の中にいることになる、それはいつ死んでもおかしくないため早く助けに行かなくてはならない。クレイドは直ぐに町に向かおうとしたが誰かにすそを捕まれた。
「私も行きます!」
クレイドのすそをつかんだルミアが言った。
「危険すぎてとてもじゃないけど連れて行けません」
クレイドはルミアに向かって言った。しかしルミアも一向に引き下がろうとしなかった。
「私は王宮を出たときから冒険者です」
その一言でクレイドも折れた、そして、ルミアを抱えてすごい速さで町へと向かって行った。
「着きました」
クレイドはそう言ってルミアを降ろした。遠くを見ると
「早く探しましょう」
ルミアは降りるやいなやクレイドに向かってそう言った。そして二人は男の子を探すため町の中を探し始めた。
運のいいことに直ぐに男の子は見つかった。
「大丈夫?」
ルミアは男の子の前にしゃがみこんで聞いた。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんは誰?」
「君を助けに来たよ」
ルミアはそう言って男の子に手をさし伸ばした。そしてルミアの手を男の子が取った。だが
ガタンッ!
という音がして右の家の壁が崩れて
「メシ! メシイイ!」
そう言ってルミアに槍を突き刺そうとした。しかし
ガキィン!
という音がして
「ルミア早くその子を連れて逃げてください!」
クレイドは目の前の
「分かりました。行くよ」
ルミアはそう言って男の子の手を取り森のほうに向かって走り始めた。
そしてルミアたちが大きな家の角を曲がったとき、またもや
「メシだ!」
そう言って
「危ない!」
ルミアはそうさけんで男の子を上から抱きしめてかばった。
――間に合わない!
クレイドは心の中でそうさけんだ。しかし
そしてルミアに無慈悲にも
そして
「あなた達はどなたですか?」
クレイドはルミア達を置いた後、クレイドの代わりに
「俺は
「わたくしは
「お前達用が済んだのなら早く行きな」
「私もお手伝いします」
クレイドがそう言って手伝おうとしたが
「クレイド様はルミア様とそちらの男の子を逃がすことを優先してください。それとも私達がこの程度の雑魚に負けるとお思いで?」
「では、お任せします」
クレイドはそう言ってルミアと男の子を抱えあげて避難場所へと走り去っていった。
「今からあなた方の攻撃が私達に当たるとは思わないでください事ですね」
「てめえらの中で俺の首コレクションに加えて欲しい奴はどいつだ?」
そう言って二人は
――あたまがいたい。
ユートは海岸線に座り込んだ。そしてMPを補給するためのポーションに口をつけた。この世界では大量にMPを使うと頭が痛くなるらしい。
そして、
「ねえねえ。あの魔物達なんやの?」
ティーナがユートの横に座り込んで聞いて来た。こちらも頭を痛そうにしている。
――どうやって説明しよう。
ユートは心の中でそう思って思考をめぐらせた。別の世界の魔物たちです、などというへんなことを言えば頭のほうを心配されてしまう。しかしうまいごまかし方がユートには思い浮かばなかった。
「とあるダンジョンで捕まえたんですよ。でもそのダンジョンは日にちによって場所が変わるので多分見つけられませんよ」
リヒスがユート達の後ろからそう答えた。
「へえ~そうなんや。ありがとう」
そう言ってティーナは立ち上がりフィナのほうに走り去っていった。そしてユートの横には代わりにリヒスが座り込んだ。
「ギルマス、
リヒスがユートに向かって問いかけた。
「分かってるよ。今から原因を探らないと。イビルを呼ばないと」
「呼ばれた~」
ユートがリヒスにそう言って後ろを振り返るとナハトが走りこんでユートの胸に飛び込んだ。そしてユートはそのまま仰向けに転がった。目の前には星空と四人の顔そして二匹の人形が見えた。
「ナハト、とりあえず降りて。それと呼ぼうとしたのはイビルなんだけど」
「いいじゃん。細かいことは」
ユートがそう言うとナハトはそう言いながらおとなしくユートの上から降りた。そしてユートは腰をさすりながら身体を起こし三人とエウロパを入れた四人――半分以上はイビルに向かってだが――に向かって話し掛けた。
「海の中を確認したいから確認できるようなものない?」
ユートがイビルにそう聞くとイビルは得意そうにうなずいた。
「あるぅ……」
「イビルはあるって言ってるゼ」
そう言ってイビルはゴズと翻訳をしていたメズを抱きかかえた。心なしか二匹の顔が青ざめているように見える。
「イビル、まさか俺じゃないよナ」
「まさか、俺でも無いよナ」
二人はイビルに向かってそう言ったがイビルは首を振った。
「どちぃ……」
イビルがそう言うと抱きかかえられた二人は顔を見合わせた。
「どっちかが海に向かって投げられるって言ってるよナ」
「ああそうだナ。もちろんお前が行くんだロ」
ゴズとメズは互いにどちらが海に向かうかでを擦り付けあっている。それをみたイビルが腕の中の二人に向かって口を開いた。
「じゃん……」
「イビルはじゃんけんで決めろと言っているゼ」
「そうだな。仕方ないからやるカ」
そう言って二人はイビルの腕の中から降りて向かい合った。
『じゃんけん』
ーーなんでこの世界にもじゃんけんがあるんだろう?
『ぽん』
ユートがそう思いながら二人の手をみるとゴズはグーメズもグーだった。
『あいこで』
『しょ』
今度は二人ともパーだった。その後5回ほど続いたが全てあいこ終わった。そしてゴズとメズはイビルに向かっていった。
「終わらないナ」
「そうだナ。もう海に行かなくて良いんじゃないカ」
二人がイビルに言うとイビルはゴズの頭を持ってユートに渡した。
「どうすればいいの?」
「なげぇ」
ユートがイビルに聞くとイビルはそういいながら腕で投げる動作をした。それでこの後どうすればいいのか理解したユートは思いっきりゴズを海に向かって放り投げた。
ボチャン!
という音がしてゴズが海の中に落ちた。
「これでいい?」
「おけぇ……」
イビルはそう言って頷いた。
「これで視覚と聴覚が共有しているゴズが見ている風景を見れるナ」
そして横に並んだメズがユートに向かって言った。
ーーそうなんだ。全く知らなかった。
イビルがメズを抱き上げユートの横に座った。
「ギルマス、ゴズが後で覚えとけよって言ってるゼ」
イビルの腕の中のメズがユートに向かって言った。
「俺、関係なくない?」
ユートはそう言ったがメズが無視しているあたりゴズこの意見をスルーしてるんだろう。
「はぁ」
ユートはため息をつきながらゴズを投げた海へと目を向けた。海は星や月を水面に反射しとても幻想的だった。
「見つけたゼ」
不意にメズが口を開いた。
「
「ああそうダ。どうやらあいつ等のすみかの近くに竜が住み着いたようだナ」
その後メズはゴズが見つけた竜の見た目などを事細かにはなした。
「なるほど。ありがとう」
ユートはそう言うと立ち上がってイビルの頭をなでた。イビルは嬉しそうに手の動きに併せて頭を揺らしていた。
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