第12話


 ユートは今、皆がキャンプをしているところから少し行った森で夜ご飯の火をおこすための枝を拾いに行っていた。そして自分の分を取り終わったので二人と待ち合わせをしていた場所に水着のまま座り込んで考え事をしていた。


――結局リヒスにそう言われたけど特に何も無かったな。


 「こっちは集め終えましたよ~」


 ユートがそう思っているとクレイドと共に言ったルミアがこちらに二人で歩いてくるのが見えた。そして、ユート達が枝を集め終えて元の場所に場所に戻ろうとしたとき、ユート達の前にこの森には似合わなさそうな、みすぼらしい男がどこからとも無く二人立ちはだかった。そしてユート達に向かって叫んだ。


 「おいおいお前達ちょっと待て!」

 「ああ、殺されたくなかったら手荷物を置いていけ! もしくはそこの女だ! そうすれば命だけは助けてやる」


 ルミアは目を見開いて驚いている。しかしユートとクレイドの二人はこのいかにも悪役そうな言葉を発している男二人を見て心の中で盛大なため息をついた。この二人は冒険者ではないためレベル的には冒険者の1~5ぐらいだろう。


――フラグを回収してしまった。


 ユートが心の中でそう思っていると、ルミアを後ろに隠したクレイドがユートに向かって話し掛けた。


 「左に何人いますか」

 「二人」


 ユートは森の中に隠れている人間の数を教えた。おそらくこの二人の仲間なんだろう。うまく隠れているつもりだろうがユートとクレイドはそれを直ぐに見抜いた。


 「この後どうするつもりだ?」


 ユートはそうクレイドに聞いた。こいつらから逃げ切る事も可能なのだがクレイドはそんな事をしないだろう。それにユートも逃げるのは何かしゃくだ。


 「ルミアを少しの間預かっていただきますか? この人たちをどうにかしたいので」

 「それはいいけど、素手でやるつもりか?」


 クレイドは現状最高レベルの90のためおそらく余裕で勝利するだろう。しかし今まで一回もクレイドの戦う姿を見ていないユートはクレイドがどうやって戦うのかを知りたかった。


 「心配しなくても大丈夫ですよ。私にはこの手袋があるので」


クレイドはそう言って二人の男のほうを向いた。男達は荷物も置いていかずに涼しい顔をしているユート達に腹が立っているようだ。顔が赤くなっている。


 「さて、倒さしていただきます」


 クレイドは男二人に向かってそう言った。すると男の一人が怒りを耐え切れなくなったようで、大声で叫んだ。


 「おいてめえら! 獲物ははあの三人だやっちまえ!」


 男がそう叫ぶと五人近くの男達が森の中から出てきた。そして全員がクレイドに向かって行った。


 「始めますか」


 クレイドはそう呟いて一人の男にどこからとも無く手に持っていたナイフを投げた。クレイドが投げたナイフは男の服を木の幹と固定した。


 「おらぁ!」


 そう言って後ろから切りかかってきた男も先ほどの男と同じように木の幹に固定された。そしてクレイドがさらに三人を木の幹に固定し終えたときどこからか矢がクレイドの元へ飛んできた。しかしクレイドは来るのが分かっていたかのように首をひねりそれを回避した。そして飛んできた方向にナイフを投げた。


 「さて、最後はあなた方ですか」


 クレイドはそう言って二人の男に近づいていった。両手にはナイフを持っている。


 「くそっ。てめえら冒険者だったのか」


 ユートが知っている範囲ではこの世界には冒険者とそれ以外の人間がいる。そしてそれ以外の人間を自然人シゼンビトまたは周辺人シュウヘンジンと冒険者は呼ばれている。そして冒険者は自然人のステータスを見ることが出来るが、自然人は冒険者のステータスを見ることが出来ない。そのため自然人には相手が冒険者か同じ自然人かの判断がつかない。そのため自然人が冒険者に勝負を挑む事が起こりえてしまう。



 「では固定させていただきます」


 クレイドはそう言いながら反撃してきた二人を無視して木の幹に固定した。


 「終わりましたので行きましょうか」


 そう言ってクレイドはポカンとしているルミアの手を取ってキャンプ場まで戻ろうとした。しかし後ろから聞こえてくる叫び声に足を止めて振り向いた。


 「なんなんですか」

 「俺達はこの後どうすればいいんだ!? このままここに縛り付けられていればいいのか!?」


 クレイドはよほど強く木の幹に固定したのか男達全員が抜けないようだった。


 「それなら大丈夫ですよ。すぐにあの村の警備隊が迎えに来ますよ」


 男達の顔がすぐに青くなった。そして三人はもう振り返らずに自分達のキャンプ場に戻っていった。


 「そう言えばクレイドはあのナイフどっからだしたんだ?」


 ユートがさっきの戦いを見た限り、ナイフがクレイドの手袋から出てきたように見えた。そのため、ユートは戻る途中にクレイドにその事を聞いた。


 「それは、この手袋を見てもらったら理解できると思いますよ」


 そう言ってクレイドは手袋をはずしてユートに手渡した。その手袋の手のひらのほうには何か魔方陣のようなものが刻まれていた。


 「これは何かの魔方陣か?」


 するとクレイドがうなずいた。クレイドによるとこの魔方陣はある場所に保管された物をこの手袋の手のひらから出せるようにするものらしい。そしてその保管場所にはナイフが沢山入れてあるのでああいう芸当が出来るのだという。


 「クレイドって聖堂騎士セイドウキシだったよな? 聖堂騎士セイドウキシなら鎧も着れるのにどうして着ないんだ?」


――聖堂騎士セイドウキシ それは守護神ゴッド・ガーディアンについでの防御力を誇る職業だ。この職業の大きなポイントは魔法が使えるということだ。守護神ゴッド・ガーディアン殲滅者センメツシャは魔法を使うことが出来ない。しかし聖堂騎士セイドウキシは魔法を使用できるため自分で自分にバフをかけることが出来る――


 「それは私の使命がルミアを守ることだからです」

 「だったら鎧のほうが良いんじゃないか?」

 「敵が多い場合では敵を倒すのではなく逃げたほうが生き残れます。そのために私はなるべく早く動けるようにしているのです」

 「なるほど」


 そんな話をしながら三人はキャンプ場に戻っていった。




 「ほら、ギルマスゥ口開けて。あ~んって」

 「もとぉ……あけぇ……」


 ユートは今、夜ご飯を食べているのだが、ナハトとイビルが半強制的にユートの口の中に食べ物を入れている。ユートも止めさせようとしたのだがそのたびに涙目になられてしまった。そのためどうするわけにもいかず、二人のなすがままになっている。


 「そろそろ苦しいんだけど……」

 

 ユートは二人にそう言ったのだが、二人は全く聞いていない様子でユートに食べ物を口に中に入れてきている。


――諦めるか。


 ユートはそう思うと出されてきた食べ物を全て食べ始めた。そして皆の食事の時間が終わった時ティーナに話しかけられた。


 「明日の話したいから今から時間ある?」 


 ユートはこの後することも無かったので了承の返事をした。


 「いいですよ」

 

 ユートがそう言ったのを聞いていたのか、リヒスもついてきたため、ティーナたちのテントにユート、リヒス、ティーナ、フィナの四人が集まった。するとティーナが鞄から何かを取り出した。


 「ベリー酒でも飲みながらね」


 そう言うとコップに注ぎ始めたがユートは断ったため三人の前だけにコップが置かれた。


 「リヒス。飲んでもいいけどめんどくさい事にならないでよ」

 「なりませんよ!」


 リヒスがユートに向かってそう言った。そして会議が始まった。




 「ギルマス~飲みましょうよ~」


 会議が始まって一時間が経過した頃、リヒスがユートに絡んできた。


 「酔ってるだろ」

 「そんなことないですって~」


 ユートはリヒスがこうなったらもうどうしようもないことを知っている。そのため、放置して会議を続けて始めた。


 「ギルマス~無視ですか~」


 リヒスはユートに向かってそう言うとユートの腕を抱きしめた。


 「リヒス、頼むから止めて」


 ユートがそういうがリヒスは一向にはなす様子はない。そのためユートがリヒスをどうしようかと考えているとグリーン・ヒルのメンバーがテントの中に入ってきた。


 「どないしたん?」


 ティーナは入ってきた人物に問いかけた。男はすぐに答えた。


 「テントが少し足りなく外で寝なけれならないようなんですがどうしましょう?」


 ティーレが考えていると、唐突にリヒスが口を開いた。


 「ギルマスが私たちの所に来れば良いんじゃないですか?」


 ユートはびっくりしたが、ティーレは入ってきた男にそれでいけるのかを聞いた。


 「おそらく大丈夫だと思います」

 「じゃあそれでいこか」


 ティーレはユートの意見も聞かずにその意見を了承した。


ーー俺の意見は?


 ユートはそう思ってあわててコップを転がしているリヒスに言った。


 「俺が行ったらダメだろ。ナハトも反対するかもしれないし」

 「それは、大丈夫ですよ~さっきチャットしましたから」


 ユートは、これ以上リヒスに言っても無駄だと思ってあきらめその意見を了承する事にした。


 「じゃあ、会議も終わりやし解散」


 男が出て行ってから少しした頃、ティーレがそういって会議が終わった。

 そしてユートは酔いつぶれたリヒスを自分達のテントまで運んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る