第9話

「敵発見、排除!」


 その声で戦闘が始まった。そして殺戮兵器は手に持った斧をユートに向かって振り降ろした。


 ガギィィィィン!

 

 金属がこすれあう音が響いた。

 ユートは盾を頭の上に持ってきて攻撃を防いだ。その隙を突くようにナハトが殺戮兵器に走った。


「せーのっ!」


  ナハトがそう言って剣をつきたてた。


 ガキン!


 という音がしたが殺戮兵器に傷はついていない。


 「あれ~? 何で傷つかないの?」


 ナハトは首をかしげてもう一回突き立てた。しかし先ほどと同じように傷はついていなかった。むしろさっきより外殻が大きくなっている。

 それを見たユートはナハトに言った。


 「ナハト、ちょっとストップ」

 「え~何で何で~」

 「少しおかしい」

 「はぁ。仕方ないなぁ」


 ユートはナハトが攻撃を一旦止めて回避し始めたのを確認した後、後方で攻撃している大魔道師のティーレに向かって聞いた。


 「ティーレ、あいつどんどん大きく成ってないか?」

 「そりゃ、もちろんマダマイトで覆われてるっすから」

 

 それを聞いたユートはふと思いついた事をティーレに尋ねた。


 「じゃあ、このまま攻撃を与え続ければ体大きくなって動かなく成るんじゃない?」


 ユートがティーレに向かってそう言ったがティーレは首を横に振って言った。その間も敵の攻撃はユートがひきつけている。


 「無理っすね」


 ユートは後ろを振り向く事が出来なくなったので前を向いたままティーレに聞いた。


 「どうして?」

 「体が行動限界になる前に大きくなったマダマイトをエネルギーにするっすから、意味無いすっよ」

 「弱点とか無いの?」

 「あるっすよ。頭を切断すればいいっす」


――頭を切断って簡単に言うけど


 ユートはそれを聞いたユートは敵の攻撃を受止めながら頭を回転させた。そしていくつかの作戦を思いついた。


――まあ、これしかないよな。


 ユートはそう思って他の四人に作戦を言った。


 「とりあえず、俺が攻撃を引きつけるからナハト以外は一番攻撃力の高いスキルを一斉に放ってくれ」

 

 みんなが理解したようなのでユートは敵の攻撃をひきつけ始めた。


 「で、ナハトちゃんはどうすればいいの?」

 「ナハトはとりあえず明鏡止水の準備しといて」

 「ハーイ」


 そしてユート敵の攻撃をひきつけている間にみんなの使用時間キャストタイムも終わった。


 「いけるっすよ」

 「いけぇ」

 「こちらもです」


 そう言う四人の声を聞いたユートは殺戮兵器の前からどいた。すると……


 「聖なる剣デュランダル!」

 「禁断の黒い箱パンドラズ・ボックス

 「イクスブラスター!」


 三人の声が聞こえ三人のスキルが殺戮兵器に炸裂し爆発を起こした。


――おそらくこれで……


 ユートは煙が晴れたため殺人兵器を見た。すると、そこには体のマダマイトが大きくなり身動きが取れなくなった殺人兵器があった。こんなに急に多くの攻撃があたったらエネルギーにするのにも時間がかかるはずだ。


 「ナハト、よろしく」


 ユートがナハトにそう言うと待ちかねたかのようにナハトは剣を抜いた。


 「やっと出番だね~明鏡止水!」


 ナハトがそう言うとナハトの刀が水のようにやわらかくなった。そしてナハトは殺戮兵器に向かって言った。


 「じゃあね~」


 そしてナハトの剣は、剣としての特性を保ったまま普通の状態では切る事が出来ないであろう頭の溝に入り込み殺戮兵器の頭を吹き飛ばした。


 「行動不能、行動、行」


 頭が無くなった殺戮兵器はそう言って行動を停止した。


――終わった……


 ユートはそう思ってその場に座り込んだ。ずっと敵の攻撃を引き付けていたので身体も心も疲れきっていた。


 「さーて研究研究っす」


 ティーレはそう言って動かなくなった殺戮兵器に走っていった。


――元気だな。


 ユートはそう思ってティーレを眺めた。すると後ろからナハトとイビルが付いて言った。


 「あんまり変な事するなよ~」

 「わかってるよ~」

 「もちぃ……」

 「イビルはもちろんって言ってるゼ」


 その返答を聞いたユートは安心して寝転んだ。そうすると横にリヒスが座り込んでユートに話しかけた。


 「にしても元気ですよね。あの二人は」

 「まあ、そこが良い所だしな」

 「そうですね、でも帰ったらナハトを……」

 「まあほどほどにな」


 ユートとリヒスがそんな話をしているとティーレから声が聞こえた。


 「終わったっすよ」

 「終わった~」

 「おわぁ……」

 

 三人がそう言ってユートの前に向かって来た。


 「じゃあ、帰ろうか」


 ユートが二人に向かって言った。するともじもじした様子でティーレがユートに言った。


 「あの~私も連れて行って欲しいっす」

 「……?」


 その言葉を聞いたユートは思わず固まった。そしてリヒスが先を進めた。


 「どう言うこと?」

 「その~実は私、家が……」

 「家が?」

 「わからなくなったっす!」


――断言されても……


 固まっていたユートはその話を聞いて心の中でそう思った。

 そしてどうするか、頭を悩ました。


 「そんなの決まってるじゃ~ん」


 という声が聞こえた。

 ユートが顔を上げるとそこにはナハトがユートの方を見ていた。それを見たユートはどうするか決まった。


 「そう言われちゃ断れないよな。ディスタント・スカイに歓迎するよ」


 ユートが心配そうな顔をしているティーレに言うとティーレの顔が綻んだ。


 「ありがとうっす!」


 ティーレはそう言ってユートに飛びついた。そしてユートはティーナの頭をなでながら言った。


 「さて帰ろうか」

 

 するとティーレが顔を上げて言った。

  

 「あれ持って帰りたいっす」


 そう言ってティーレが指を向けた先には頭の無くなった殺戮兵器があった。ユートはティーレに言った。


 「あれはさすがに無理じゃない?」 


 朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗せる事が出来ればいいのだが、残念な事にユート達はそんな物を持ち合わせていない。

 悩んでいるティーレをよそに、イビルが口を開いた。


 「これぇ……使ぁ……」

 「イビルはこれを使えって言ってるゼ」


 そう言ってイビルは細い紐をユートに渡した。


 「なにこれ?」

 「ひろぉ……」

 「拾ったって言ってるゼ」


 その紐を見たティーレが目を輝かした。


 「これは! 蜘蛛姫の糸スパイダー・シルクじゃないっすか! どこで手に入れたんっすか?」

 「ひろぉ……」

 「イビルは拾ったって言ってるゼ」


 蜘蛛姫の糸スパイダー・シルクが何なのかをわかってい無いユートは、凄い凄いと叫んでいるティーレに聞いた。


 「蜘蛛姫の糸スパイダー・シルクって何?」

 「蜘蛛姫の糸スパイダー・シルクを知らないっすか? 考古学者の中では有名っすよ」


――別に考古学者じゃないし。


 ユートは心の中でそう思っていると、ティーレはさらに詳しく話し始めた。


 「この紐凄いっすよ。何をしても切れ無いんっすよ! ずっと欲しかったっす」

 

 そうやって嬉しそうにどんどん知識を披露しているティーレを見ながらユートはイビルに話しかけた。


 「朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗るの?」

 「いけぇ……」

 「イビルはいけるって言ってるゼ」

 「わかった」


 その後ユート達は全員で出口に歩き始めた。ユートが出口に向かっている四人に話し掛けた。


 「この殺戮兵器誰が出口まで持っていくの?」


 ユートがそう言うと四人はユートの方を向き……


 「ギルマスゥが運ぶんじゃないの?」

 「ギルマスが運んでくれるんですよね」

 「よろぉ……」

 「よろしくっす」

 「…………」


 四人からそう言われたユートは黙って殺人兵器を出口まで運んだ。



 「これでよし」


 ユートはそう言って殺戮兵器を朽ちた竜ボーン・ドラゴンに結びつけた。


 「じゃあルミアとクレイドを迎えにいこうか」


 ユーとはそう言って朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗り込み妖精の森フェアリー・フォレストへと向かった。



 ルミアがユートにいわれた場所で待っていると、大きな影が横にいるクレイドと共にルミアを包み込んだ。

 二人が上を見上げるとそこには朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗ったユート達とよくわからない機械が載っていた。


 「妖精の森フェアリー・フォレストはどうだった?」


 ユートはルミアに聞いた。


 「まあ色々と……」


 ルミアは顔を赤くして答えた。そして後ろのティーレと目があった。


 「あれ? ドルトムント王国のお姫様じゃないっすか。どうしてここにいるすか?」

 「まあそれは……」

 「その話は帰ったらにしましょう」


 リヒスが二人の話をさえぎった。

 そしてユート達は増築された新しいギルドへと向かった。

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