第6話

「あれ? あいつは?」


 ユートはガイドの姿が見えないのに気づきあたりを見渡した。しかし、ガイドの姿は見えなかった。


 「ギルマス、子供達を」


 ユートは、リヒスにそう言われたため、いったんガイドを捜すのをあきらめ子供達が監禁されていた部屋まで行き、そしてみすぼらしいその部屋のドアを開けた。すると――


 「ハナトちゃーん」


 ナハトがそう言って笑顔でハナトに抱きついた。

 すると、ハナトが蝙蝠に戻り、ナハトとじゃれあい始めた。


 (なんだかナハトが襲われてるみたいだな)


 ユートは二人を眺めながら、子供達の様子を確認した。子供達はユートがイビルに指図した通り全員完全耐性スライムプロテクト・スライムに覆われすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。


ーーさて、時空の鍵スペースタイム・キィを使うか


 ユートは扉を閉め、時空の鍵スペースタイム・キィを入ってきた扉の鍵穴に挿して扉を開いた。そうすると扉の先には洞窟の中ではなく自由国家エアフ=ドルトムントの城の中にある処置室だった。――時空のスペースタイム・キィとは魔法道具の一つで鍵に登録された扉と鍵が挿された扉をつなげることが出来る――ユート達はそこに子供達を起こさないように放り込んだ。すでに、完全耐性スライムプロテクト・スライムは外れている。


 「さてと、これで全員だな」


 ユートはそう言って最後の一人を放り込んだ。そして扉を閉めた。すると鍵穴に挿していた鍵が白い光の粒となって空に消えていった。


ーー使いきりなのか


 ユートがそう思いながら鍵穴を見ていると、ゴズメズがユート達の元へ向かってきた。


 「おイ、人攫いの男はどうしタ? こっちにはこなかったゾ」


 ゴズメズがそう言ったのでユートは驚いた。

 ゴズメズにはあらかじめ出口である裏口を誰も逃げないように見張っていてもらっていたのだが……


ーーどういうことだ? まてよ、まさか……


 ユートは、一つの結論に思い至った。しかし、今はそれを確認してる場合ではなく急いでガイドを追いかけなくてはいけない。


 「イビル、追尾虫ストーキング・ワームはあいつに貼り付けたか?」


 ユートはイビル聞いた。


 「もちぃ……これで……わかるぅ……」

 「あいつの場所が、これでわかるって言ってるゼ」

 「よし、よくやった」


 ユートはそう言って、イビルの頭をなでた。そして、みんなに向かって言った。


 「追いかけよう」


 ユートはそう言って洞窟を出た。空には満月が上っており、ユート達を空から照らしいた。

 その後イビルがみんなに霊体化イモータル・ソウルの魔法を掛けた。そうするとユート達の体が透け、物体に当たらないようになった。


 「これぇ……いけぇ……」

 「これで、森の中を木に当たらずに走っていけるって言ってるゼ」

 「わかった」


 そう言って、ユート達はガイドを追いかけるため森の中を走り始めた。



 ガイドは森の道を走っていた。

 首には醜豚を呼ぶ音コーリング・オークをぶら下げている。腰のあたりについている赤く光っている虫の存在に未だに気づいていない。


 ――あいつらから逃げさえすれば、もう一度これを使って……


 そう思って、ガイドは必死に必死に自分の隠れ家へと逃げ続けた。そして、ガイドは隠れ家の半分辺りまでたどり着いた。その時、


 ガサッガサッ


 近くから音が聞こえガイドは驚いて立ち止まった。


 「誰だ!」


 ガイドは草むらに向かってそう叫んだ。しかし、反応は無く、涼しい夜の風がガイドを通り抜けて行った。


 ――なんだ、風か。


 ガイドはそう思って安心しもう一度走り出そうとして前を向いた。すると、


 「見~つけた」


 という声がガイドの耳に届いた。

 前を向いたガイドの前にはユート達が立っていた。ガイドは驚きで体が固まった。


 「どうやって俺の場所が!?」


 ガイドはそう叫んだが返答は簡単なものだった。


 「あなたの腰の辺りを見てみなさい」


 ガイドはリヒスにそう言われて腰の辺りに目をやった。そこには怪しい赤い光を出している虫が付いていた。


 「くそっ!」


 ガイドはそう叫び、虫を振り払った。そして、醜豚を呼ぶ音コーリング・オークを思いっきり吹き鳴らした。


 「グガァァ!」

 

 醜豚オーク達がどこからかガイドの前に現れて、ユート達に向かって突進してきた。その醜豚オーク達を見たナハトは背中に挿していた二本の刀を抜いた。


 「いっくよ~クレイブ・センド」


 ナハトがそう言うとナハトが五人に分身し、醜豚オーク達すごい早さで切りかかった。


 「ちびが一人で突っ込んできたぞ! やっちまえ!」


 それを見たガイドが醜豚オーク達に向かってそう言った。そしてナハトと醜豚オーク達がぶつかった。

 

 「おっそ~い」


 ナハトはそう言って醜豚オーク達と戦闘を始めたが、一分も経たないうちに勝敗が付いた。


 「これで最後っと」


 そう言ってナハトは最後の醜豚オークの首を切った。そして、ユート達の前にはガイドだけが残った。


 「ちっ!」


 ガイドは舌打ちをしてもう一回醜豚を呼ぶ音コーリング・オークを吹こうとした。しかし、


 「もう一回は吹かせないよ~」


 ナハトがガイドに向かって言った。すると、


 カンッ


 という音がして醜豚を呼ぶ音コーリング・オークが空に舞いユートの手の上に振ってきた。そして、手の上に振ってきた口笛をかばんに締まった。


 「さて、お前はどうしたい?」


 ユートはガイドに向かってそう言った。ユートはガイドが心を入れ替えるのなら許そうと思っていた。ユートだってわざわざ好き好んで人を殺したくは無い。


 「私が悪かったです! もうしないから許してください!」


 ガイドはそう言って頭を地面に着けた。それを見たユートは後ろを向いて朽ちた竜ボーン・ドラゴンを待たせている洞窟の前まで戻ろうとした。しかし、


ーーなんて、言うとでも思ったか! 甘いんだよ!


 ガイドの心の中にはユート達への殺意の炎が燃え上がっていた。そして、懐の剣を出しユートの首に向かって突っ込んだ。

 

 ーー殺せる!


 ガイドはそう思った。しかし、


 ガキィィィン!


 金属が擦りあう音がしてガイドのナイフがナハトの剣の腹によって止められた。そしてガイドが思考する暇もなくナハトの剣がガイドの首筋に当てられた。そして、ナハトはユートに問い掛けた。


 「どうする? 殺す?」


 ユートは少し困ったような顔をした。ユートだって殺しはしたくない。このまま縛ってエアフ=ドルトムントに連れて帰る手もある。しかしそれでは、人攫いの被害にあった子供の親が、ガイドに対して止めようのない殺意が沸き起こるだろう。それはユートの望むところではなかった。


ーーでも……仕方ないか。


 ユートは頷いた。


 「じゃあね~ばいば~い」


 ナハトはそう言ってガイドの首を一切の躊躇なく掻き切った。


 「くっそおおおおお!」


 ガイドの首からは濁った赤い血が飛び散った。ナハトは血しぶきを器用にかわして剣をしまった。倒れたガイドは青い光を綺麗に散らして夜の空へ昇っていった。


 ――マトッリックスであったらめんどくさいな。


 ユートはそう思いながら足を洞窟のほうに向けた。心の中は酷く衰弱していて一刻も早くベッドに入りたかった。



 ユートは王様に人攫いの結末を報告した。


 「そうか! やってくれたか!」


 国王は嬉しそうに言った。国王の顔も心なしか良くなっているように見える。

 そしてユートに向かって頷いた。それでユートは国王が何をしたいかを悟った。


 「さて、報酬の件じゃが……」

 「国王の孫娘であるルミア=ミュレッド様が欲しいです」


 ユートは国王に向かって間髪入れずにそういった。すると……。


 「ルミアよ聞いているのじゃろ。そこから出てきたらどうじゃ」


 国王はドアに向かって言った。するとドアが開いてルミアが入ってきた。


 「おじい様知っておられたのですね」


 ルミアはモナークに向かって聞いた。


 「もちろんじゃ。わしの孫娘じゃからの。言いたいことがあるんじゃろ」


 モナークはルミアに向かってそう問い掛けた。ルミアは覚悟を決めた顔をしている。

 そして……


 「私は冒険者の世界を見てみたい! そしていろんなところに行ってみたい! そのために冒険者のこの人たちと一緒に行きたいのです!」


 ルミアは国王に向かって言った。目からは涙が今にも溢れそうになっている。

 それほどルミアには勇気がいることだったのだろう。


 「ルミア、お前の気持ちは良くわかった」


 モナークはやさしい顔になってルミアに言った。


 「では……」

 「この人たちと一緒に行くことを許そう。しかし遊びに行くわけではないのじゃから、条件が三つある」


 モナークは条件を三つ言い挙げた。

 その条件とは、

 一つ、外交官としてマトリックスとエアフ=ドルトムントとの国の間を取り持つこと。

 一つ、身の回りの世話役としてクレイドを連れて行くこと。

 一つ、思いっきり冒険者の暮らしを楽しむこと。

 この三つだった。


ーー良いお爺ちゃんじゃないか。


 ユートは心の中でそう思ったが、もちろん声には出さない。


 「はい! がんばります!」

 

 ルミアはそう言ってクレイドに報告するために部屋を出て行った。出て行った後ユートがモナークに話しかけた。


 「これで良いんですか?」

 「ああ、これで自分の意見を少しは言えるようになるじゃろう」


 モナークはルミアが意見を言ってくれるのをずっと待っていた。そのためにユートに協力を頼んだのだ。


 「では、お預かりします」


 ユートは国王に頭を提げてこの部屋を出ていった。そしてモナークは


 「ルミアも旅立つのか。そうか……」


 そう呟いた。



 ルミアはクレイドとユート達と共に国の外を歩いていた。そして立ち止まった。

 

 「ここら辺で良いだろう。イビル頼む」

 「わかぁ……朽ちた竜ボーン・ドラゴン召喚……」


 イビルがそう言うと空から朽ちた竜ボーン・ドラゴンが空から降りてきた。


 「何ですかあれ?」


 ルミアは降りてくる朽ちた竜ボーン・ドラゴンを興味深そうに見上げた。

 ユート達は目の前に前に降りてきた朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗った。乗り込んだクレイドはルミアに向かって手を伸ばした。


 「お嬢様、行きましょうか」


 しかし、ルミアは手を取らなかった。そして、


 「クレイド、私は今から冒険者です。だからお嬢様呼びは無しです」


 クレイドに向かって言った。

 クレイドは少し困って様な顔をした。

 しかし、すぐに元の優しい顔に戻りもう一度手を伸ばして言った。


 「行きましょうか。ルミア」


 ルミアの顔輝いた。そして大きな声で


 「はい!」


 そう言ってクレイドの手を取り朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗り込んだ。


 朽ちた竜ボーン・ドラゴンはルミアを乗せて昼の空へ高く高く飛び上がっていった

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