第5話

 ユートとナハトは、次に狙われるであろう村へと向かっていた。大人数で行動すると人攫いたちに発見される恐れがあるため、今回は二人しかいない。


「ギルマスゥ本当にあの村であってんの?」


 そう言ってナハトはユートに話しかけ、指を指した。そこには夜の闇の中でろうそくの火のように小さく光る村があった。


「ああ、あっている……と思う。そこだけがまだ何も起こっていないし」


 あの村は、周りの村で人攫いの被害にあっているにもかかわらず、いまだに被害を受けていない。あ一度襲われた村には警備がついているので次に狙われるとしたらあの村しかない。これはユートが国王から聞いて判断したものだ。しかし、当たるという保証はない



 ユート達は、村から少し離れた所で朽ちた竜ボーン・ドラゴンから降りた。ーー朽ちた竜ボーン・ドラゴンは召喚主がいなくても仲間なら使役することが可能だーー そして、ユートの達の姿は人攫いからは見えないように幻影ミラージュの魔法が掛かっている。ユートは辺りを見渡して、ナハトに言った。


「さて、始めようか」

「りょうか~い」


 ナハトは返事をして、サブ職業の眷属姫ケンゾクキを使用した。スキルの効果が発動し闇の中から大きな蝙蝠が一匹現れた。


「久しぶり~ハナトちゃん」


 ナハトそう言ってハナトに抱きつき頭をなで始めた。

 ハナトとは、サブ職業の眷属姫ケンゾクキで呼び出せる蝙蝠の中で一番大きな蝙蝠のことで、ナハトが名前をつけとても気に入っている。


「ナハト、そろそろ撫でるのを終わらせて、始めて」

「え~こっちで呼び出すの初めてだから、もうちょっと遊ばせようよ~」


 ーーどうしようか。


「わかった。また皆でどこか行こう。それにハナトもこんな暗いところじゃ楽しく無いだろ」

「それもそうだね。じゃあ眷属変化バット・チェンジ


 ナハトがそういうと、ハナトがうねうねと変化してナハトと同じ姿になった。そして、関節の動きを確認するかのように、身体を動かしていた。


 ーーうわぁ、相変わらずそっくりだな


 ユートはそう思い、ハナトの頭をなでた。髪の感触まで本物そっくりになっている。


「ギルマス、皆で遊びに行くの約束だからね」

「ああ」

「じゃあ、ハナトちゃん。悪いけど村の外でうろうろしといてね」


 ナハトがそう言うと、ハナトは、ナハトが言ったことを実行し始めた。見ていると何かいけないことをさせている気がしてきて、思わず目をそらした。


「それにしてもギルマスゥ、こんなんで引っかかるのかな? 人攫い達」


 ずっと目線をハナトに向けたナハトが、ユートに言った。そんなことはユートが知りたい。


「うーん 攫ってるのは主に醜豚オークらしいから、たぶん引っかかると思うよ」


 ユートはナハトにそう答え、国王の話を思い出した。基本的なゲームでは醜豚オークは頭が悪い。

 ユートが国王から聞いた話では、子供を攫っているのは醜豚オークであり、誰かがで笛を吹いて醜豚オークを操っているらしい。そのため、なかなか笛を吹いている人物を見つけることができなく、犯人がわからないそうだ。


「ふーん、そうなんだ」


 ナハトが興味をなくしたような口調で返事をした。ユートもこれ以上ここに居てもしょうがないと思い、ナハトに話し掛けた。


「じゃあ、城に戻ろうか」


 そう言って、朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗り、二人は闇の中へと消えていった。二人が去って言った後、怪しい影がハナトのほうを見ていた。



「ギルマス…おかぁ……」

「イビルはお帰りって言ってるゼ」

「ギルマスお帰りなさい」


 ユートとナハトが城の自分達の部屋に帰るとリヒスとイビルが寝ずに待っていてくれていた。


「たっだいま~」


 ナハトは二人にそう挨拶しベッドにダイブした。そして、ベッドの上でころころ転がった。


「二人ともただいま」


 そう言ってユートはいすに腰掛け目を閉じた。


 ーー疲れた。


 ユートはそう思ってうとうとし始めた。しかし残念なことに、すぐに寝てはいけないと思いなおし、目を覚ました。横では、イビルが眠そうに目を擦っている。


「もう寝たら?」


 ユートは、大あくびをしているイビルに向かって言った。


「寝るぅ……」


 そう言ってイビルは、ベッドに入ってかわいい寝息をたて始めた。


「すいませんが、私も」


 そう言ってリヒスも自分のベッドに入った。


「おやすみ」


 ユートは二人に向かってそう言った。が二人はすでに聞いていない。

 もう、次の日になりかけている。

 そして、部屋で起きているのはナハトとユートだけになった。城の中にはすでに明かりはなく明かりがついているのはこの部屋だけだろう。


「どうだ? 反応あったか?」


 ユートは、ナハトにそう問いかけた。ーースキル眷属変化バット・チェンジで召還したモンスターとスキル発動者本人は視覚と聴覚を共有することが可能だーー


「んー? まだかな」

「そうか」


 ユートは残念だったが、少し休もうと思って目を閉じた。しかし、


「来た!」


 ナハト急にそう言うので、思わず跳ね起きた。すでに目はさえた。


「よし! 今どうなってる?」


 ユートはナハトにそう問いかけた。ナハトの目は視覚を共有しているためか青白く光っている。



 森の中に大きな足音がこだましている。ハナトは今、米俵のように運ばれていた。目は青白く光って周りを見渡している。

 そして、十分近く森の中を進んだ頃、大きな洞窟についた。中からは嫌な空気が流れてきている。

 入り口には醜豚オークが二体見張りをしており、中からは醜豚オークの声と一人、人間の声が聞こえてくる。しかし、ハナトがそれが誰かを確認する前に子供が閉じこめられている部屋に放り込まれた。中には10人の子供が薄い毛布に丸まりながら寝ていた。体には切り傷や鞭で打たれたような傷がたくさんあった。

 そして、ハナトがその子供達を観察していると扉が開き男が入ってきた。


「十一人目」


 そう言う男をハナトは青白い目で見上げていた。


 

 ユート達は今、朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗り、辺りが暗くなってきた今、昨日見つけた人攫い達のアジトへと向かっていた。


「どうだ? 見えたか?」


 ユートは、朽ちた竜ボーン・ドラゴンの頭に座りアジトの場所を確認している、ナハトに向かって話しかけた。ナハトの目は、夜目が利くように猫の目キャッツ・アイという魔法の目薬を使っている。


「うーん、もう少し東かな」


 ナハトがそう言うと朽ちた竜ボーン・ドラゴンは、ナハトが言ったとおりに進路を若干東へと変えた。

 その後五分程たった頃


「見つけた!」


 ナハトがそう大声で叫んだ。


「じゃあ、行こうか」


 四人は人攫いのアジトである洞窟の近く森の中で朽ちたボーン・ドラゴンから降り、歩いてそこまで向かった。


「さて、イビル完全耐性スライムプロテクト・スライム呼び出して子供たちを覆ってくれ」

「わかぁ……」


 イビルがそう言うと地面から水色のスライムが出て来て岩をすり抜け子供たちの元へと向かっていった。

 ーー完全耐性スライムプロテクト・スライムの特徴は、そのスライムに覆われているあいだすべての攻撃を無効かできる代わりに、覆われた人物はその場から動けず周りの音も聞こえない。と言うような至って使い道が微妙なモンスターだ。その代わりに、このスライムは岩や木などをすり抜けることができるーー


「さて、行くか」

「はーい」

「行くぅ……」

「早く、助けないと」


 そして、洞窟の前に着いた。もちろん洞窟の前には醜豚オークの見張りが立っている。しかしユートは見せびらかすように醜豚オークの前に現れた。


「おい、お前たちどこ……」


 そう喋った醜豚オークの首から上が切りとばされた。横の醜豚オークもそれに気づくよりも早く首と胴体が離れた。


「油断大敵だねー」


 ナハトはそう言って剣をしまった。そして、何事も無かったかのようにユート達は洞窟に入っていった。すぐに、醜豚オークが気づいて切りかかってくるが気にせずに切り進んだ、一撃で沈めているため、音はほとんどでていない。そのせいで、人攫いの笛を吹いている男、ガイドは気づくのが遅れた。ガイドは異変に気づき醜豚オーク達と広場に向かった。

 ユート達が広場に着くと、そこにはガイドと10体ほどの醜豚オーク待ちかまえていた。そして、


「ようこそ、この洞窟へ。だが! 生きて返すわけには行かねえ! 行け醜豚オーク!」


 ガイドがそういうとユート達に向かって醜豚オークが突っ込んできた。しかし、


「メアリーウィンド……」


 イビルが間髪入れずにスキルを発動し、赤黒い風が吹いた。すると、醜豚オーク達は地面をミミズのように這いつくばってしまった。。

 ガイドは、驚愕して目を見開いた。そして全力で笛を吹いた。そうすると、ユート達の後ろから、どこからともなく醜豚オークが大量にユート達に向かってきた。


 ーー多い!


 イビルの技は再使用時間コールド・タイムの為連続で打つことは出来ない。そのため、ユートは剣を抜いた。


 「ヘイトコネクト!」


 ユートがそう言うとすべての醜豚オークの目がユートのほうにむいた。


 そして、ユート達が醜豚オークを全て倒し終わった時、ガイドの姿は見えなくなっていた。

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