第4話
建物のあいだから差し込んだ清々しい朝日がルミアの顔を照らしている。
自由国家エアフ=ドルムントのお姫様であるルミア=ミュレッドの朝は、ある男の声から始まる。そして、部屋のドアが開いた。
「お姫様、いつまで寝ているんですか?」
タキシードを着た若い男が、ルミアを起こしすためベッドに声をかけた。手には白い手袋をはめている。
「クレイド。あなたに言われなくても、もうすでに起きてます」
ルミア=ミュレッドはクレイドに向かって言った。
「その髪型で言われましても……」
そう言ってクレイドはくすっと笑った。
ルミア=ミュレッドの髪は、今起きたかのようにぼさぼさになっている。
「あー! 笑いましたね!」
「そんなことよりも、髪を直しますからこちらに」
クレイドはそう言ってルミアに手を差し出した。ルミアの顔が少し赤く染まっている。
「ありがとう」
ルミアは、頬を膨らましながらそう言って、差し出されたクレイドの手をとった。
「さて、今日は髪をとかしている間、何の話をしましょうか?」
ルミアは毎日、クレイドの話を聞くこの時間を、楽しみにしている。
「そうね、クレイドが冒険をしていた頃の話を聞きたいな~」
「承知しました」
そう言ってクレイドは話し始めた。そして、髪をとかされている時にルミアは小さな声でぼそっと、
「外の世界を見てみたいな」
と、そう呟くのだった――。
ーー騒がしいな
ユートはそう思って目を覚ました。そこではナハトとイビルが何かを言い争っている。
「それ私のゼリーだったのに!」
「やだぁ……」
「イビルは嫌だって言ってるゼ」
そう言って二人はドタドタと辺りを走り回っている。リヒスはもうすでに馴れているため、静かに朝ご飯を食べている。
「はぁ」
ため息をついたユートは、走り回っているナハトを捕まえてナハトだけにしか聞こえないような小さな声で言った。これでこのせりふを言うのは何回目だろうか……
「ナハト、ここで我慢をするのが大人だぞ」
ユートがそう言うとナハトの顔が輝いた。
「大人! ナハトちゃん我慢する!」
そう言って、
「イビル私の分も食べていいよ! 私大人だから!」
そうイビルに向かって言った。
「ありぃ……」
イビルお礼を言ってゼリーを食べ始めた。そんな二人を眺めながらユートは席に着いた。
ーー子供だ……
朝ご飯を食べ始めたユートは何かの視線を感じて振り向いた。毎朝この時間帯になると遠くから視線を感じていた。
ーーやっぱり、どこかから監視されている気がするな。
そう思ったユートは一旦食べる手を止め、窓を覗いた。しかし、人影は見当たらない。
その後、ベッドに転がってだらだらしているナハトに話しかけた。
「ナハト、何か分かったか?」
ユートは、誰が何のために、ユート達を監視しているのか気になったため、ナハトに調べてもらうよう頼んでいた。
「眷属の蝙蝠ちゃんたちを、飛ばして調べてみたよ~貴族の人たちが監視しているみたい。理由は分からないけど手出しはしてこなさそうだから大丈夫だと思う」
ナハトはベッドの上をゴロゴロ回転しながらそう答えた。
ナハトのサブ職業は
ーーそうか、ならいいけど。
ユートは興味を無くし、そう言うと残りの朝ごはんを口の中に放り込み始めた。
「さて、ギルマス昨日の続き始めますよ」
「そうだな、がんばるか」
そう答えて、ユートはリヒトと共にダンスの練習をはじめた。イビルとナハトからの視線が恥ずかしいが、そんな事をおもったのはユートがダンスの練習を始めようと思ったのは昨日見たことがきっかけだった。
昨日、ユート達は四人で城の中をぶらぶらしていた。そうしていたとき、不意にナハトが指を指して、ユートに問いかけた。
「あの人たち、なんでダンス踊ってるの?」
ユートも、男女がダンスを踊っている方向を向いた。そして、ナハトの疑問に答えるために口を開いた。
「たぶん、明日の式典で踊るために……」
ユートは途中で黙まりこんだ。
「ギルマス、何で黙っちゃったの?」
ユートの頭は最悪の答えを導き出そうとしていた。
ーー貴族の式典ってダンスあるよな!?
そしてユートはギルドメンバーの中で唯一ダンスの踊れるリヒトに泣きついたのだった。ほかの二人が踊れるとは思っていない。それにリヒスはダンスが踊れる設定にしていた……はずだ。
ユート達は式典が始まったため、会場へ向かった。会場には大きなシャンデリアが飾られており、豪華な風景だった。。ユート達は目の前の光景に圧倒されていた。
ーーさすが、このあたりで一番大きな城だな。
会場には、多くの貴族がいたがユート達に話し掛けようと思う人はいなかった。
「やはり、話しかけてくる人は、いないようですね」
「そうだな、嫌っている奴にわざわざ話し掛けようとは思わないだろ」
「何か複雑な気分ですね」
ユート達ーユートだけだがーも話しかけてもらいたくないため、気にはとめなかった。
「ナハトちゃん、ご飯取りに行ってくる~」
「わたぁ……」
「ああ、行ってきていいよ」
「私も着いていきます」
ユートも何か口に入れとないといけないと思ったのだが、胃重くてとてもじゃないが食べれそうにない。
二人が食べ物を取りに行って少したった頃、ルミアが階段の上から登場した。リヒスは二人の方に行ってしまっている。
「みなさま、ご機嫌いかがですか?」
そう階段の上から貴族たちに向かって言った。
「相変わらず、お美しい」
「ああ、まるでダイヤモンドのような美しさだ」
貴族達はルミア=ミュレッドを褒め称えたが、ルミアは階段の上から手を振るだけだった。40をすぎたおっさんになにをいわれても心には響かないだろう。
ーーお姫様も大変だな。
そうしていると、ルミアの後ろから国王のモナークが現れた。そうしてユート達の前に近づいてきてユートに話しかけた。二人の周りにざわめきが広がったが国王は露ほども気にしていない。
「こういう場所は初めてかの?」
「そうですね。それにしても、何故僕達をこのような場所に?」
ーー大体予想はついてるけど。
「ちょっと君、我々の国王様に対して失礼ではないか!」
ユートが不躾にそう問いかけると、隣から文句の声が上がった。
「まぁ、そう怒るでない。すまないの」
「いえ、別にいいですけど」
「もう、すでに気づいてるようじゃのならば、明日、わしの部屋に来ていただきたい」
そう言ってユートに頭を下げた。周りからはどよめきの声が上がった。
この国の国王がどこの馬の骨かも分からない冒険者になっているのだから、そうなるのも当然だ。こうなってはユートも断ることも出来ない。
「分かりました。」
「そうか、来てくれるか。では明日にわしの部屋で」
「はい」
「お嬢ちゃん、たくさん食べるんじゃぞ」
そう言って、いつの間にかユートの横にいたナハトの頭をなで、去っていってしまった。
そして、国王が後ろを向いたとき、ナハトはほっぺを膨らましユートの裾を引っ張った。
「ナハト、そんなに子供に見えるかな?」
ナハトにそう聞かれたユートはどう答えるのが正解なのかわからず固まった。こういう状況に遭遇したことが少なくいまだに免疫がない。
「そうだナハト。星見に行こう。女性には夜空が似合うから」
そんな事を言ってユートはナハトを外へと連れ出した。無理矢理感があったのだが、ナハトの機嫌も徐々に治っていった。
「綺麗だね~」
「だな」
二人がしばらく空を見上げていると後ろから声が聞こえた。
「見つけぇ…」
「イビルは見つけたって言ってるゼ」
「ここにいたんですか」
イビルとリヒスが庭に出てきた。ゴズとメズは手に食べ物を握っていた。
ユートは今までの出来事を二人に説明した。
「これで、私達を貴族の式典に呼んだ理由が分かりますね」
「ああそうだな」
ユートが、リヒトと会話していると黒いタキシードを着た人物がこちらに向かって歩いてきてユートの前で立ち止まった。
「私の名前はクレイド。ルミア=ミュレッド様の執事をしています。ルミア=ミュレッド様が話をしたいと申しているのですが皆様、少しお時間よろしいでしょうか?」
ユートは突然の話に驚いたが、ルミアが自分を呼んだ理由を知りたいという好奇心にかられ、行くことにした。
「みんなはどうする?」
ユートは他の三人にそう問いかけた。別に全員で行く必要はない。
「ナハトも行くぅ~だって、お姫様の所でしょ~」
「イビルもぉ……」
「イビルも行きたいって言ってるゼ」
「じゃあ、私も」
だが、結局全員で行くことになった。まあユートもこうなるとは思っていた訳ではないが。
「では、行きましょうか」
クレイドはそう言って歩き出した。その後ろを四人はついて行った。
ある部屋の前でクレイドは立ち止まりドアにノックをした、そして、扉の向こうにいるルミアに話しかけた。
「お嬢様、お連れいたしました」
「ありがとう、扉開いてるからどうぞ」
という、返答が聞こえるとクレイドはドアを開け、四人を招きいれた。
中は、真ん中に大きなベッドがあり、まさに、お姫様が住むような部屋だった。ただ周りには本棚に本がぎっしり詰まっていた。
四人はソファーに座り、ルミア=ミュレッドは四人と向かうように座った。クレイドは横に立っている。
「それで、お話というのは?」
「……私をあなた達のギルドに入れて頂けませんか!?」
唐突にルミア=ミュレッドはユートに向かって言った。
ユートはまさかこんな話だとは思わず、心を落ち着かせるのに苦労した。そして心を落ち着かせた後ルミアに向かって聞いた。
「すいません。どういう事ですか?」
ユートが心を落ち着かせた後にルミア=ミュレッドに向かって言った。
「そこは、私が代わりに話します」
そう言ってクレイドが代わりに話し始めた。そして、話し終った後ユートが口を開いた。
「つまり、ルミア=ミュレッド様は……」
「ルミアでいいです」
「わかりました。ルミアは外の世界に憧れていると。外の世界を見るために私達と一緒に行きたい、そういうことですね?」
「はい。駄目……でしょうか?」
ユートからするとルミアを連れて行かしてあげたかった。しかし、これは一人で決めれることではない。だが、そのことを目を輝かしているルミアに話すことは出来なかった。
「分かりました。検討します。返事はまた後でもよろしいでしょうか?」
「はい、また返事をください」
「お嬢様そろそろ寝る時間ですよ」
クレイドが、ルミアに向かってそう言ったので、ユート達はルミアの部屋から出て行った。そして、自分の部屋に行きベッドにもぐった。そして。
ーーギルマスはこんなに忙しい者じゃ無いはず何だけどな……
と、そう思うのだった。
翌日、ユートは国王と向かい合って座っていた。残りの三人はルミアの部屋に行き、ルミアと話をしている。
「それで、僕に何をさせたいんですか?」
ユートは国王に向かってそう言った。
「おぬし達に、最近子供をさらっている、人攫いどもを討伐して欲しいのじゃ」
ーー人攫いの討伐!?
ユートは全く予想していない依頼の内容だったため、一瞬キョトンとした顔になった。しかしすぐに元の顔に戻った。
「なるほど、でも、それならばこの国の警備隊を使えばいいのでは?」
ユートは国王に向かって言った。
こんなに大きな国なら、警備隊もあるはずだ、それを使えばわざわざユート達を呼ぶまでも無かっただろう。
「警備隊を国の外に派遣した場合には、派遣する理由を国民に伝えなければいけない決まりになっておる。嘘の理由で派遣したとしても人攫いは危機を感じ身を潜めるじゃろう、そうなっては意味が無い」
「なるほど」
ユートは悩んだ末この依頼を引き受ける事にした。貴族のことなどどうでもいいが、子供を攫う奴らに怒りを覚えたからだ。
「引き受けましょう」
ユートは国王に向かってそう言った。
「そうか、引き受けてくれるか!」
そう言って国王は立ち上がりユートの手を握った。そして、ユートが部屋を出ようとするときにユートに向かって言った。
「人攫いを討伐して帰ってきたら、おぬしに孫娘のルミアを任せようかの」
ユートは、笑ってその部屋を後にした。
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