第3話

「しかし、国王、冒険者に依頼を頼むというのは」 


 ここは、自由国家エアフ=ドルムント。今、国王であるモナーク=ミュレッドと何名かの領主がある問題について話し合っていた。議会の会場は熱を帯び始めている。


 「なぜだ?」


 国王は領主達に向かってそう問いかけた。誰も顔を上げようとしていない。しかし勇気のある貴族が急に立ち上がり口を開いた。


 「やはり仮にも貴族といえどそやつらは冒険者です。にそのような奴らに頭を下げるなど王の権威が損なわれてしまいます!」


 貴族達は法律によって支配できない冒険者を嫌っていた。そして、ここの領主達も例外ではなかった。


ーー別に、わしは冒険者のことを嫌ってはいないのだが……


 「では、お前達にこの案件を解決する事が出来るのか?」


 国王は領主達に向かって、そう問いかけた。


 「それは……」


 議会の会場が一瞬で静まり返った。

 しかしこの空気を打ち破るように一人の領主が口を開いた。


 「何とか他の案を出しますから」

 「それは、今までに何回口にした? もうそんな悠長なことを言っている場合ではないのがわからないのか?」


 国王は静かな声で領主達に言った。他の貴族たち黙り込んだ。


 「では、使者としてマトリックスに行かせる者をここに呼ぶのだ」

 「わかりました」


 国王がここまで決めたからには、もう反対は出来ない。

 他の貴族たちは国王に言われるまま使者を呼んだ。


 「国王様、使いとしていくことになった者です」

 「おぬしには、マトリックスに行きユートと名乗る冒険者にこれを渡すのだ」

 「ハッ、承知いたしました」 


 国王は、全員がこの部屋を出て行った後、一人で静かにため息をつくのであったーー。



 *  *  *  *  *  *



 歓迎会を開いてから一週間が過ぎ、この世界について少しずつわかり始めたユートは――この世界の上下水道と火は魔法で管理されており、明かりも魔法を使う。職業、装備、スキル、アイテムはゲームの頃のものをそのまま使用できる。そして、公用語は日本語だ――三人とのんびり朝ごはんを食べていた。



ーーやっぱり冒険者って時間感覚がルーズだから楽だな。大学の講義も無いし。


 そんなことを思いながらパンを口に放り込んでいるとドアがノックされる音がした。


ーー誰だろう? 尋ねてくる人なんていたっけ?


 ノックの音が聞こえているのに、いまだに、口の中にパンを放り込んでいるユートを見て、リヒスが仕方なさそうにため息をつき玄関に行こうとした。


 「仕方ないですね、私が出ます」  

 「ごめんごめん、俺も行く」


 さすがに悪いと思ったユートは一旦手を止め、リヒスについて行った。そして、玄関のドアをあけると馬に乗った騎士が立っていた。馬には綺麗な装飾品が飾ってあった。


 「ここにユートというものは居りますか?」


 馬の上に乗った騎士は、ユートにそう尋ねた。


 「僕ですけど、どうしたんですか?」

 「貴族であるあなた様に国王様からの手紙が届いております」


ーーこの世界はサブ職業も適応されてるのか。

 

 ユートのサブ職業は貴族である。

 驚いたユートだったが、とりあえず騎士が渡してきた手紙を受け取った


 「とりあえず、中に入りませんか?」


 ユートは騎士に向かってそう言って中へと促した。その後ユートは自分のサブ職業欄を見たがしっかりと貴族と書いてあった。ーー貴族はサブ職業貴族の取得者が加入しているパーティーに若干の報酬ボーナスを得ることができる。そのため必須サブ職になっていたーー


 「ありがとうございます」


 ユートは騎士をギルドの中へと招きいれ、そして騎士に詳しい説明を求めた。


 「国王様が貴族の式典を開催するとおっしゃいました。そのため、貴族の人たちに手紙を渡せとの命を受け、渡しに来た次第です」


 手紙には自由国家であるエアフ=ドルムントで、式典を開催するため参加しませんか? という文が堅苦しく書かれていた。


 「これは、いつまでに決めれば?」


 ユートは騎士にそう問いかけた。


 「なるべく早くに、出来れば今が」   


 騎士がそう言ったため、ユートが行こうか悩んでいると、ナハトと肩の上にゴズを乗せたイビルが覗き込んできた。


 「何に悩んでんの~ナハトは参加したいな」

 「私も……行くぅ……」

 「イビルは行きたいらしいゼ」


 二人がそう言うのでユートは式典に参加することに決めた。基本的にこういうときにはユートに拒否権はない。


 「じゃあ、全員で参加します」

 「そうですか! わかりました」 


 そう言ってうれしそうに騎士は出て行った。

 その後、馬が走り去る音を聞いていたユートは後ろにいるリヒスに問いかけた。


 「なぁ、リヒス何かおかしくないか?」

 「そうですね」  


 貴族は冒険者を嫌っていると聞いているのに、わざわざ貴族の式典なんかに冒険者を招待するだろうか? ここまで馬で来ようと思うと時間がかかる上に、あんな装飾品を付ける必要も無い。


 「ギルマスが考えていることは大体わかりますが、そこまで心配する事も無いと思いますよ」

 「それもそうだな。とりあえず向こうまではどれぐらい掛かるんだ?」


 ユートは気楽にイビルに言った。


 「朽ちた竜ボーン・ドラゴンに乗てぇ……ピタァ……」

 「イビルは朽ちた竜ボーン・ドラゴンに制限時間ぴったりで着くって言ってるゼ」

 「わかった。早めに城に着いておきたいから明後日には出発するぞ。今日中に来ていく服を調達しないと」


ーーさすがに普段着で参加は出来ないし、防具なんてさらに駄目だしな。


 そう思ったユートは、マルセイユのフィナにフレンドチャットを送った。コール音がして直ぐにフィナがでた。


 「ユートさんどうしたんですか?」


 不思議そうに聞いてくるフィナに、ユートは今あった事を説明した。


 「なるほど、珍しい事もありますね。それで着ていく服がほしいと。わかりました。ギルドまで来ていただければ何とかしますよ」


ーーフィナさんの変態スイッチ入っちゃったみたいだけど、イビルとナハト大丈夫かな?


 「じゃあ、マルセイユに行こう」


 イビルとナハトが少し怖がっているが気にせずに連れて行くことにした。前の事がまだトラウマなんだろう。

 チャットが終わると直ぐに、三人を連れてマルセイユに向かった。そこには両手にドレスを持ったフィナとギルマスのティーナが待っていた。

 そしてフィナは、有り得ないスピードでイビルとナハトを奥の部屋に引きずっていった。ユートは、心の中で二人に謝りながらティーナに話しかけた。


 「あの……僕達は……?」 


 ティーナはぽかんとしていたが、ユートに話しかけられ、我に返った。


 「ああ、そやったね。あなた達のはここに用意してあるよ」


 そこには黒いスーツのような物が二つ置いてあった、片方の服は下がスカートになっている。


 「これが、二人のやね、あのイビルちゃんとナハトちゃんは今頃、着せ替え人形にされてんと違うんかな?」


ーーうわぁ、悲惨。


 そうして二時間が経過したころに、フィナ達が出てきた。イビルとナハトは元気がなくなっている。


 「どうでしょう、ナハトちゃんのスカートのフリル。ピンクを多くして可愛くしてみました!」


 そこには、ピンクのドレスを着たナハトがたっていた。背がもともと小さいため、さらに子供に間違えられそうだ。


 「イビルちゃんは背が高く長い黒髪なので、逆にドレスを白にして見ました」


 イビルの方は身体のラインにフィットしている白いドレスを着ていた。

 フィナは顔を赤くして興奮気味だった。そんな、フィナを横目に見ながらユートはイビルとナハトに話しかけた。


 「二人とも可愛くなってるよ。まあまあ元気出して」


 その後ユートはフィナとティーナにお礼を言ってギルドを出た。その後二人からいろいろ攻撃を受けたのはいうまでもない。



 そして出発日当日になった。


ーー三恐をまた呼び出すのは気が引けるけど、移動のためなら仕方が無い。


 ユート達は周りに草が少ない場所に移動していた。朽ちた竜ボーン・ドラゴンを召喚すると、周りの草が枯れるという効果が発動する。そのため、被害を減らす為にユート達は草が少ない所に移動してきた。


 「ここなら、被害も少ないだろう」

 「呼び出していいよ」

 「わかぁ…朽ちた竜ボーン・ドラゴン召喚……」


 イビルがそう唱えるとどこからともなく、朽ちた竜ボーン・ドラゴンが現れた。それにユート達は乗り込んで自由国家エアフ=ドルムントへ向かった。



 *  *  *  *  *  *



 そして、四人は人気の無いところで朽ちた竜ボーン・ドラゴンから降り、自由国家エアフ=ドルムンまで歩いた。大本部も大きかったがこの城はさらに大きい。感心しながらユート達は中に入った。すると、黒いタキシードを着て眼鏡を掛けた白髪のおじいさんが立っていた。


 「招待状をお見せください」


 おじいさんはユートたちに向かって言った。

 そう言われたためユートは、国王の手紙をおじいさんに手渡した。


 「はい、ユート様ですね。お部屋に案内いたします」


 そう言われたので、ユート達三人はおじいさんの後ろに着いて行った。

 城の中は、中世ヨーロッパ風のつくりになっており、ユートとナハトはずっと目を忙しそうに動かしていた。


 「到着いたしました」


 そう言って、おじいさんは部屋の扉を開けた。中はとても広くベット四つあった。全員が入っても余裕のある部屋だ。ユートは一番疑問になっている事を聞いた。


 「あの~俺の部屋は?」

 「四人で一部屋となっております。では、式典が始まるまで自由にお過ごしください」


 そう言っておじいさんは出て行った。


ーーうそだろ、さすがに俺だけは別の部屋じゃないよ困るんですけど。夜とかいったいどうしろと。


 ユートは心の中で叫んだが口には出さなかった。

 そして、考えても変わらないと思ったユートは式典が始まるまで城の中を探索することにした。

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