第1話

ユートは、ベッドの上で目を覚ました。外からは春らしい心地よい風と太陽の日差しが入り込んでいる。ユートは起き上がって辺りを見渡した。部屋の周りには、自分のよく見慣れたゲームの装備と剣が置いてあった。


――ここは、どこだ?


 ユートは心の底では気づいていた。この世界が自分のよく知り得た場所だという事を。この場所は、ユートが1日も欠かすことなくやり続けたゲーム、<メトロポリス>の自分の部屋だった。


――死んだ後にゲームの世界に転生か。ラノベみたいだな。


 ユートは驚きながらも空中に指をスライドさてメニュー画面を開いた。開いたメニュー画面がゲームの時と変わっているのは、GMコールやログアウトボタンが無くなっている事ぐらいだった。ユートは異世界転生の本普段から読み漁っているため、そこまで驚かなかった。むしろこの世界に転生したことに喜びを感じていた。

 ゲームのころのフレンドがいなくなってはいたが、一通りチェックが終わったユートは、起きようと思ってベットから降りた。すると――。


 「ギルマス~朝ご飯できましたよ~」


 ゲームのころからよく知っている声が聞こえた。その声に引きずられるように、ユートはこの部屋を出た。

 このギルドの中は三階立てであり、真ん中が筒抜けになっているため部屋を出ればすぐに下を見ることができる。

 下を覗き込むと、ユートが思った通り長年ゲームで一緒の三人が見えた。ユートは嬉しくなって階段を駆け下りた。下からはゲーム時代では感じられなかった匂いがユートの鼻を刺激している。


 ーーやっぱり匂いがするって良いよな。


 ユートは一階まで降りた。するとーー


 「おっはよーう!」


 

 そう言って小さい女の子がユートの胸に飛び込んできた。名前はナハト、職業は殲滅者センメツシャであり、――殲滅者センメツシャとは、<メトロポリス>の主な職業の一つで、全ての職業の中で、一番の物理攻撃力と素早さを誇る――ユートが、ゲームのときに作ったAIの中の一人で、なかなかの問題児であり毎回問題を引き起こしている。性格を考えたのはユート本人なのだが。


――相変わらず距離感がおかしい。


 「おはよう。とりあえず離れて」

 「なんでよ~いいじゃ~ん」

 「良くないの。これじゃあ歩けないから」

 「仕方無いな~」


 ナハトは渋々ユートから離れた。そうすると、


 「おはぁ……」

 「イビルはおはようって言ってるゼ」

 「ああそうだな、挨拶してやれヨ。ギルマス」


 次にユートに挨拶したのはイビルだ。身長はそこまで高くなく黒髪が背中の半分辺りまで延びている。その後に話したのはゴズその次にメズだ。二体はユートの頭の上に乗っている。イビルの職業は死霊魔術師ネクロマンサーであり、――死霊魔術師ネクロマンサーとは、<メトロポリス>の主な職業の一つで、戦闘では名前の通り、死霊を召喚して戦う、他にも敵にデバフを掛けるのも得意――いつも横にダーティドール汚れた人形二体を翻訳用として引き連れている。


 「おはよう。とりあえず重いから、ゴズとメズ頭に乗るのを止めてくれないか?」

 「仕方ないナ。止めてやるカ」

 「そうだナ」


 そう言って、ゴズとメズはイビルのひざの上に座った。


 「ギルマス、おはようございます。朝ご飯食べましょう」


 みんなをまとめているのはリヒス、身長はユートと同じぐらいで、ゴールドの髪は肩の上まで

ふわっとして延びている。 職業は大神官ハイ・プリーストであり、――職業は大神官ハイ・プリーストとは、<メトロポリス>の主な職業の一つで、一番回復魔力が高い職業だ。そのため、とても打たれ弱く一人での戦闘は向かない――このギルドの中で一番しっかりいている。そのため、ユートはリヒス頼りっきりだ。


 「そうだな」

 「食べぇ……」

 「いっただっきまーす」

 朝ご飯をみんなで食べ始めた。ユートは目の前にあったパンに手を伸ばして、一掴みを口の中に恐る恐る放り込んだ。ダンボール味がしてはかなわない。


――よかった。ちゃんと味がある。


 ユートはホットして胸をなで下ろした。そして、パンをどんどん口の中に放り込んだ。そして、三人が朝ご飯を食べている様子を見て、ユートはゲームの頃よりさらに人間らしくなっている。そう思った。


ーーこいつ逹と一緒なら異世界転生も悪くないな。


 みんなが朝ごはんも食べ終わったころに、ユートは、みんなにこの後どうするかを聞くために口を開いた。

 この世界が本当にゲームの世界と同じなら、外には魔物もいるはずで、魔物を一度この目で見たいと思ったからだ。


 「食べ終わったらみんなどうしたい?」


 と、三人に問いかけたのだが、ユートに返事をしてくれたのはリヒス一人だった。ほかの二人はあんまり聞いていない。ーー実際あまり興味を持っていないのだろうーー全て任せたという態度だ。


 「やることがないなら。食べ物の補充をしたいので、買い物にいきたいです」


 リヒスはユートに向かって言った。

 魔物をその目で見たいと思っていたユートだったが、リヒトがそう答えたため、仕方なく買い物について行く事にした。


 「わかった。ほかの二人はどうしたい?」

 「やることも無いし、ナハトも一緒にいきたいな~」

 「みんな……いくぅ……」

 「イビルは皆で行こうって言ってるゼ」



 全員一致で買い物に行くことに決まり、準備を終えたユート達は玄関のドアを開けたーー。

 しかしそこは、ユート達が見慣れている場所ではなかった。


 そこはユートが知っているゲームの町ではない。町並みの雰囲気はよく似ているが、そこはユート達が全く知り得ない場所だった。


――どういうことだ? ここは俺が知っているゲームの世界じゃ無かったのか? なら、何故職業や装備、アイテムはゲームと同じままなんだ?


 ユートの頭の中で?がくるくると回っていた。ほかの三人も不思議そうにあたりをきょろきょろと見渡している。四人が頭を悩ましながらあたりを見渡していると声をかけられた。


 「あらあら新人さん? ここに引っ越してきたの?」


 ユートが後ろを振り返ってみるときれいな女性が立っていた。そして、ユートはここはどこでこの先どうすれば良いのかをこの人に聞いてみることにした。その時にはすでに頭の中はすでに落ち着いていた。


 「まあ、そんなところです」

 「やっぱり。ようこそ冒険者の国マトリックスへ。まずはあそこに見える大本部に行けば良いわ。いろいろ教えてくれるから」


 そういって女性が指した先には、ドーム型をした大きな建物が見えた。


 「じゃあね。頑張っていってらっしゃい」


 ユート達はその人にお礼を言いそこに向かうことにした。


 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *


 大本部とやらに近づいたユート達はあまりの大きさにため息を漏らした。ほかの三人も大本部を見上げている。ユートは見上げている三人に声をかけて中に入ることにした。

 中に入る時に、大きな像に気をとられて誰かにぶつかった。相手はとても美少年で、しりもちをついていた。髪はーーこの世界では珍しくないのだがーー金髪だった。背はユートより少し高めだろうか。筋肉質ではあったがほっそりとしていた。


 「すいません。大丈夫ですか?」

 「大丈夫ですよ。こちらこそすいません」


 そう言ってその男は大本部から出て行った。

 その後、ユートはどうしても気になっていた像をよく見てみた。筋肉隆々の男の人が後ろに剣をさしている。


――どこかで見たような……どこだっけ?


 思い出せないため、思い出すのを放棄したユートは、受付に行くことにした。幸い空いていたため、すぐに受付に行くことができた。


 「今日はどのようなご用件ですか?」

 「ここに引っ越してきたんですけど、どうすれば良いんですか?」

 「わかりました。では冒険者の証をお出しください?」


――冒険者の証? メトロポリスのチュートリアルが終わった時に貰ったのが有るけどこれかな?


 そう思ったユートは受付の人に、冒険者の証を渡した。


 「はい、大丈夫です。では、この用紙にギルドの名前とメンバーの名前と職業をお書きください」


 ユートは、紙に必要事項を書き込んで受付に提出した。字は日本語だったため書くことには苦労しなかった。


 「登録完了いたしました。あちらから依頼を選んでください。☆1~☆5まであります。☆1が一番簡単で☆5が一番難しいです。お客様なら最高レベルですので何にでもいけると思いますよ」


 ユートは受付の人にお礼を言って三人のところに戻った。イビルとナハトは外の様子を眺めていた。


 「どうでしたか?」


 リヒスはユートにそう尋ねた。


 「特に何も無かったよ。依頼を受ければ良いらしいんだ。貨幣は前と同じそうだし買い物もできるよ」


 ユートは一通りリヒスに説明した後、依頼を受けるために看板へと向かった。そこには多くの依頼があったが、ユートは一番場所が近い所を選び行くことにした。


  *


 ユートとリヒスが話しているのをじっと見ている男がいた。そいつはさっきユートにぶつかった美少年だった。そして誰にも聞こえないように。


 「面白い人だね。またどこかで会える日を楽しみにしてるよ」


 と、1人で誰にも聞こえないようにつぶやくのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る