第46話
「レベルアップが出来るかどうかは判りませんが、次回向こうに行く際にはエルシドさんも一緒に来ますか? 何らかのギフトは付くはずですし、損はないかと……」
「……それに、伯爵様もいらっしゃるのですから、護衛は必要かと思いますが?」
「!! よろしいのですか!? ぜひご同行させて下さい!!」
隆の提案に一も二も無く頷くエルシドだった。
勝手にエルシドを誘ってまずかったかなと、念の為カルロス伯爵の顔を見ると笑顔で頷いている、ちょっとホッとした隆だった。
休憩を終えて、再び前部の座席に着くとまたぞろ、伯爵とエルシド筆頭の騎士達が緊張した面持ちで席のひじ掛けを掴んでいたので、隆は例のネクターの木の実ジュースを全員に配った。
「出発前に皆さんこれを飲んで下さい、緊張がほぐれて落ち着けますよ」
ネクターの木の実の味を知っているシルビア嬢を除く伯爵一家はハッとした表情になっって驚いている。
シルビア嬢、エレナさんにマリアはただただ美味しそうに飲んでいる。
もう、耐性が出来ているのか、全く驚いてはいない。
「む? タカーシ様これは……」
伯爵が言いかけた言葉を遮る様に、隆は人差し指を唇に当てて、片目をつぶってみせた。
隆としては、プラシーボ効果を狙った提供だったので、騎士たちがネクターの木の実と知って更に緊張するのを防ぎたかったのだ。
「そういえば、報告が遅れましたが、タカーシ様に頂いたネクターの木の実は、全て、どの実からも同じ薬効のエリクサーが仕上がったそうです」
「つまり、魔法で作った場合も問題なく使えると言う事ですね……、どうしますか? エリクサーの供給量を増やしますか?」
「もともと、エリクサーは我が領の特産品なのです、徐々にであれば、供給量を増やして行っても良いかもしれません」
伯爵は嬉しそうにそう言った。
「ではその様に致しましょう、具体的な数などは後ほど相談しましょうね」
なぜ急にそんな話になったのか判らないエルシドを筆頭とした護衛騎士達は、訝し気にしていたが、ネクターの木の実のジュース効果は
「それでは出発しますねー」
そう言って隆はキャンピングカーをゆっくり発進させた。
フロンテラまでは草原の中の道を残り10Km前後の距離だ、この道なら時速60Km前後で巡航しても大丈夫そうなので、単純に計算して10分前後で到着してしまうだろう。
ただし、これは魔物などが出なければの話になる、昼間の草原地帯で魔物が出ることは殆ど無いが、0ではない。
そこで隆は、道端に見えた魔物を片っ端から収納滅殺する事で、速度を落とすことなく走り抜けることにした。
「ん? タカーシ様、今、前方に草原狼が数匹居ませんでしたか?」
草原から顔を出した途端、消えてしまった草原狼たちを目にした伯爵が聞いて来た。
伯爵は、ついでに言えばエルシド筆頭の騎士達も、既に100kmオーバーの速度を数分間とはいえ体験しているので、今の巡航速度では落ち着いて辺りを観察出来るようになった様だ。
「あ、はい、見つけ次第駆逐してます」
「な、なるほど、うーん、そうするとこの速度でこの車? を走らせることが出来るのはタカーシ様だけになりますかな……」
「今のところは燃料の事もあるのでそうかもしれません、ただもう少ししたらマリアは出来るようになると思いますよ?」
「……ん」
鼻息も荒く腕を組んで胸を張るマリアは全く偉そうでなく、むしろ可愛かった。
「……それに速度をもう少し抑えれば、フォルタレッサ、フロンテラ間なら伯爵や、他の騎士の方でも、運転さえ覚えれば問題なく走らせる事が出来るかと思います」
「なるほど、何人かの騎士にも、運転方法を教えていただいたほうがいいかもしれませんね……」
「ご領主様、その際はぜひ私にもお声をお掛け下さい!」
「うむ、エルシド、判っておる」
流石騎士筆頭、何にでも挑戦する事を
途中で休憩した関係で、フロンテラに到着したのはフォルタレッサを出てからちょうど1時間後だった。
いきなりものすごい速度で馬が付いていない馬車? が走って来たのを見た門番の兵は物凄く驚いていたが、助手席の窓から伯爵が顔を出すと慌てて道を開けて中に通してくれた。
「途中で休憩したのに、本当に1時間でフロンテラに着いてしまいましたな……」
以前泊まった
「このスピードでフロンテラと行き来できると有事の際にはとても助かるでしょうな……」
「そうですね、ただこの車は大人数で快適な旅をする為のものなので、都市間の連絡用には別の、もっと頑丈な車を用意しますね」
そう言って隆は、軍用のハンヴィーを思い浮かべ、キャンピングカーの隣に並べて出した。
「「「「!!!」」」」
「これは……、タカーシ様これも車なのですか? 何とも言えない厳つさがありますな……」
「あ、判りますか? これは自分達の世界でも軍隊などが使用する車なのです、とても頑丈に出来ていますので多少魔物と接触したとしてもほとんど壊れないと思います、まぁ壊れたとしても言って頂ければ直ぐに直しますのでご遠慮なく使ってください」
ハンヴィーは一旦仕舞って、伯爵が用事を済ます時間を使って、約束のマリアへの運転レッスンを開始した。
キャンピングカーもハンヴィーもオートマチク車なので、シフトレバー、ハンドル、そしてブレーキとアクセル、基本この4つの操作のみで運転可能だ。
マリアにとって、この位の機械操作はお手の物で、あっという間に全く危なげなく基本操作を身に着けてしまった。
普通、初めて車を運転する場合、一種の視野狭窄を起こして、進行方向、目の前の狭い範囲の出来事にしか注意を払えなくなるのだが、マリアの場合そんな事も無く館の周りを走っている途中の脇道から飛び出してきた子供にも気付いてブレーキを踏んでいた。
もともと、スピードも出ていなかったので急ブレーキにもならずに車は止まり、全く大事に至る気配すら無かった。
まぁ、馬の付いていない馬車? が走っているのを見た子供たちは大層驚いてはしゃいでいたのだが……。
冒険者として普段から周囲の気配を探る癖がついていることが運転にもだいぶ役に立っている様だ。
その
騎士達にしても、普段から馬に乗っている関係である程度のスピードで移動しながらの周囲の警戒や、馬を真っ直ぐ走らせる手綱さばきは、ハンドルさばきに通じるので、車の運転もきっと直ぐに慣れるだろう。
そんな感じで1時間近く運転の練習をしたマリアは、たったそれだけの時間でほぼ問題なく運転をマスターしてしまったので、帰りの途中まではマリアが運転して行く事となった。
マリアのスマホもフル充電が終わり今はマリアの異空間収納の中だった。
伯爵の用事も済み車に乗り込むと、全員が見守る中、緊張気味のマリアがエンジンをスタートさせ、唾を飲み込むとちらりと助手席の隆とシルビアを見てから言った。
「……いく」
マリアの緊張が伝染して、緊張気味に隆が頷くと、ぬるぬると館の前を出発したキャンピングカーは、セバスティアン氏と館のメイドたちに見送られてゆっくりと城門に向けて走り始めた。
マリアはこんな街中でスピードを出す事も無く、暴走するのではないかと身構えていた隆はちょっと肩透かしを食らった感じだった。
街に住む人々も沿道に出て来てキャンピングカーを見ている、乗っているのが領主だと気付いて手を振る住民も居るので窓を開けて伯爵ご夫妻にも手を振り返してもらった。
住民達は熱狂的に歓声まで上げているので、まるで凱旋パレードの様だ。
程なく城門に辿り着いたキャンピングカーは問題なく城門を出るとワイワイとあとをついて来た住民たちに見送られてマリアはフォルタレッサに向けてキャンピングカーの加速を開始したのだった。
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