第45話
道が川から離れ、草原地帯を森を迂回する様に右に折れる曲がり角の休憩場所に着いたので、一旦休憩することにしてキャンピングカーを止める。
領都からここまで約30Kmを約20分で来てしまった、調子に乗って飛ばし過ぎた様だ。
「ここで、ちょっと休憩しましょうか? ほら、まだ後ろの居住区を見ていないですよね? お茶にしませんか?」
ちょっと、魂が抜け掛けている男性陣を気遣って隆が声を掛けると、元気な女性陣は期待に輝いている瞳でうんうんと頷いている。
こういった環境変化などに対する生理的な反応に関してはつくづく女性の方が強いと思い知らされてしまうものだ。
「……タカーシ、……たいやき」
「あ、はい、今用意しますね」
居住区に移動した一同はまた感嘆の声を上げた。
「これは……、車の中とは思えませんね……」
逆コの字型に配置されたソファーとその中心に置かれたガラステーブル、ソファーと反対側の壁には今は黒い板としか思えない大画面の4K液晶モニターが嵌め込まれている。
奥にはキッチンとシャワールームがあるのだが、その手前には腰の高さよりちょっと高いカウンターがあり、カウンターの前には回転式の丸いスツールが3つ設置されている。
騎士達はそのスツールに座ってもらい、エルシドと伯爵はその前のソファー(コの字の上の部分)に、残りの5人のうち4人、イサベル夫人、マリベル嬢、シルビア嬢とエレナさんが順番に、ソファーのメイン部分(コの字の角と縦の部分)に、最後にマリアと隆がコの字の下の部分に座った。
それぞれの前に紅茶(ダージリン)と紙に挟まれたマリアの好きな栗餡とあずき餡鯛焼きを作って置いた。
「鯛焼きは紙に挟んでありますので、直接手で持って食べて下さいね、紙は食べられませんからねー」
隆の出す料理初体験の護衛の騎士達とエルシドは一瞬びっくりしていたが、流石に騒いだりはしないで出された紅茶を飲み、鯛焼きを幸せそうな顔で頬張っていた。
甘い食べ物はまだまだ貴重なこの国の事なので、男性陣もやはり甘い物は好きな様だ。
エレナさんは既に2つとも食べてしまって、隆の栗餡鯛焼きを狙っていたのでスッと差し出すとにっこりと微笑んで幸せそうに食べだした。
「このたいやきとは、もしかして、タカーシ様の国の食べ物ですか?」
シルビア嬢が、幸せそうな顔で『甘~い、甘~い』と言いながら鯛焼きをハムついている妹のマリベル嬢を微笑みながら眺めつつ、隆に聞いてくる。
「はい、自分の国では結構ポピュラーなお菓子ですね」
そんな話をしているとマリアがガラステーブルの下に設置されたテレビのリモコンが走行中に行方不明にならない為のケースからリモコンを取り出してスイッチを入れた。用途の判らない、ただの黒い板だと思っていた物が急に明るくなりメニューが表示された為、皆一様に無言となった。
「……ん」
流石のマリアもメニューの内容までは理解出来ないようでリモコンを隆に渡してきた。
隆は苦笑いでリモコンを受け取るとテレビに装備されているHDの中身を確認してみた。
「あー、最初からHDに色々入ってるみたいですね……、 えーと、日本の四季で良いですか?」
展示車をコピーした為、デモ用に色々なジャンルの映画やキャンプのプロモーションビデオなどが入っていた様だ。
その中に日本を紹介するビデオも入っていた。
「……タカーシ様、その壁に掛っている大きな板は何ですかな? 何やら記号が出てきていますが……」
あっけに取られて、壁の板を凝視していたマリアを除く全員を代表して、カルロス伯爵が聞いてきた。
「今映っているのは自分の国の文字ですが、これはテレビと言って、離れたところの景色や出来事などを映したり、演劇などを見る為の道具です、残念ながらこの世界のリアルタイムの映像は映せませんが、自分の国の事を紹介する映像が有ったのでお楽しみください」
画面が明るくなると、この手のビデオでありがちな富士山をバックに新幹線が走り抜けるシーンから始まり、都内のビル群をスカイツリーから映した景色や遊園地など、それから各地方の四季折々の景色や祭り、温泉などを紹介したBGMのみのサイレント映像15分だった。
これをみてキャンプに行きたくなるのかと言われると、微妙な気がすとしか言えないが、外国人が見たら喜びそうな日本紹介映像だった。
ただ、マリアを除く伯爵を筆頭にした皆様には衝撃の映像だった様だ、全員言葉も無く只々驚いている様だった。
「マリア様は、全部直にご覧になっていらしたのですか?」
沈黙を破りシルビア嬢が尋ねてきた。
「いえ、流石にあの数日で、用事を片付け乍らだったので一部しか見ていませんよ? ですよね?」
隆は答えながらもマリアに振ってみた。
「……ん、……ちょっとだけ、……鉄道博物館が、……まだ」
マリアさん鉄道博物館の件を忘れてくれそうにないです、次回は行くしかないと心のメモに二重丸を付ける隆だった。
「いやしかし、タカーシ様のお国は、こちらと比べてだいぶ進んだ文明を享受されているのですな……、あの列車もそうですが、ビル群ですか?、それにあの塔も、あんな高さの建造物を作るなんてこちらでは考えられませんな……」
伯爵が言うとエルシドと騎士達も頷いている。
「文明という意味では、そうとも限りませんよ? 確かに建築や機械に関する技術は進んでいますが、こちらには魔法の技術がありますよね? あちらには魔法が全く見当たら無いのです……」
「……いや、もしかしたら自分が知らないだけで、魔法自体は有るのかもしれませんが、一般的には魔法に関する知識は一切浸透していません」
はっ! と何かに気が付いた様な顔をした伯爵が言った。
「そうすると、タカーシ様が初めて魔法を使ったのは6日前と言う事ですか?」
「はい、実はその通りです……」
恥ずかしそうに隆は答えた。
「最初から収納魔術を使われていたと聞いていたので、長い間修練を積んでいらしたのかと思っておりましたが、恐ろしい成長速度ですな……」
「それに関しては自分にも何故か全く判らないのですが、なにかやたらとレベルが上がるのが早くなってる様です……」
一寸考える様にあごに指を当て首を傾げながらシルビア嬢は言った。
「それは、異世界転移に伴うギフトではないでしょうか? 導師も物語の中で魔力が上がったと言っていました」
「! そう言えばマリアもレベルがすぐ上がる様になっていた気がします!」
「……ん、……収納、……使っても、……魔力、……減らなくなった」
「マリア様、鑑定しても良いですか?」
「……ん、……お願い」
マリアは角に座ったエレナさんを挟んで座っているシルビア嬢に手を差し出す。
その手を取ったシルビア嬢は鑑定を発動して驚いた顔になる。
「マリア様、レベルはもう80を超えています! 4日前に確認した時より30もレベルが上がっています!!」
その場にいた全員が驚いて声が出せなかった。
レベル80、英雄と呼ばれる人々を超えた、エンシエントドラゴンなどの人外のレベルに達していたのだった。
これにはエルシドも黙ってはいられなかった。
「たった、4日間で30もレベルが上がるなんて、一体どんな修行をされたのですか!? まさかタカーシ様の国でもスタンピードがっ!?」
マリアはちょっと困った感じで隆の顔を見た。
何しろ、マリアがしたのは収納魔術を使っただけなのだ。
隆はそれに答えてマリアの手をきゅっと握り、エルシドに向かって答えた。
「いえ、自分の国にはこちらの様なモンスターは……多分いないので、マリアには収納魔術を使って大量の、ほとんど数億匹に届く数の、虫を退治してもらいました」
「な、なるほど、虫と言えども数億もの数を退治すると、そこまでレベルが上がるのですね……、タカーシ様、もし自分がそちらの世界に行ったとしてレベルを上げることは可能でしょうか?」
「う~ん、どうなのでしょうか? マリアの場合、収納魔術が使えたので問題なくレベルアップが出来たと言う事も大きいですし……」
考え込む隆に代わってシルビア嬢が答えた。
「転移の際に与えられるギフトは、何が付くのかその時、その人によって違う可能性があります」
「現に記録にある、導師のお話しでは魔力が上がったとだけ記されていましたし、導師のレベルは50に達していなかったはずで、とても英雄の域には届いていなかったと記憶しております」
「そうなのですか……」
エルシドは、物凄く残念そうに肩を落として、そう答えるのだった。
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いつも、つれづれをお読みいただいている皆様、明けましておめでとうございます~(ΦωΦ)ノ
つたない文章の作品で、お恥ずかしい限りですが、今年もどうぞよろしくお願い致しますです~
今年は年号も変わる事ですし皆さんにとっても新たな輝ける年になります様にお祈り申し上げます~
にゃ~(ΦωΦ)ノ
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