第43話

 そんな訳で、直ぐに内外に向けて婚約を布告、結婚式に関しては1か月後、異議を唱える者に関しては式までにその都度対応することで話が決まった。

「とりあえず、結婚式までに一度向こうに帰る必要がありますので、その際に皆様で一緒に出掛けましょうか? マリアもまだ行きたいところがある様ですし……」

 実は実家に帰る途中で停車した駅近くに鉄道博物館があると、ついぽろっと言ってしまったのだ。

 それにマリアが食いつかないはずが無かった。

「今回一人だけでされたマリア様は、向こうの世界をどう思われましか?」

 シルビア嬢は悪意は籠っていないが一寸拗ねた、一歩間違うと棘の有る聞き方でマリアに尋ねた。

「……ん、……凄かった、……高い塔、……電車、……しょっぴんぐもーる? ……てーまぱーく? ……あと、電車、……凄い速い、……温泉も、……いい」

 マリアさん、物凄く長く話した! あと、電車2回言ってます、相当気に入っていた様だ。

「電車? とはなんですかな?」

 そこに食いつくのは、流石領主だ。

「……これ、……此処から、……フロンテラまで、……10分で行く」

 マリアさんはそう言ってさりげなく亜空間収納からスマホを取り出し、操作し撮影した新幹線の動画を領主に見せた。

「!!!! これは!!! 乗り物ですか!?」

「はい、一度に1000人から1500人位を乗せて走れます」

「フロンテラまで10分なら王都カステイリアまで2時間……早馬でも2日掛る距離を2時間とは、恐ろしい速さだ……、それにその輸送力も恐ろしい……」

「あーカルロス様、こちらでそれを建設、設置するには多分100年単位の時間が掛ると思います、その電車は軌道の上を走っているのですが、その重さや振動に耐えて、歪みも少ない軌道を目的地まで敷かなければなりません」

「またそれを運行するための保守、点検も必要になるのです」

「うむ、確かにそれは大変な事業になりそうだ……、しかし、ますますタカーシ様の国へ行って見たくなりましたぞ!」

「タカーシ様、マリア様が持っていらっしゃる絵が映るその板は、以前タカーシ様が持っていたものと同じですよね?」

「あ、はい、実はそれ、スマートフォンと言いまして、向こうの世界限定ですが離れた場所に居ても会話することが出来る電話機能がメインの機械なのです、あちらに戻った際、マリアとはぐれた場合に備えて、緊急用として用意したのですが、写真や動画を取る機能も付いているので、マリアは普段カメラとして使っているみたいです」

「……ん、……写真、……色々」

 そう言って写真フォルダを開いて撮り貯めた写真をシルビア嬢達に見せて行くマリアだった。

今まで見た事も無い機械? をまるで慣れ親しんだ道具の様に取り扱うマリアを見てシルビア嬢はそちらに驚いていた。

「マリア様、その板の操作方法に慣れていらっしゃいますが、使われ始めたのはあちらに行ってからの4日間だけですよね?」

「……ん、……今日で、……3日目、……簡単」

「いえ、あちらにもマリアみたいに使いこなせない人は沢山いますから、そんな簡単なものでは無いです……」

 思わず隆は訂正してしまった。

「先ほどから見ていると見た事の無い文字? らしきものが度々出てきますがもしかしてタカーシ様の国の言葉ですか?」

「そうです、それもマリアは、少しですが3日で覚えてしまっています」

 なんだか、我が子の天才加減を自慢げに語る教育ママンの様な気分になって来る隆だった。

「わたくしでは無理でしょうか?」

「判りませんが、試してみますか?」

 隆はそう言って新たな、カバーがグリーンのスマホと白いスマホを作り出して、シルビア嬢とエレナさんに渡した。

「電話機能を使うためのチップというデータが記録された部品? は入ってませんがその他の機能は使えますので自由に試してみて下さい」

「あ、ありがとうございます!」

「ありがとうです~」

 シルビア嬢は喜んでいるみたいで早速マリアに電源の入れ方などを聞いていたが、エレナさんは物珍しそうに見てはいたが、あまり関心が無い様子だった。

「た、タカーシ様、その板、私も使ってみたいのですが!!」

 カルロス伯爵が遠慮がちに言い出した。

 ちょっと忘れてしまっていたが、カルロス伯爵もイサベル夫人もあと、マリベル嬢も居たのだった。

「あ、勿論です」

 そう言ってそれぞれに黒、真紅、そしてブルーの端末を用意して渡した。

 皆一様にスマホを手に画面とにらめっこだった。

 そのうちマリアが隆に向かってスマホを翳して言った。

「……タカーシ、……充電」

 そう言えばマリアのスマホは、昨日ホテルで充電してなかったので、確かに電池切れになってもおかしくなかった。

 隆はマリアに向かって頷くと、カルロス伯爵に向かって言った。

「カルロス様、何処か馬車などを置いている場所を使わせて頂けませんか?」

「構わないですが、何かあるのですかな?」

「実はこの板、スマートフォンというのは電気で動いているのですが、長時間使っていると蓄えられた電気を大体1日ぐらいで使い切ってしまい、動かなくなります」

「それで、新たに電気を貯める為に充電しないといけないのですが、お披露目ひろめしたい乗り物でそれが出来ますので、使い方などをご説明したいと思いまして……」

「それでしたら、皆が行き来しやすい中庭に置いては頂けませんか?」

「あ、そうですね、とりあえずそうしましょうか」

 中庭に移動した、というか、応接間の窓の一面は中庭に向いているのですぐに中庭に出られたのだが、一行は隆が披露ひろうすると言う乗り物に興味津々でまるで遠足気分だった。

「これから出す乗り物は、要は馬車と家を合体させた様な乗り物で長距離の移動に便利になっているものなですが、運用にはガソリンという揮発性の高い油の燃料が必要になります」

「油ですか……、一般に使われている灯り用の物ではだめなのですか?」

伯爵の質問に答えた隆は数日前の出来事を思い出して、手を叩いて言った。

「ダメですね……、ほら、先日のスタンピードの際にシルビアに手伝ってもらって燃やしたタンクがあるじゃないですか? あれに入っていたのがガソリンです」

「!! あの、爆発する箱? ですね! あれにはその燃料が入っていたのですか……、もしかすると危険な乗り物なのでしょうか?」

心配そうに聞いてくるシルビア嬢に隆は安心する様に微笑みかけながら言った。

「扱い方を間違えなければ、大丈夫ですよ、型は違いますが向こうでは非常に一般的な乗り物で、たくさん走っていますから」

「……ん、……快適」

 この中で唯一、バスと隆の運転する自動車に乗った事の有るマリアが、自慢げに言った。

「マリア様、ご自分だけずるいです、はわたくしも必ず参ります!!」

「お嬢様が行くのなら私も行きます~」

 もう絶対置いてけぼりにはならない、という決意が漲ったシルビア嬢の言葉だった。

「この辺りでいいですかね?」

「ええ、大丈夫でしょう」

「はい、此処でしたら問題ないかと」

 隆が問うとカルロス伯爵が肯定の返事を返し、イサベル夫人も頷いたので、中庭の中心にある広場に四阿あずまや風のテラスが建てられており放射状に石畳の道が伸びている、四阿あずまやの横のスペースに、隆はおもむろに白くきらきらと輝くキャンピングカーを取り出した。

「おぉ!? 馬車としては意外に大きのですね……」

 出て来たキャンピングカーの大きさに皆ちょっとびっくりしている様子だった。

「はい、もっと小型のものもあるのですが、5人以上で使うと思ったので大型のものにしてみました」

 隆は運転席のドアーを開けると座席に座り、中が見える様にドアーを開けたまま、挿しっぱなしになっていたキーを捻りエンジンを掛けた。

「「「「「!!!」」」」」

 マリアを除く皆は一様に驚いていたが、あの爆発に比べると小さな音である事にだんだん慣れて来た様で色々な所を観察し始めるのだった。

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