第34話
マリアが下着のフィッティングを済ませて、店員さんが呼びに来るまで外で待っていた隆だったが、お会計の為には店の奥まで入らねばならなかった。
そこは、隆にとって未知の領域だった。
色とりどりのカラフルな下着類がずらっと並ぶ様は、ある意味壮観と言えたが、残念ながらその中を堂々と歩く事など隆にはハードルが高すぎた。
顔を真っ赤にして、猫背になりながら視線は足元に固定して歩く隆には地獄の道のりだった。
やっとの思いでレジに辿り着いた隆を待っていたモノは、恐ろしい事に店員さんの下着セールストークだった。
「お待たせいたしました、こちらが今回選ばせていただいた下着類になります、まずアッパーは色々なアウターに合わせられる様に、同じデザインでカップの形状が違う3種類を用意致しました、そして……」
「ちょっ、ちょっと待ってください!! 自分にその説明は不要です!! マリア……、彼女には、説明して頂けているんですよね?」
「あ、はい! 大丈夫です、きちんと正しい付け方からお教えいたしました!」
「それでしたら問題ありません、総て購入でお会計をお願いいたします……」
女性用下着に関して詳しくなりたくない隆だった……。
そそくさと会計を済ませ、店を後にする隆だったが、マリアの下着一式で5万円を超えているのにちょっとビビってしまった。
海外有名ブランドものとか、高価な素材であるとかと言う訳ではないので多分そう言う物なのだろうとは思うが、隆の3枚1000円のトランクスと比べてしまうと恐ろしい格差社会の縮図が垣間見えてしまうお下着の世界だった。
シルビアとエレナさんの分は全部魔法で作ると改めて決心するのだった。
なんだか、1軒目でぐったりと疲れてしまった隆はそろそろ昼時でもあるので、マリアとフードコートで休憩することにした。
「……タカーシ、……お疲れ?」
「いえ、体調は大丈夫なのですが、精神的にちょっと……、マリアは良い下着を見つけられましたか?」
「……ん、……凄い、……跳ねても、……痛くない」
マリア位になると走っただけで痛い事もあるらしいので良い下着は必須なのだ。
いや、良くは知らないが、そう言う事らしいのだった。
昨日、衣料品量販店『ムニクル』で買った、スポーツタイプのブラとショーツも肌触りなどは良いのだがいかんせんサイズの幅が少ないので完全にマリアの体形に合ってはいないものだった、それに引き換え今日の下着は完璧にマリアに合わせて用意されたもので付け心地は雲泥の差だった様だ。
「家に帰ったら、色違いとかデザインを変えたのとか10種類ぐらい作りますね」
「……ん、……タカーシ、……ありがとう」
隆の左腕に身を預けて微笑むマリアは物凄く可愛かった。
少し休んで回復した隆は、マリアを連れてフードコートを囲む様にして並ぶ周りの店を見て回る事にした。
「ここは周りのお店で気に入った物を買って、そこの席に自分で運んで食事するスタイルです、要は屋台のお店と食事スペースですね」
「……ん、……向こうにも、……在る」
「何を売っているか、見て回って気になるものがあったら味見もしてみますか?」
「……ん、……味見」
ここのフードコートは20軒以上が軒を連ねる為、とてもではないがすべての店を回る事は出来ないが、試食用に1/4サイズのミニセットを用意してくれていた。
なので二人で8軒ぐらい回っても普通の食事の1食分となる量で収まるのだ。
先ず、マリアの目を引いたのはデカい肉の塊がクルクル回っているドネルケバブだった。
回転する肉の塊そのものに
そしてたこ焼き、焼きそば、オムライス、ローストビーフ丼、メキシカンタコス、餃子、ラーメン。
ここまで回るとさすがに腹が膨れてしまったが、マリアはある物を見つけてしまった。
甘い香りが漂う鯛焼き屋さんだ。
しかも定番のあずき餡の他に、白餡、うぐいす餡、栗餡、更にカスタードクリームなどもある。
「マリア、流石に今からこれは厳しいでしょう? 収納しておいて3時のおやつにしませんか? その代わり全種類買いますから」
「!!! ……その手が、……あった」
ぶんぶん頷いているマリアを見てほっこりしてしまう隆だったが、財布には厳しいお昼休みであった。
傍目にはマリアに似合いそうな服などを見ながら歩くウィンドウショッピングを楽しむ二人連れではあったが、実際には気になる服は隆が片っ端からコピーしているという
既にマリア用だけでなく、シルビアやエレナさん用にも併せて200着近い秋冬物の服をコピーしていたが、レベル1000オーバーの隆にとってこの位の魔力消費は全く負担にならなかった。
また、既にこの広大なショッピングモールの2/3以上を、片端から歩き回っているのにも関わらず、二人とも体力的には全く疲れてはいなかった。
高レベルの恩恵とは本当に凄いものだった、特に隆の場合、既に生物の域を超えたレベルになってしまったので、本人は知る由もないのだが、病源菌、ウィルスや、毒などに対する耐性はMAXで、実は既に寿命すらなくなっていたのだ。
だが、そんな事に気付くのはきっと数十年後だろう、何しろ今まで誰一人としてこんなレベルに到達した者は居ないのだから。
「まさか、今日一日でこのモールを全部見て回れるなんて思いもしませんでした、マリアは疲れていませんか?」
「……ん、……元気」
腰に手を当てて、鼻息も荒く胸を張るマリアだったが、まったく迫力は無く、むしろかわいらしさが強調されただけだったので、思わず頭を撫でてしまった。
「それでは、まだ、2時前だし、来る途中で見た遊園地に行ってみますか?」
「……行く、……すぐ行く」
電車で数駅戻ると、駅直結の遊園地の外周を回るモノレールに乗り換え、遊園地入り口前で降りると、もうそこは夢の国だった。
マリアは目を輝かせ早速行きたがったが、園内は飲食物持ち込み禁止になっているので、鯛焼きは園外の休憩所で頂くことにした。
隆は、さっき駅前のコンビニで買っておいた、お茶の入ったコンビニ袋から大胆にも何気なく鯛焼きを取り出したが、明らかに大きさが合っていない。
まぁ、だが誰も気付いていなかったのでそこは良しとしよう。
しかし、鯛焼きは出来立てを収納したので、本当に出来立てそのままでまだ熱々だった、しかも辺りに良い香りが漂い出してしまった。
「ママ! 鯛焼き食べたい!!」
「わーん! お腹空いたぁー!!」
その場にいた10人ぐらいの子供たちが騒ぎだしてしまった。
いくら隆が飄々とした性格だからと言ってこの騒ぎの中で鯛焼きを食べるのは無理だった、マリアに目配せすると意を汲み取って頷いてくれているので、
「いっぱいあるので、もし良かったらどうぞー?」
「「「「「「「わーぃ!!」」」」」」」
歓声と共に群がった子供たちにあっという間に鯛焼きをすべて持って行かれてしまった。
更に、子供たちは口々に隆に向かってお礼を言うのだが……『お姉ちゃんありがとう!!』……これには隆も心を抉られていたのだった。
そして、子供たちと、恐縮した親たちが居なくなると、マリアがちょっと寂しそうに言った。
「……鯛焼き、……無い」
「マリア、大丈夫ですよ、実はコピーして大量に持ってます」
「!! ……タカーシ!! ……えらい!!」
「ここで出すとまた同じ事になりますから、ちょっとお行儀が悪いですが、歩きながら頂きましょう」
「……ん!!」
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