第33話
左手の痺れと共に目覚める隆は、先に起きていたマリアと目が合うが、おはようの挨拶ともにマリアは更に密着してくる。
「おはようございます、マリア」
「……ん、……おはよう」
言い終わるとマリアはキスをしてくる、そう、お察しの通り息が続かないディープなやつだった。
「儀式も今日までだと思うと何だか名残惜しいですね?」
「……ん? ……今日から、……夫婦、……毎日する」
「え? 何をですか」
「……一緒、……入浴、……寝る、……キス、……毎日」
「それじゃ、儀式関係ないんじゃ!?」
「……ん、……儀式は、……儀式」
「えぇぇぇ……」
どうやらこれで終わりの訳では無い様だった。
朝食を済ませると今日は区役所に転出届を提出しに行った、後は実家のある市役所に転入届を出せばやる事はほぼ終了だった。
本当は海外転出届なりを出さなければならないのだろうが、実家に事情を説明すれば一応行方不明で事件になる事だけは避けられるのでこれで良しとすることにした。
「さて、今日やる事は終わりましたが、後はどうしましょうか?」
「……ん、……店、……見る?」
「んー、マリアが気に入りそうなものも見て回りましょうか?」
「あと、向こうに持って行くと便利そうな物も探しに行きますか?」
「……ん」
隆とマリアは、電車を乗り継いで海沿いの郊外(と言うか既に隣の県なのだが、)にある超大型ショッピングモールへ向かう事にした。
マリアは車窓に流れる街並みが途切れない事に驚きを隠せないようだった。
「……街、……終わらない」
「あー、日本は……、この国は、国土が小さいのに1億人以上が住んでいるので、街と街の間を荒野にしておく余裕がないのですよ、特にここは首都なので、周りの県と併せると4千万人近くが住んでるのでその傾向が高いです、地方に行けばもうちょっと余裕があるのですが……」
「……ん、……凄い、……多い」
「ですよねー、この世界でもこれだけの人口密集地域は他にないと思いますよ」
海沿いに高架を走る列車の窓から大きな観覧車が見えてきた。
「!?!? ……大きな、……車輪!?」
「あぁ、あれは観覧車と言って、ほら、あの円周に沿ってゴンドラが付いてるんですよ、それに乗ってゆっくり回りながら景色を楽しむ乗り物です」
更に少し進むと某夢の国の城が見えてきた。
「……お城、……ある」
「あれは……、確かにお城ですが、領主が住んでいる訳では無く、遊園地のアトラクションなんですよ、要は偽物です」
そんな話をしながら、電車に揺られること1時間、目的のショッピングモール最寄り駅に到着した。
ここから歩いて20分なのだが、手前の見本市会場でキャンピングカーの展示販売会をやっていたので見てみることにした。
「マリア、こういう自動車は向こうでも使えると思いますか? 例えば街から街への移動などで」
車の内部を見学しながら隆はマリアに聞いてみた。
「……動く家? ……ん、タカーシなら、……可能」
「え? 自分なら、ですか? 他の人はダメ?」
「……細い道、……収納、……必要」
「あぁ、通れない様な細い道もあるのですね、そう云う所を通過するときは収納しちゃえば良い訳か……」
加えて言うなら
「うん、これは1台あったら色々便利ですねー」
「向こうで使う場合、5、6人で使える大きさはないとダメですよね……そうするとこのクラスか……」
隆はグランドクラスと言うマイクロバスくらいの大きさの車をみた、この車、これだけの大きさでありながら、悪路走行も視野に入れた4WD仕様で、最低地上高も高く、ごついタイヤを履いている。
居住部分はエアコン完備の半2階建てでベッドは上の階に8人以上は寝られる広さで用意され、屋根はテントの様に斜めに開くことも可能で圧迫感も緩和される仕組みだ。
下のリビングも簡易ベッドが収納されているので10人ぐらいは生活できる環境が整っている。
下の階は片方の壁に埋め込まれたHD内臓の75インチ4KテレビとDVD&BDプレーヤー、そしてベッドにもなるふかふかのソファーも装備されたリビング、IHキッチン、バスタブ完備のシャワールーム、水洗式トイレが付いていて、水のタンクは床下にうまく収納されており、キッチンでの使用分とは別に、8人がシャワーを15分づつ使える分量のストックが可能になっていた。
最も、水は魔法でいくらでも供給可能なので問題は全くない。
が、一番の問題はそのお値段だった。
「値段は……、ん? 一、十、百、千……1500万円……」
小さな家なら買える値段だった。
「ちょっと、思ったより値段が一桁高かったです……、高すぎて自分にはとても手が出ないものでした……」
項垂れて、マリアに愚痴ってしまった隆だった、それを見てマリアは隆に聞こえるかどうかの小さな声で言った。
「……タカーシ、……作る?」
「!!!!!!」
じっと、キャンピングカーを見つめてみるとピキーン! とくるものがあった。
「出来ます……、けど……、ん? いいのか……な?」
自分で作れば良いことを、完全に忘れていた隆だった。
「う、うん、こちらで使う訳ではないので登録も必要は無いし、いいのか……?」
魔法で複製を作ってはいけないという法律は無かったし、同じ様なキャンピングカーを自分で作る人も確かに存在する。
精霊さんが出入りしている亜空間庫内で大型キャンピングカーを作成してみたら、あっけなく、それはあっさりと出来てしまった。
自動車の構造や細かい仕組みなどは一切知らないのに、こんなに簡単に何でも作成できるこの魔法、今更だが、何か変だった。
多分精霊さん達が何かやってるんだろう? と言う事にして納得している隆だったが、実は精霊たちは神霊であるが故、総ての世界のあらゆる事象を記録していると言われるアーカシャの記録にアクセス出来る為、この世に存在する物であれば何でも、それこそジェット戦闘機や潜水艦、果ては原子炉や原子爆弾まで何でも隆が知らなくとも再現、作成が可能なのだった。
最も、隆はそんな裏の事情を知らないし、使いもしないそんな物騒な物を作ろうと思い立つはずも無いのだが……。
閑話休題、思わず向こうでの移動手段を手に入れてしまった隆とマリアだったが、本来の目的地のショッピングモールへやって来た。
「実は自分も今日初めてここに来たのですが、物凄い広いですね……」
「……ん、……見た事ない、……広さ」
吹き抜けになったモールの通路越しに上階の店舗も延々と続いているのが見える。
通路は弧を描く様に配置されてい居るので先が見通せない分余計に広く感じる様だ。
「まずは、マリアの服を見に行きましょう、ただ、こちらの服は生地がアラクネほど丈夫でないので、気に入ったデザインの服があったらそれをアラクネの糸で作っちゃいましょう」
「……ん、……シルビアのも、……探す」
「えぇ、お土産も用意しましょうね」
二人が先ず向かったのは、女性用下着専門店だった。
「ま、マリアここの品物をこの場でコピーする為にじっと見るのは自分には厳しいです、ハードルが高すぎます! サイズなど細かくあるらしいので、店員さんに任せましょう」
「気に入った物が有れば一枚だけ買って、後でコピーして増やしましょう、ね?」
「……ん」
店に入ってすぐの処にいた店員さんに声を掛けてマリアを任すことにした。
「すみません」
「はい、なんでしょう?」
「えーと、この
「はい、フィッテイングですね? 承ります」
「そうですね、お願いします、自分は外に居ますので、終わったら声を掛けて下さい、会計などは自分がしますので」
「更衣室の中に、お連れ様も休憩できるソファーなどもありますが?」
「!!! すみません、自分は男なんですが……」
「えっ!? こ、こちらこそすみません」
「い、いえいいんです、ちょっと男らしさが足りないのは自覚してます……」
女性に間違われる事は慣れたものだった……、ちょっともの悲しさを感じて佇む隆だった。
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