第29話

「えー! 光ってるし! なんでっ!?」

そのまま、じっくりと見ていると少しずつ光は弱くなりやがて消えてただの扉に戻った。

 隆は無言で恐る恐るドアの取っ手を握りもう一度ゆっくり開いてみた。

 扉の外はやはり廊下だった。

「光っているうちに開けないとダメなのでは?」

「そ、そうかもしれませんね……」

 だが、光ってる扉を開けるというのはなかなか勇気が要るものなのだ。

「というか、なんで光ったんですかね?」

「タカーシ様が何かしていらしたのでは?」

「いえ、自分は色々考えていただけで、特に何もしていませんでした……」

「……精霊たち、……いっぱい、……入って、……行った」

「精霊さん達がやったのですかね?」

「……ん、……多分?」

「何故、そんな事をしたのでしょうか?」

「もしかして、その物語の中に出てきた森の中の扉を再現してくれたとかかな?」

「……そう、……かも?」

「つまり、見本を見せてくれたって事かな? どこ〇もドアの……」

「あっ!? ど〇でもドアを作れば良いのでは!?」

 発想は良かったが、流石に漫画に登場する架空のアイテムまでは作成出来そうに無かった。

「ダメか……、でも、機能だけこの扉に付けるのはどうだろうか? ……うん? あ、なんかいける気が……」

 そう云って隆は扉に手を向け集中して魔力を注ぎ込むと異世界間転移のイメージを送り続けてみた。

 アパートの扉を開けた瞬間に目の前に広がったジャングルの様な森……。

 隆が魔力を注ぎだして暫くするとまた例の魔法陣の様な紋様が扉に現れて明滅と回転を始めた。

 ものすごい量の魔力がその魔法陣に吸い込まれ続けていた、それは初めてシルビア嬢達の前でハンバーガーを出した時の数百倍の魔力集中だった。

 魔法陣は明滅を繰り返しながらどんどん明るくなり空間がひずんで、ズズズズズと云う腹の底に響く音が鳴り続け、あたかも大きな地震の前触れであるかの様相を呈し始めたころ、魔方陣が弾け、扉が虹色に輝きだした。

「せ、成功したみたいです」

 光る扉を見つめて隆が言った。

「では、ちょっと様子を……」

 そう云って恐る恐る取っ手を握りゆっくりと扉を1/3ほど開けてみた。

 扉の向こう側はうっそうとした森が広がり10匹ぐらいのゴブリンがこちらを見ていた。

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました>

 思わずゴブリン達を収納してしまった隆だった。

 何事も無かったかのように、ゆっくりと扉を閉めると、輝いていた光も消えた。

 どうやら扉を開けている間はゲートとしての機能が発動していて、閉めると停止する様だ。

「こちらに来た時のことを考えていたら間違えて、ゲートを森につなげてしまいました、あはははは……」

「はい、こちらからもゴブリン達が見えていました……」

「では、改めまして……」

「タカーシ様魔力は大丈夫ですか? なにやら昨日よりすごい量の魔力を消費されていた様に見えましたが?」

「?? そう云えば、でも全く魔力を消費した感じがしません……??」

 そう、隆は今や、普通の時間が停止した収納亜空間の他に、魔物を収納滅殺する亜空間、更に精霊さんが出入りして色々作っちゃう亜空間と、三つも同時に維持しているのに魔力が減って行く感覚すら感じていないのだ。

 その上で、何でも作成魔法(笑)の数百倍の魔力を消費したにもかかわらず、全く魔力を消費した感覚が無いのは異常だった。

「タカーシ様、ちょっと鑑定をしても良いですか? あれだけ魔力を使ったのに体内の魔力が減っていないのは異常です、減っていて気付いていないだけかもしれません」

「あ、すみません、お願いできますか? そうですよね、なんか変ですよね?」

 差し出されたシルビア嬢の手に自分の手を重ねながら隆が言った。

 シルビア嬢が隆の手を取り呪文を唱えると一瞬隆の手が光ったがすぐに消えた、しかし、シルビア嬢は隆の手を放さず首をかしげている。

「どうかしましたか?」

「マリア様、鑑定しても?」

「……ん」

 マリアの手をもって鑑定を発動したシルビアはちょっと驚いた顔をしたが、納得したように続けて言った。

「マリア様、おめでとうございます、レベル50を超えましたね? 魔力も以前の倍ぐらいになっていますね」

「……ん、……さっき、……上がった」

マルコ達鷹の爪の面々は知らない事だったがマリアは既にレベル40を超えていた、それが先程の戦いで遂に大賢者の域である50に達したのだった。

 シルビア嬢は再度隆の方を振り返り暫く無言であったが、意を決したように言った。

「タカーシ様、ちょっと自分の鑑定が信じられなくなってしまって、マリア様で確認させていただいたのですが、間違い無かったようです」

「タカーシ様のレベルは1000を超えていました、そして、あれだけの魔力を使われたのに、魔力はいささかも減ってはいませんでした……」

「いえ、もしかしたら減っていたのかもしれませんが、全魔力に比べて、あまりに微々たるものだったので、すぐに回復したのかもしれません」

 あのレベルが上がりやすいギフトがあるのに、スタンピードで4万以上の魔物を倒していたのだ、むしろよく1000ぐらいで収まったと言っても良いかもしれない。

「もう、とてもではないですが、何処にもこの件を相談する事が出来なくなりました、いえ、逆にもう何処に話しても大丈夫なのかもしれませんね……」

「誰にもタカーシ様を力づくでどうにかする事は出来ないでしょうし……」

「あはははは…………」

 もう乾いた笑しか出ない隆だった。




 とりあえず、隆のレベルの事は秘密にすると言う事で話が纏まり、転移門の実験を再開することにした。

 今度は間違えない様に、普段通り家に帰ってアパートの扉を開けた時をいイメージして魔力を込めた。

 この魔法も使う魔力は同じでも、派手なエフェクトは一回目だけの様で、時間もさっきより掛からずに、あっけなく扉は虹色に光り出した。

 恐る恐るそーっと開いた扉の向こうにあったのは見慣れたアパートの部屋だった。

「うまく自分の世界と繋がったみたいです……」

「タカーシ様……」

「大丈夫です、あちらの世界に未練はありません」

「ただ、あのままだと行方不明と言う事で事件になってしまうので、そうならない様にしに行くだけです」

「直ぐに戻ってきますが待っていてくれますか?」

「当たり前です! でも本当に直ぐに戻って来てくださいね?」

「はい、長くて1週間、短ければ3日の内には戻ってきますので」

「タカーシ様が戻るまで、この部屋はそのままにしておきます」

 シルビア嬢と軽い抱擁とキスを交わして別れの挨拶に代えた隆は徐に扉の向こうに進んで行った。

 ぱたんと云う音と共に扉が閉まると、光も消え、あとは何事も無かっかの様にただの廊下への扉に戻っていた。

「行ってしまいましたね~」

「ええ、行ってしまわれましたね、マリア様と一緒に」

エレナさんがしんみりと言うとシルビア嬢は今起きた事をそのまま、見たままに言った。

「…………」

「ま、まぁ、マリア様なら何処に行っても大丈夫でしょう、すぐ戻ると言ってましたし……」

「そ、そうですよね~、マリア様のご実家にもそう言っておけば大丈夫ですよね~?」

「…………」

「マリア様!! 戻ってください!! 今すぐ!!」

 聞こえないと知りつつ扉に向けて叫んでしまうほど取り乱してしまったシルビア嬢だった。

「……お父様に相談しましょう」

「はい、お嬢様……」

 二人は急いでまだ、フロンテラ救出作戦で忙しい伯爵の元に向かうのだった。




 玄関の狭い三和土たたきに立ち部屋の電気のスイッチを入れながら隆は呟いた。

「……2日ぶりの我が家だ」

 とてもたった2日間のうちに起きた出来事とは思えない濃い出来事の数々だった。

「まるで夢の様な出来事だったな……」

そういいながら靴を脱ぎ家に上がろうとした隆はふと左下をみて叫んでしまった。

「ま、ま、ま、マリア!!!」

「……ん」

 

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