第27話

 ギルドに到着した一行は、ひとまず2階にあるギルドマスターの執務室に向かった。

「散らかってるが、まぁ、入ってくれ」

「「「「お邪魔します」」」」

 窓際に背を向ける様に書類が満載の執務机が一つ、部屋の中央には5人は掛けられそうなソファーが2脚向かい合わせに、ローテーブルを挟んで設置されていた。

その片方に執務机に近い方からマリア、隆、シルビア嬢、エレナさんの順に座り

反対側の席に鷹の爪の5人がきつそうに座った。

 ギルドマスターは自分の執務椅子に腰かけた。

 最初エレナさんは着席を遠慮したが、エレナさんが座らないと鷹の爪の男性陣の中から誰かがシルビア嬢の隣に座ると判ると、無言でシルビア嬢の横を確保した。

「茶なども出さずに申し訳ないが、用意がないのでかんべんしてくれ」

「で、早速ですが、とりあえず魔石を出して頂けますかな?」

 ギルドマスターの問いに隆は困惑気味に答えた。

「えっと、このテーブルにと言う事でしたら、溢れてしまてしうと思いますが?」

「え? そのテーブル……かなり大きいと思うのだが?」

「すみません、ゴブリンの魔石だけで3万個あります」

「さ、3万!? さっきのあの戦いの分だけでいいのだが?」

「はい、そうですよ? 正確には、3万2547個です、あとはホブゴブリン5630個、オーク3248個、オーガ2562個、そしてバトルベアー1235個です」

「……それだけの数の魔物を先ほどの戦いで倒されたのですかな?」

「倒したのかと言われると、ただ収納しただけなので、微妙な気がしますね……」

「やけに、オークやオーガそれにバトルベアーが少ないと思っていたらタカーシ様が事前に倒していたのですね……」

 マルコが感心したように尋ねてきたので、やっちまったぜ感あふれる照れ笑いで答える隆だった。

「実は、遠くのものが良く見えるスキルが手に入ったので、森から出たばかりの魔物にも効くか試してみたら収納出来たのですよー、だから危なそうなやつだけ事前に間引いてました」

「……タカーシ様、もしかしてスタンピード自体をなかったことに出来たのでは?」

シルビア嬢が聞いて来たが、隆はあいまいに笑ってごまかした。

 出来たか、出来なかったかで言えば、確実に無かったことに出来ただろうが、それでは皆の為にならないと思った隆は、危険そうな魔物だけ間引くことにしたのだった。

 実は隆君、ちゃんと考えて行動していた!

「いや、タカーシ様とマリア嬢のお陰で、被害が少なかったのは判ってましたが、そこまで配慮して頂いていたとは知りませんでした……」

 賢者、大賢者と言われてはいたが、ある程度は皆が大げさに吹聴しているものだと思っていたギルドマスターは、やっと本当の意味で隆が大賢者である事を思い知ったのだった。

 直ぐに魔石を入れられる麻袋を用意してもらい、隆の持っていた魔石はそれに全部収納して一旦金庫に仕舞われることとなった。

 騎士や一般の冒険者たちが倒した(マリアの倒した分も含む)魔物の魔石だけでも2万5000個はあるのに、これに隆の倒した分も含めて市場に出したら確実に魔石の値崩れが起こる。

 スタンピードが起きた事はすぐに知れ渡るだろうから、多少は値が落ちるのは仕方がないが、出来るだけ緩やかになる様に、市場に出す量を調整する必要があった。




 魔石の収支収納処理を終え、一旦休憩を挟んで再度集まった一同にギルドマスターが尋ねた。

「それで、私に見てもらいたい物とは何ですかな?」

「これなんです……、昨日、私が魔の森で彷徨っているときに見つけたのですが、どなたか冒険者の持ち物ではないかと思いまして……」

 そう言って隆が取り出したのは合成弓と、マジックアイテムの矢筒だった。

「この矢筒なんですが、いくら使っても、矢が減りません」

「…………」

 無言で受取り確認していたギルドマスターはもう一度確認する様に尋ねた。

「これを、何処で?、いや、森のどの辺りで?」

「フロンテラに向かう街道に沿った川がありますよね?あの川沿いにそのまま森に入り70kmぐらい奥に入ったところです」

「いや、正確には更に川から離れて北東に4、5km位行ったところですね、残念ながらもう一度行けと言われても正確な場所は全く判らなくなってしまってますが……」

「ふむ、そんなに奥まで進める冒険者はA級以上ですな、しかもその様な場所で武器を捨て置くことは考えられないので、現在行方不明になっている者と言う事になりますが、そうなると10年以上前に魔の森調査で消息を絶った者達だけです……」

「しかし、残念ながらギルドにも当時行方不明になった冒険者がどんな装備をしていたかの記録は残っておりませんので、こちらではに確認する事はできません……」

 何となく歯切れの悪い物言いを不審に思った隆は尋ねた。

「そうですか……、もしかして、ご家族などにお心当たりが?」

「いや、確実にそうだとは言えませんが、もしかしたらと思う者はいます」

「でしたらこれらを預けますので、確認を取って頂いてもよろしいでしょうか? 出来ればお返ししたいと思います」

「よろしいのですか? 10年経っていれば所有権などないも同然、今はタカーシ様の物と言っても差し支えないのですが? もし、売ったとしたら500万ゼックぐらいにはなる代物ですよ?」

「う~ん、はっきり言ってしまうと、多分、持っていても使いません、かと言って、昨日森で拾っただけの自分が売ってしまうのも違う気がします、ご家族なりが居るのであれば、その方の判断に任せるのが妥当かと……」

 そこで隆は言葉を切ったが、それに続けるなら、『それに、もしまた欲しかったら、直ぐに作り出せますし~』と言えたかもしれないが、隆の魔法を良く知らないギルドマスターの前なので黙っていた。

「なるほど、お考え判りました、そう言った事であればお預かりいたします」

 納得したと言わんばかりに何度も頷きながらそう云うと、弓と矢筒を丁寧に布に包んだ。

「もしかして、良く知っている方なのですか?」

 ギルドマスターの表情を見ていた隆はおずおずとそう切り出した。

「ははは、判ってしまいましたか、ええ、多分昔の冒険仲間の物だと思います、レンジャーだったのですが、調査に向かう前に、森で長期に調査するなら絶対に役立つマジックアイテムを手に入れたと言っていましたからね……」

「直ぐに戻ってくると言っていたのに、消息を絶って10年経ってしまったのですがね……」

 いつくしむ様に布越しに弓を撫でながらしんみりとし独り言のように話す禿頭の大男、ギルドマスター『ペペ』だった。




 ギルドマスターの執務室を後にした一行は、ギルドの出入り口まで出てきたのだが、そのタイミングでマルコが隆に小さな革袋を差し出しながら言った。

「タカーシ様、これが預かっていた魔石を換金した代金になります、どうぞお受け取り下さい」

「あー、本当に頂いていいのですか?」

「勿論です、全部で21万ゼック、大金貨1枚小金貨10枚そして大銀貨10枚にしてもらっています」

「無一文だったので助かります、てか随分多くないですか?」

「いえ、ホブゴブリンの魔石だけで5万ゼック、ゴブリンの魔石5000ゼックが32個で16万ゼックです」

「なるほど了解です、ところで、今夜の宿をマルコさん達と同じ『フクロウの止まり木亭』に取る事は出来ますかね?」

「タカーシ様、ちょっとお待ちください……」

 それまで黙っていたシルビア嬢がちょっと怒りながら言った。

「タカーシ様は我が家のお客様です、それをおもてなしせずに、まるでもう用が済んだから追い出すかの様な真似をわたくしやわたくしの家族がするとお思いですか?」

 正しく隆は立場は逆だが、そう言おうと思っていた、もう用は済んだのに居座るなんて図々しいのではないかと。

 しかし先手を取られてしまった為、慌てて否定するしかない隆だった。

「いえいえいえ、シルビア様がそんな事をされるなんて思っていませんでしたが、あまりご迷惑を掛けるのもどうかと思いまして……」

「それこそ在り得ません、お世話になったお客様を迷惑に思うなんて、もし、この場にお父様がいらっしゃったら絶対に言っていたはずです、もしタカーシ様が望むなら一生城に住んで構わないと」

 大げさではなく、確かに言いそうだった。

「それと、もうここは公の場ではありません、シルビアとお呼び下さい、ね?」

 にっこりと微笑むシルビア嬢に隆は何度も謝りながら言うのだった。

「すみません!! すみません!! シルビア、是非ご同行させてください!!」




 そう言った訳で、鷹の爪と別れた隆(+マリア)は自動的にシルビア嬢と城に帰る事となったのだった。

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