第26話
「……終わったようだな」
伯爵は静かになった城門前を見渡して各軍の報告を受けながら言った。
「うむ、終わってみるとあっけないものだ」
ギルドマスターも各所からの報告を受けながら答えた。
「だが、当初の予想をはるかに上回る量の魔物が押し寄せた割に、損害は軽微だったな、重症も落馬による骨折が5名だけ、後は20数名の軽傷者のみだ」
「うちの冒険者たちなど、重傷者なしだぞ、軽症者はそれなりに出たが50名以下だ」
「マリア嬢の威力が上がった魔法も凄かったが、何よりタカーシ様のあの静かな殲滅が効いていたな、おかげで騎馬も定期的に休めたので最後まで戦い抜けた」
「それは確かに、冒険者もしっかり休みながら戦えたので助かっていた様だ」
「で? 最後のシルビア嬢ちゃんと大賢者様のあれはなんだ?」
ギルドマスターが尋ねるも伯爵も知らない攻撃だった。
「いや、わたしも知らん、タカーシ様は基本的に攻撃魔法は扱えないと言っていたから、魔法ではないのだろうが……」
「攻撃魔法が使えない? ではあの音もなく次々と魔物が消える魔法はなんだ? 魔石も残っていなかったらしいが?」
「あー、あれな、収納魔術だそうだ」
伯爵が言うと、ギルドマスターは口を開けたまま暫く
「…………」
「いや、収納って、ん? そう云う物だったか?」
その問いに応えられる者は、残念ながら今この世界には居ないのだった。
「だが、そうか、だから大賢者様なんだな?」
「まぁ、そう言う事だ……」
まだあるが言えない伯爵は、言葉を濁すのだった。
「さて、明日は日の出とともにフロンテラに到着できるように進軍の準備を進めなければな、今日は助かった、褒章に関しては明日以降に相談してくれ」
「おぅ、これも冒険者の義務だからな、魔石の収入があるので通常の褒章はこちらで賄えると思うが、怪我人共の保証がな……」
「だが今回は軽傷者だけだろ?」
「まぁ、そうなんだが……出し過ぎるとあいつらさぼるし、かと言って少ないと本当に困る者が出てくるからな」
「そうだ、魔石の件だが、後でタカーシ様にも尋ねてみろ、多分大量に持っていらっしゃるはずだ」
「そうか判った、それじゃまたな!」
元気よくその場を後にするギルドマスター『ペペ』だった。
損害の報告も終わり、皆引き上げる中、隆の元にはマリア、シルビア嬢とエレナさんが集まっていた。
「マリア、大丈夫ですか?」
「……ん、……疲れた」
隆に寄り掛かるマリアはだいぶ消耗していた。
見るに見かねた隆はマリアに新鮮なリンゴジュースの様な半透明な白いジュースが入ったコップを差し出した。
「マリア、これを飲んでみて下さい、楽になるはずです」
「……ん、……甘い、……冷たい」
それを聞いたエレナさんはしきりに疲れたアピールを始めた。
「私も、お嬢様と一緒に魔法を打っていたので疲れました、ええ、だいぶ疲れているみたいです、ああぁぁ~、疲れました……」
隆の方をチラチラ見ながらふらふらと行ったり来たりしている。
危険だった、おっぱい的な意味でふわふわ揺れている。
それを見て吹き出しそうになりながら隆は言った。
「ぷっふぅ!、エレナさん大丈夫ですよ、ちゃんとシルビア様とエレナさんの分もありますよー」
両手に一杯ずつジュースを出すと二人に渡した。
「「ありがとうございます」」
二人とも、程よく冷えたジュースを美味しそうに飲んでいる。
「これは爽やかな味ですね、ブドウ? 梨? 桃でしょうか? それになにか体の芯から疲れが抜けて行くような感じもします」
「自然な甘さが良いですね、あ、本当に疲れが抜けますねこれ?」
三人とも飲み干して一息ついたところで隆は言った。
「どうでした? それがネクターの木の実のジュースです」
「えっ!? ……お父様の言っていた意味が解りました、これは確かにエリクサーとは別物です、でも……」
「お、お嬢様どうしましょう、飲んじゃいました!! 100万ゼックの飲み物!!」
「あー、お二人とも落ち着いてください、自分が魔法で作った物ですからタダですよ、タダ!」
「どうやって作られたのですか?」
「えっと、収納魔術と何でも作成魔法の応用です、マリアが風魔法と火魔法を合成してたのを見て思いつきましたー」
「まず、亜空間を作って、その中にネクターの木の実とコップを作ります」
「次に、木の実をジュースと搾りかすと種に分けてコップにジュースを灌ぐと完成です」
「…………」
ね? 簡単ですよね? みたいな顔で隆が言うのを聞いていたシルビア嬢とエレナさんは、何かおかしいと思うものの反論は出来なかった。
「……精霊たちの、……仕業?」
「……精霊、……亜空間、……行ってた? ……ん、……行ってた」
「あーなるほど、だから新たに何も無い亜空間を作らないとダメだったんですねー」
隆にも良く判っては居なかった様だった。
精霊さん
しかし、マリアさんは精霊と会話? も出来る人だった様だ、いや、人じゃなくてエルフだった……。
話を聞いて何となく事情を察したシルビア嬢は遠慮がちに言った。
「タカーシ様、それも、出来れば秘匿して頂けると……」
「はい、判ってますよー、皆さんの前でしか使いません、大丈夫です」
自信たっぷりに頷いている隆だったが、そこはかとなく不安が広がる一同だった。
そんな話をしながら城門の上から門前の広場に降りてくると、隆を呼び止める声が聞こえた。
「タカーシ様!」
鷹の爪のメンバー達だった。
「あー、マルコさん、皆さんも、護衛の任務から帰ったばかりなのに、お疲れ様です」
「いえ、緊急招集ですからね、当然の義務です」
「それに、タカーシ様やマリアのお陰で、適度な休憩を取りながら戦えたので、我々冒険者も、重傷者も出ずに怪我人も非常に少なく済みました」
それでも、さすがに連戦はきつかったのだろう何となく疲れが見えた顔をしていたので例のジュースを出して配った。
「それでも、お疲れでしょうからこれを飲んでみて下さい、疲れが取れるんですよー」
「あー、ありがとうございます、タカーシ様の出してくれるものは何でも美味しいから楽しみです」
それぞれお礼を言いながら5人ともコップを手に取ってごくごくと飲み干した。
「おー、これは爽やかな飲み心地の飲み物ですね、ん? 確かに何か体の奥底から力が湧き出る感じもします。」
皆、頷きながら口々に美味しいと言っている。
しかし、一人だけ青い顔をして黙ってしまった者が居た、ダヴィだった。
そう、彼はこの味を知っていた。
「どうした、ダヴィ? 口に合わなかったか?」
そう尋ねるマルコを無視してダヴィは隆に尋ねた。
「た、タカーシ様、こ、これって、ももも、もしや、あ、あああれだったのでは?」
「あ、流石にダヴィさんは気づきましたねー、そうです、あれです」
「ど、どうしたんだダヴィ? 大丈夫か?」
マルコが尋ねると、絶望的な表情でマルコの方に振り返ったダヴィは声を振り絞る様に言った。
「り、リーダー、それがネクターの木の実です……」
当たり前だがダヴィ以外は全員固まって、示し合わせたように手に持っていたコップを落として割った。
隆は、危ないから片しますねー、と笑いながら、割れたコップを収納で片付けながら言った。
「大丈夫ですよ、ほら、今朝作って見せたじゃないですか、魔法で作った偽物ですよー」
それを聞いた鷹の爪の面々は多少落ち着いたようだったが、効果があるのなら偽物も本物もないのだ。
そんなこんなで雑談していると向こうからギルドマスターがやって来るのに気付いたマリアが言った。
「……ぺぺ、……来た」
「マリア嬢、ひどいぞ……、いや、それは良いんだが、タカーシ様、先ほどの戦いで得た魔石を持っていらっしゃると伯爵から聞いたのですが、本当ですか?」
「あ、はい全部一か所に纏めて持ってます」
「出来ましたらそれをギルドに提出して頂きたいのですが」
「あぁ、こう言った特別招集の際に得た利益は参加者全員で均等割りにするのですよ」
マルコが補足してくれた。
「判りました、あ、それと見て頂きたいものがあるのですが一緒にお願いしても宜しいですか?」
「えぇ、勿論です」
「それではギルドの方へ一緒に来ていただけますか?」
「はい、皆さんは……一緒に来ますね」
全員が、当然だと言わんばかりに頷いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます