第25話

 魔物達はそれぞれ動くスピードが違う為、一斉に森から出て来たにもかかわらず、皆で並んで進軍してくる事はなく、足の遅いものと早いものがそれぞれ重なる事で密集している所と、数が少ない所の波を形作りながら襲い掛かって来る。

 従って、こちらも大きな波を蹴散らす事さえ出来れば、整列したまま連続で来られるよりも、ある意味対処はし易かった。




 マリアが大きな波を潰してから暫くは、騎兵と冒険者達で対処できる、小さな波が幾つか続いたが、遂に特大の波がやって来た。

「!! これは多い! 騎兵と冒険者を早く戻せ! タカーシ様お願いします!」

「了解しました」

 隆は見張り台の上から前方に迫りくる魔物の大きな集団を見据えた。

 撤退の角笛の音が響き渡る門前の平地を睥睨する様に、隆は気負いなく立っていた。

 隆は今回の収納の設定を実験的に、時間が停止がしている通常の収納スペースと別に用意していた。

 それは、ここと同じ時間の流れがある生存環境のない亜空間だった。

 つまり収納されてしまうと死んでしまう為、魔物は即座に魔石に変化するという恐ろしい設定『収納滅殺』だった。

 用意が整うと、直ぐに魔物の収納を開始したのだが、その絵面は、一言で言うと、……地味だった。

 隆の収納魔術の特徴として対象を把握している必要がある為、少なくとも全身の半分以上は見えている必要があった。

 したがって次々やってくる魔物の内、一番前列とその後ろ位に居る者から順に収納されることになるのだが、次々収納されてゆく様は、ある一定距離に差し掛かると魔物がただ消える為、まるでそこまでしか魔物が進まなくなっている様にしか見えなかった。

 そして、収納魔術は音も光も出ないので本当に地味としか言いようのない光景だった。

 だがしかし、これ、隆の中ではとんでもない事が起こっていた。

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

<ピロリロリンッ♪><レベルが上がりました。>

 既にレベルは100を超えていたが、まだまだ、簡単にレベルは上がり続けたのだった。

 その魔物の波は5000匹以上を数え、30分ほど続いたが、やがて収束していった。




 上から見ている分には隆の魔術は地味な、派手さの無い術に見えるが、下で戦っていた者たちにとっては大きな違いがあった。

「隊長、タカーシ様の魔法凄いですね、魔物達、全く抜けて来ませんね」

 エルシドに尋ねたのは先程エルシドと一緒に隆の剣を授かった副官の一人だった。

「ああ、タカーシ様なら間違いないだろう、今のうちにみんなしっかり休んでおく様に」

「はい、しかし、隊長、この剣ですが、物凄いですよね!、私の力量でも、オークも、オーガすらも一太刀で相手の武器ごと真っ二つですよ?、しかも刃毀れすらしない!、流石は宝剣ですね!」

「ばかもの、声が大きいぞ!」

 しまったと言った顔をした副官は慌てて謝った。

「す、すみません、嬉しくてつい」

「その、ついが命取りになる場合もあるのだ、タカーシ様に害意を向ける者が現れたらどうするつもりだ、気を付けるのだぞ?」

「だが、お前の気持ちも判らんでも無い、本当に気持ち良く切れるからな」

 言いながら自分の剣を引き抜くエルシドだった。

 刀身はミスリルとアダマンタイトが幾重にも重なった文様が美しい、そしてこの剣、国宝をコピーしただけに秘密があった。

 魔力を通すと刀身が1.5倍に延びるのだ。

 馬上から敵を切り捨てながら進むのにはこれ以上ない機能だった。

「こんな素晴らしい剣を与えて下さったのだ、ご迷惑を掛ける事だけはしない様に気を付けなければな」

「全くですね」

 そんな話をしているとそろそろ魔物もまばらになってきた。

「さぁ、我々の仕事の時間だ、準備しろ!」

 再びまばらになった魔物の中に駆け込んでゆく騎兵たちだった。




 マリアと交互にそんな事を3回ほど繰り返すと、とうとうスタンピードも終息が見えてきた。

 小さな集団がまばらにやって来るだけになって来たのだ、ただし、集団の中には必ず大型のバトルベアーが2、3匹混ざっている為、騎兵たちでも足止めされるケースが増えていた。

 最初は、バトルベアーだけを間引く形で『収納滅殺』していた隆だが、それでは魔物の足を止められないことに気付いた。

 もともと魔物達は仲間として集団で行動していた訳では無いので、バトルベアーが居なくなったからと言って動揺する訳でも無く、そのまま進撃してくるのだった。

 かと言ってその小さい、と言っても2、300匹は居る、集団を全部収納するまで時間を掛けていると、その間にすり抜けて城壁までたどり着く魔物の集団が出てきてしまう。

 壁に取り付かれる前にかろうじて城壁の上に並んだ魔法使いたちが対処してはいたが、いかんせん魔物の集団の数が多い。

 マリアは既に魔力を使い切っており、また、どちらにせよ、乱戦状態に近い為、危険すぎて先程の様な魔法は使えなかった。

 シルビア嬢も青い炎のファイアーアローを打ち続けているが一度に数体を倒すのがやっとで、やはり足止めの役には立っていなかった。

 あまり、高威力ではなく、しかし集まっている魔物を散らす攻撃が必要だった。

「シルビア様」

 隆が呼びかけるとシルビア嬢はにっこり笑ったが返事は無かった。

「シルビア様、公の場で呼び捨ては勘弁してください」

 ため息と伴にシルビア嬢は答えた。

「仕方がありませんね、どうされました?」

「これから自分が水球を魔物の集団の上に作るのでそれをファイアーアローで撃ってもらえませんか?」

「水球をですか? やってみましょう」

 騎士も冒険者も対処してない魔物の集団を見つけ頭上ギリギリのところに水球を

 呼び出してみた。

 そこにシルビア嬢の青いファイアーアローがぶつかるとボフンッ!という音と共に水球が弾けたが、直下にいた魔物が倒れただけだった。

「う~ん、水蒸気爆発を狙ってみたのですが水だけじゃダメみたいですね、圧力が足りないのかな?」

「では次はガソリンの入ったポリタンクで行ってみましょう、あの集団で行きますね」

「判りました」

 シルビア嬢は水蒸気爆発やガソリンが何かは知らなかったが、言われた通り現れた20ℓのガソリン入りポリタンクにファイアーアローを叩き込んだ。

 瞬間、ドーン!という腹の底まで響く爆発音と炎の柱が上がり半径5m位の中にいた魔物は文字通り吹き飛んでしまった。

 そしてその周囲にいた魔物は火傷を負ってパニック状態に陥り、辺りの魔物を巻き込んで逃げ惑った。

 あっけにとられた顔をした周囲の人々をよそにうんうんと頷きながら隆が言った。

「うん、あの位なら騎士や冒険者に大きな被害を出さずに、うまく魔物を散らせますね、音はちょっとうるさいですが」

「タカーシ様……、いえ、なんでもありません、まだ続けられますか?」

「ええ、出来るだけ散らしましょう」

 次々と標的を定めてはガソリン爆弾を降らして行く隆とシルビア嬢だった。




 陽が傾いて来た夕刻に近い時間になって、騎士達と城壁の上の魔法使いも含む冒険者達の働きで、そして、なにより隆とシルビア嬢のガソリン爆弾のお陰で大方の魔物の掃討は終わった。

 逃げ散った魔物達も東門と西門から北上してきた各1000騎の騎士たちによりほぼ殲滅されており、後はフロンテラへの救援のみとなったのだが、これから向かうと夜になる為こちらが不利になる。

 救援は明日の早朝日が昇る前に1000騎のみが向かう事となったのだった。

 

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